先日のエントリーで「なぜ大阪関西万博の費用の全体像を説明できないのか」と書いたが、その理由がわかってきた。実は関連予算を含めると何兆円にもなるというような意味のことを田崎史郎氏が複数の情報バラエティ番組で述べていた。田崎氏の表情はあくまでもにこやかなもので「秘密を暴露しました」というような様子ではない。
実は万博を口実にしたインフラ整備が進んでおりその予算を含めると巨額の財政支出が明らかになってしまう。ただそれは以前からよく知られていたことであって秘密でもなんでもない。
国会でも質問が出たようだが、自見担当大臣は「どのような切り分けにするのか検討します」と答弁している。これまでできるだけ大きく見せようとしてきたものを小さく見せるためにおそらく舞台裏では大慌てで作業が進んでいるのではないかと思う。映画でいうとプロデューサの意見でシナリオが変わりスタッフがドタバタと作業しているような状態になっているのかも知れない。
国会では補正予算の審議が終わった。岸田総理は最後まで国民の負担増について語ることはなく「とにかく賃上げさえ起これば全ては解決するのだ」という姿勢を貫いていた。賃上げがなかったときのプランBはなさそうだ。総理の言う「全ての政策」とは経済界や労働界に一生懸命お願いをし定額減税で「官の覚悟を示し」法人税減税を調整する程度の話である。ゆとりをなくした国民は節約志向を強めており経営難に苦しむ中小零細が「政治家の覚悟」に追随するかは微妙な情勢だ。
急速に生活実感が悪化しているのに政府は何もしてくれないという気持ちが積み上がる中で最後に出てきたのが万博問題だった。補正予算の中に関連予算809億円が盛り込まれたという理由で維新は補正予算案に賛成した。つまり、自公政権の維新対策という側面がある。809億円で賛成が買えるのだから岸田政権としては安い買い物だっただろう。だが「国民生活がこんなに大変なのにお祭りなんですか?」という反発もまた積み上がっている。
自見大臣の「350億円ひよけ発言」で炎上し、さらに840億円弱の関連費用が盛り込まれていないことがわかった。おそらく国民は「さらに予算が膨らみ続けるのでは」という恐怖心を持ちこの話題に注目しているのではないかと思う。シナリオが徐々に変わりつつある。
松野官房長官は「関連予算を全て洗い出すことができないか検討する」として断言を避けていた。きちんと説明すれば炎上は防げるのになぜ説明を避けるのだろうかと感じたがその理由はわからないままだった。
1日経ってみてその理由がわかった。実は既に関連予算は1兆円近くになるという試算があると立憲民主党の杉尾秀哉議員が質問をしている。自見大臣は「どのように切り分けるか検討します」と言っている。発言はこれだけなのだがおそらく舞台裏は大騒ぎになっているはずだ。
「インフラなども万博関係の切り分けが可能か調整中だ。できるだけ早急に示すことができるよう、作業を加速したい」と述べた。
少子高齢化が進む中インフラの整備に予算をつけるのが難しくなりつつある。このために利用されるのがイベントだ。大阪ではIR整備も進んでいることから、IRを誘致するために大阪湾岸を有利に造成したい。そのために万博が利用されている。国土交通省のウェブサイトには会場周辺のインフラとして道路、鉄道、物流の整備事業が列挙されている。つまりこれは密約でもなんでもなく既に発表されている数字だ。
維新の影響力が増す中で自民党・公明党政権はできれば維新を味方につけておきたい。このため「維新の政策実現のために最大限協力をしていますよ」という姿勢を見せておきたかったのだろう。つまりインフラ整備の費用を大きく見せたいという気持ちがあったはずだ。
ところが蓋を開けてみると万博の評判は悪化の一途を辿っている。まず円安で資源が高騰し、建築の作業員も足りない。さらに事務局の対応も杜撰でついには撤退する国もで始めた。むしろ世論調査をすると7割の人が「やらなくてもいいのではないか」と言っている。こうなると逆に費用をできるだけ小さく見せたいという欲求が生じる。
いずれにせよ既に政治に詳しい人たちの中ではよく知られていたのだろう。田崎史郎氏は「そんなのは当たり前ですよね」という感覚だったのかもしれない。そこで、全部を並べると「兆」になりますよね、と発言したのではないかと思う。
何百億円という話をしているのにいきなり「兆」の単位の話が出てきた。おそらく驚いたのは周囲の人たちの方だろう。このため、この田崎発言について取り上げているメディアは皆無だ。あまりにもびっくりしたのか思考がついてゆけなかったのか質問も出ていなかった。
これはパーティー券の不記載問題にも言える。田崎史郎氏はかなり深刻な問題だと考えているようだ。東京地検特捜部経験のある若狭勝氏も「検察がこの程度のことで捜査に乗り出すことはないだろうから」としてさらに問題が大きくなるだろうとの見解を示しているが、むしろマスコミの方がついてゆけていない印象がある。かなり強い正常性バイアスが働いている。
今後の注目点は政府がどのようにして「予算を切り分けるか」だろう。これまで政治的動機で大きく見せてきたものを今度は縮小させなければならない。いわばプチ歴史改竄作業が必要になる。今頃大慌てで「作業が進んでいる」のではないか。なるほど政治というのは大変なものだなあと感じる。
毎日新聞の調査によると18歳の7割が万博に賛成なのだという。大人たちは高度経済成長時代を知っているのでその時代の思い出を語っていればよい。だが今の世代にはそのような夢のある体験がない。「日本は縮小してゆくのだから更なるインフラ整備など必要ない」という議論には反発が生まれるのだろう。だが1960・1970年代には老朽化するインフラの再整備にいくらお金がかかるのかという議論はなかった。やはり本当に使うかわからないインフラ整備よりも老朽化対策を優先した方がいいのではないかという気がする。
Comments
“大阪関西万博の関連費用は「兆円単位」になる可能性 田崎史郎氏がニコニコと説明” への2件のフィードバック
「毎日新聞の調査によると18歳の7割が万博に賛成なのだという。」これ、かなり操作したうえでの数字っつー意見がツイッタで結構流れてましたぜ。
そうなんですか。どう操作されていたのでしょうか? 気になりますね。コメントありがとうございました。