支持率は急降下しているが政権交代はなさそうだ。このため岸田総理の嘘に躊躇がなくなってきた。統一教会の幹部と面会したという写真が出てきたが「認識していなければ会ったことにはならない」と開き直っている。
トップに規範意識がなくなると当然組織は混乱する。年末に向けて国民負担増の話が出てきているが世論の関心はとてもそこまで及びそうにない。異次元の少子化対策も結局は「差引して微増」という程度に収まりそうだ。経済対策以外にも憲法改正議論や日米安保などの懸案事項は多岐に渡っているがどれも落とし所のない議論になっている。
道徳の教科書は「嘘はいけないことだ」と教えるがその理由までは説明してくれない。だが実際に嘘が罷り通る国会の議論が人々の暮らしにどんな影響を与えるのかを見ればその恐ろしさが良くわかる。
統一教会の幹部と岸田政調会長(当時)の写真が朝日新聞に公開された。統一教会側も面会の事実を認めている上に、写真があるということは会ったことになるのだが、岸田総理は「認識していなければ会ったことにはならない」と言っている。支持率は低下し続けているが政権交代にまではつながらないという状態なのでもはや「なんでもあり」なのだろう。そもそも「もともと安倍総理が忙しいので代わりに会っただけ」ということのようなので、そもそもなぜ会っていないと強弁し続けるのかがよくわからない。
トップに規範意識がなくなるとどうなるのか。組織の議論も規範意識を失い「なんでもあり」になってしまう。国民の多くが物価高で余裕をなくしたと考えているのだからまずはトップを変えて正常化を図るべきだが、なんでもありになった今の自民党に自浄作用を期待するのは難しいようだ。こうなると検察と世論という炎にさらされ「なるようにしかならない」ということになる。
まず政治資金規制法の問題だが自民党の問題ではなく派閥の問題に矮小化されているうえに「そもそもルールが問題なのだからそれを変えてはどうか」という話がで始めた。責任政党として自分達が規範を示すべきだという意識はもはや存在しない。
安倍派は13日以降「タダでは済まない」ことになりそうだ。秘書と事務総長経験者に話を聞いている。松野官房長官と西村経済産業大臣が該当するが松野さんは「そんな話は聞いていない」と否定しているという。茂木派の事務総長は「ウチは大丈夫だったみたいです」と何故か誇らしげである。
ルール変更の提案も出てきた。現在の政治資金規正法は「後でわからなくなるといけないので記録はしておいてくださいね」程度の内容である。これさえ守れない。そしてそれを提案しているのが当事者である松野官房長官という無軌道ぶりである。
国民には電子帳簿をつけさせている。脱税は一切まかりならんという決まりだ。だが決まりを作っている人たちが「記録もまともにつけられない」という状態になっており守れないなら決まりを変えればいいじゃないかという議論が出てきたということになる。8日に集中審議が行われるが「問題が起きたのはきまりのせいである」と考える自民党の議員たちがどこまで問題を深刻に受け止めているかは不透明である。
パーティー券の問題がメディアを占拠すると当然負担増に関する報道は後回しになる。2026年から少子化対策費を徴収することになりそうだ。非課税世帯には高齢者が多いと言われているため主に現役世代からとって現役世代に返すということになる。また、高校生がいる家庭の負担は「実質的にマイナスにならないように」調整する。
あちらからとってこちらに回すという方式で議論が進んでいるため、当初の「異次元」という規模ではなくなりつつある。こちらも「なぜ少子化対策が大切なのか」という規範意識が失われたことで起きている混乱と言えるだろう。
高齢者の医療負担問題では「金融資産を加味する」ことになりそうだ。マイナンバーを使って金融資産を把握できるようになりつつあるためそれを利用しようということなのだろう。
現役世代の安倍政権への期待は「安倍総理は現役世代の味方で社会を改革しようとしている」という見込みに支えられていたものと思われる。岸田政権の不人気にはいくつかの理由があるのだろうが、この改革幻想への裏切りは支持率低下の大きな要因になっているはずだ。
