事件名がないので「パーティー券疑獄」という仮名をつけた。安倍派はかなり収拾がつかない事態に陥っているが二階派にも騒ぎが広がっている。二階派はきちんと収支報告書に載せていたという報道がある一方で個人で多くの寄付を集めている議員が複数いる。そちらからのお金の流れも問題になりそうだ。
今回の特徴は世論があまり問題を重要視していないという点にある。橋下徹氏が「これは脱税なのですよ」という説明をしている。国民は政治に清廉さを期待しなくなり「自分達と比べてズルい」という感情を引き出さないと関心を持たないということがよくわかっているのだろう。
政局的に利用したいという人の動きも出ている。現在の安倍派は5人組均衡状態だ。これまで集金取りまとめに関わったことがない世耕弘成参院幹事長が全容解明に名乗りを挙げている。既に伝えたように石破茂氏も「説明できないなら派閥などなくなってしまえばいい」などと提言する。石破氏にも自派閥がなく危機管理内閣の首班候補者の一人だ。
とにかく関連する人が多いため特捜部は人員を拡大している模様。「あの」読売新聞が伝えているため「いよいよこれはおおごとになるのだろう」と感じる人たちも多いようだ。
当初「大規模な政治資金不記載問題」だと思われていた。だが読売新聞が「安倍派10人以上が裏金化か…東京地検は自民数十人から聴取検討、応援検事を集め態勢拡充」と書くように、とにかく関連する議員が多いため特措部は各地から応援検事をかき集めて対応している。検察は「今年の事件は今年のうちに」という傾向が強いが、そうも言っていられなくなったようである。
今のところ目立っているのは安倍派と二階派だ。領袖がいなくなり集団指導体制をとっている安倍派には責任を持って問題に対処できる人がいないようだ。細田博之前衆議院議長が旧統一教会の問題をきちんと総括していればこのようなおおごとにはなっていなかったのだろう。細田さんが旧統一教会の問題を説明できなかった理由もわかる。ただ、透明性を持った説明をしていたら今頃派閥は崩壊していたのかもしれない。仮に細田さんがこの問題を誰にも引き継がずに亡くなってしまったとすると、本当に誰も全容を把握していない可能性がある。安倍派は戦々恐々(せんせんきょうきょう)だろう。
二階派(志帥会)にも疑惑が広がっているとされているがキックバックはあったものの記載はされていたようだとする報道がある。
ただしこちらは別の問題を抱えている。診療報酬改定を目前にして自見英子氏が寄付を多く集めている。静岡新聞(データそのものは地方紙に広く配信されているようだ)によると2022年の特定パーティー収入は自見英子、武田良太、岸田文雄、西村康稔、茂木敏充の順になっている。武田さんは二階派の取りまとめをしており、西村さんは経済産業に強い安倍派の重鎮だ。さらに、茂木敏充さんは茂木派(旧竹下派)の領袖なのだから自見さんの突出ぶりがわかる。二位の武田さんも含めると二階派はかなりの資金を集めている。
「一人の議員がそんなに集めてどうするの?」という疑問もある。そもそも自見さんは医師会お抱え議員なのだから選挙にはそれほどお金が必要ない。つまり、自見さんから誰かに分配しなければ単に貯金通帳が膨らむだけになる。自見さんのひまわり会には何件か不記載事例が確認されているが「億」という単位に比べると軽微なものだ。今後検察が「出口」の調査を始めれば色々出てくるのだろうが「入口」でこれだけ大騒ぎになっていることから全容解明が進むかには若干の不安もある。
今回の問題は「派閥がお金を集めて議員に配っていた(らしい)」という問題と、議員個人がお金を集めて派閥に回していた(らしい)」という二つの問題がある。今主に話題になっているのは派閥のお金がそれぞれの議員に回っていたというケースだ。
医療関係と診療報酬をめぐっては過去に「日歯連事件」という疑獄事件が起きている。1億円の不記載が問題になり多数が贈収賄で逮捕されたという事件である。この時の経験を踏まえて形式的には記載しておこうと考える派閥と安倍派のようにそれが崩れてしまった派閥があるということはわかる。
世論の反応を見る限り「政治家は清廉潔白でなければならない」と考える人は減っているようだ。岸田派になって政治が悪くなったと感じる人は安倍派の巻き戻しに期待していたことだろう。だが蓋を開けてみると真っ先に狙われたのは安倍派だった。このため「安倍派が悪く言われる」事件にはSNSの関心は向きにくい。
また、現役世代の反応は「将来の負担増」と「現役世代が政治から無視されている」点にばかり集まっており、逆に高齢世帯は「自分達の社会保障が減らされる」ことにしか関心がない。橋下徹氏などは「これは脱税なのですよ」とわかりやすく言い換えて世論を喚起しようとしている。逆にここまで言わないと政治資金の問題には関心が集まらない。昭和と令和の違いを感じる。
安倍派は現在集団指導体制をとっている。西村、松野両氏は事務総長を経験しており、現在の事務総長は高木さんだ。松野氏は政府の代表として国民に説明をする官房長官だがそもそも「疑獄」の当事者になってしまっている。時事通信は次のように書く。
この間の事務総長は、松野氏が19年9月から21年10月まで、その後西村康稔経済産業相が22年8月まで、高木毅自民党国対委員長が現在まで務める。
こうなると浮かび上がるのが萩生田政調会長と世耕弘成参院幹事長だ。世耕さんは「私が全容解明をする」と意気込みを見せている。また石破元幹事長も「説明責任が果たせないなら派閥など無くなってしまえばいい」と言っている。一時は総理大臣を目指して自派閥を立ち上げたものの現在は派閥は維持していない。
仮に自民党以外の政権政党候補があればおそらく「自民党はもうダメだ」ということになっていたのだろうが、立憲民主党には支持が集まっておらず、維新も万博問題を抱える。国民民主党に至っては分党騒ぎが起きており「議席を返せ、いや返さない」とか「政党助成金目当てだろう」というような批判の応酬となっている。
こうなると世耕氏や石破氏にとっては「美味しい局面」かもしれない。かつて小泉純一郎氏が「自民党をぶっ潰す」として国民から熱狂的に受け入れられたのと同じ構図を演出することができる状態が生まれている。国民も新しい政党を探すという面倒なことをやらなくても済むため「渡りに船」ということになるかもしれない。
岸田総理も「自民党をぶっ潰します」として支持率を回復するチャンスがあったはずだが、今のところ説明を回避し続けている。政局のカンはあまり働かない人なのだろうなあという気がする。