しんぶん赤旗がきっかけになって発覚した自民党の「政治と金の問題」が新しい展開を迎えている。一般の予想を超えたスピードで展開しており少し怖さも感じるようになってきた。検察主導でゲームが進んでいるからだ。検察はかつて黒川検事総長問題で安倍総理に人事に手を突っ込まれた経緯があり純粋に政治環境の浄化に向けた動きなのかという疑念も感じるが、いずれにせよ政権の今後は検察の捜査次第という状況になっている。
最初のきっかけはしんぶん赤旗の取材だった。これについてしんぶん赤旗が専門家に意見を聞きに行ったところ上脇博之(ひろし)教授がこの件は自分が調べますということになり告発が進んでいる。ただ上脇さんが見つけたのは4,000万円程度の不記載問題である。形式的な違反と言ってしまえばそれまでである。
この件について文春は置いてゆかれていると思われたのだがついに参戦した。ターゲットは安倍派ということになっている。
《派閥パーティ問題》安倍派パーティ券大口購入者の3割以上が“萩生田の舎弟”池田佳隆元文科副大臣の支援企業だった 「彼は異常なほどパー券を捌いている」
薗浦健太郎衆議院議員がこれで3年間の公民権停止を受けていることから捜査対象になった派閥や議員たちが戦々恐々としているのではと言われていた。
特にこれで揺れているのが安倍派だ。塩谷立座長は一時「キックバックがあった」と認めたが、その後発言を修正した。時事通信に「認めた」と「一時認めた」という二つの記事があるが「一時認めた」の方がタイムスタンプが遅い。ただしその修正も弱々しいもので「調べてみないとわからない」に留まっている。申し開きができるかを内部で検討しないと断言はできないのだろう。
払い戻した金が、報告書などに記載されない「裏金」になっているか問われると、「しっかりと中身を見てみないと分からない」と述べるにとどめた。「派として内容をしっかり把握する必要がある」とも話した。
この件に関してのメディア報道は抑制的だ。
安倍政権時代にも色々な政治スキャンダルはあったが検察が動くことは少なかった。つまり具体的に立件されるまで「疑惑」を伝えても無駄になってしまうかもしれないと抑制しているのだ。
だが今回は動きが違っている。むしろ検察の方が積極的に仕掛けているように思える。
例えば、TBSのスペシャルコメンテータ星浩氏がまるで不規則発言のように番組の文脈とは関係なく「もっと大きな広がりのある事件があるようだ」と発言する。そしてその数日後に5派閥にパーティー券不記載の問題が見つかった。
今回も同様だった。東京地検特捜部にいた経験のある若狭勝氏が「この程度の規模で東京地検特捜部が動いているとは思えない」と発言した翌日に文春報道があり「どうやら東京地検特捜部が狙っているのは安倍派らしい」という報道が出てきた。
若狭さんの情報源がどこにあるのかは誰もが知っている。つまり検察が積極的に動いているという政治へのシグナルになる。
安倍政権時代と岸田政権時代の何が違うのか。
2つのことがわかる。安倍政権時代にはメディアに対して報道を抑制する「積極的な働きかけ」があったようだ。菅官房長官が政権運営に携わらなくなるとこの傾向がなくなった。残ったのはジャニーズ問題と同じ「政権批判はなんとなく厄介だ、先輩たちも苦労していた」という内部抑制のマインドセットだけである。
次の違いが黒川検事総長事件である。政権に近いとされる黒川氏が検察内部の希望を無視して引き立てられたあとスキャンダルで辞任に追い込まれたという問題である。この時に政権はかなり無理な定年延長操作をしている。本命だった候補者は名古屋に配属になっており検察内部にはかなりの不満が溜まっていたものと思われる。結局、黒川氏が記者たちと賭け麻雀をしていたという本来露見するはずもないリーク記事が出たことで辞任に追い込まれた。結局「名古屋に飛ばされた」人が検事総長になり(検察から見れば)人事が正常化されたという経緯がある。
「人事に手を突っ込むと後で痛いことになりますよ」ということなのかもしれない。
岸田総理はこの問題を「自民党問題」ではなく「各派閥・政治団体の問題」にしてしまいたいようだ。なぜか国会答弁では「私の派閥については把握している」という答弁を繰り返していた。
東京地検特捜部は「アメリカの手先」であり「アメリカの意向に逆らった政権を潰すために存在する」などと言われることがある。だが安倍政権はアメリカの意向をかなり気にしており、バイデン大統領に防衛費増額を誓った岸田総理もアメリカの意向を気にして政策を組み立てている。むしろ防衛費増額は支持率低下の原因となっているのだから、支持率を無視してアメリカに貢献している。
今回の件で「特捜部アメリカ陰謀説」は消えたのではないかと思う。
今回の件がどの程度広がるのかは誰にもわからない。だが、いずれにせよ派閥の勢力に大きな影響が出るのではないかと思う。有権者の「政治と金」の問題に対する興味はそれほど高くない印象だが「政局」という意味ではかなりインパクトのある事件になりつつある。