安倍政権は「総理は改革に前向きだが民主党などの抵抗勢力がそれを邪魔している」という図式で改革が進まないことを説明してきた。何もやらないことで本来は矛盾する現役世代と被支援高齢世代の間のバランスをとってきたといえるだろう。岸田総理は改革を進めてしまったことで結果的にこのレガシーを破壊してしまったのだが、おそらく自分が何を破壊してしまったのかを理解していない。
このことがわかるのが憲法改正議論だ。岸田総理は憲法改正が「保守派」を惹きつけると考えており自民党の憲法改正実現本部に号令をかけた。ただしどの条文を変えるのかには触れていない。とにかく憲法改正を主導すれば保守派がなびくという程度に認識しかない。自民党の中には憲法改正を政局利用されたくない人たちがいて抵抗感を示している。憲法改正議論を進めている主流派は岸田総理の泥舟に乗って一緒に沈みたくないと考える人が少なくない。
おそらく岸田総理の憲法改正提案は保守派と呼ばれる人たちを惹きつけることにはならないだろう。保守派の期待は「失われた日本の優位性を憲法改正によって取り戻す」という「盗まれた尊厳意識」が動機になっている。負担の議論では岸田総理はその要求に応えていない。また憲法改正が保守派の支持を得るためにはそれが具体的な条文に結びついていなければならない。具体的に言えば「日本を再び強く勇ましくする」という提案だ。
仮に安倍氏の後継者たちがそれに気がついていれば憲法改正議論は現役世代の主導で前に進んだかもしれない。だが後継者たちもそのことには気がついていないようだ。萩生田政調会長は地方に「憲法改正議論に参加するように」と呼びかけた。この時に「一票の格差」問題を取り上げている。基本的に高齢者中心になった地方に有利になる仕組みなのだから「改革」ではなくなってしまうのだが萩生田さんはおそらくそれに気がついていない。さらに言えば安倍派がパーティー券問題で揺れている間、萩生田政調会長がこの議論を主導することは難しいだろう。
さらに日米同盟にも目に見えない小さなヒビが入っている。エマニュエル駐日大使は韓国での状況などを考慮し「軍の透明化」を意識した発言をおこなっている。だが実際にはオスプレイは100回以上も離着陸が確認されており、結果的にエマニュエル駐日大使の約束は果たされていない。日本政府は軍に遠慮しているため、軍も「どうせ日本は大して抵抗しないだろう」と考えているのだろう。結果的に偶発的な事故の危険は高まる。
日本がアメリカを非難しないのは「所詮は守ってもらっているのだからあまり強いことを言ってアメリカを刺激したくない」という気持ちがあるからだろう。沖縄が負担している限り本土の負担は少ないままでいいという気持ちである。こうした消極的なマインドセットに支えられた日本人は韓国有事や台湾有事で共同して周辺国を支えるという気持ちにはならないだろう。エマニュエル駐日大使は「日米韓の利益は共通している」と言い続けているが、おそらくこの言葉が日本人に響くことはない
さらにこの問題は日本はアメリカと一体となって中国に力強く対峙するという安倍総理が喧伝してきた物語を破壊する。日本政府は米軍と意思疎通できていないし米軍も日本政府の意向を気にしていない。
日米同盟に亀裂が入るのは本土で何か重大な事故が起きた時か急激な支出の増加を伴う有事が韓半島・台湾で発生した時ということになる。「外交の岸田」政権が危機に全く対処できていないというこの無力さは実務上の危機ももたらすのだが無党派層に与える影響も実は小さくないはずだ。
政府は「何が良くて何がいけないのか」という規範を示すことができなくなっており、その結果としてさまざまな議論が錯綜し始めている。もちろん経済対策が進まないことも問題なのだが、少子化対策のような未来投資も全く進展していない。さらに日米同盟にも見逃せない日々が入っている。これまで時間をかけて構築されてきた保守に向けた「物語」が崩壊しつつある。
「総理が嘘をついている」などというと「一国の総理大臣にそんなことを言うべきではない」と言う批判も出るだろう。だが、それでも「あれは嘘だ」と言う認識から進めないとそれ以降の議論が一切できないというのもまた事実なのではないかと思う。いずれにせよ国会が終了してから年末にかけて国政が「制御不能な炎上」状態に入るのは間違いがないようである。こうなると後は「今年の汚れが今年のうちに」清算されることを願うばかりだ。