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ヨーロッパは積極財政支出で国民救済を目指す なぜ、岸田総理にはそれができないのか

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リシ・スナク首相の保守党の支持率がわずかに回復した。減税政策が要因になったとロイターが分析している。ドイツではリントナー財務大臣の「屈辱的な妥協」で債務ブレーキを4年連続緩めることが決まった。こちらも国民生活を支える意味合いがある。ヨーロッパの比較的恵まれた国も経済はかなり難しい状況にあるようだ。おそらく同じことが日本にも言える。日銀の調査を見る限り「ゆとりがなくなった」と感じる人が増えている。

ところがイギリスやドイツでてきていることが日本でははできていない。「増税メガネの上に減税メガネ」などと指摘されている通り何をやろうとしているのかが全く見えてこない。国民の願いは非常にささやかなものだ。普段の生活にちょっとしたゆとりが欲しい。ところが岸田総理はその期待に応えられない。なぜなのかを考えてみた。

結論はちょっと意外なものだった。「新しいおもちゃを片付けてから次のおもちゃで遊ぼうね」という程度の話である。とても政策批判ができるような状況ではないのだ。

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リシ・スナク首相の保守党の支持率がわずかに上昇した。21%から25%と軽微なものだが、減税提案が国民に響いたものと考えられている。とはいえ労働党に大きく水をあけられおり保守党の未来は依然暗い。

ドイツでは債務ブレーキを4年連続で停止する。1948年に設立された自由民主党のリントナー党首兼財務大臣にとっては屈辱的な妥協だったと言われているが、おそらく今のドイツには必要な決断だったのだろう。

ドイツとイギリスという比較的裕福な国にもコストプッシュ型のインフレが押し寄せており、政府は財政支出を増やして国民生活を支える局面に差し掛かっている。産業構造は高度だがエネルギー資源にあまり恵まれないという交易条件は日本と非常に似ている。つまり、日本で必要な対策もおそらくは「デフレからの脱却」ではなく目の前のインフレ対策だろう。政策資源を集中投入して国民生活を支えるべきだ。

岸田総理が決断できない理由の一つはそもそも「新しい資本主義」が政策の寄せ集めに過ぎず、さらに総合的な状況判断をしている人が誰もいないからなのだろう。岸田総理の資質に加え各省庁がバラバラに縄張り争いをやっている点も問題だ。つまりトップが真空になるとそれぞれの派閥や省庁などのムラが勝手に政策資源を溜め込んでしまうのが日本の特徴といえる。

イギリスとドイツの普段の財政規律も厳しさも思い切った資源投入ができる要因の一つだろう。普段厳しい財政規律を持っているからこそ「いざという時に思い切ったことができるのだ」とも言える。

例えば、イギリスは一度場当たり的な減税提案で失敗している。トラスショックと呼ばれる。リズ・トラス氏は党首選挙に勝つために財源の裏打ちのない大型減税政策を打ち出した。結果は通貨、株式、国債のトリプル安だった。政府は最後の支え手として時には思い切った政策を打ち出すことが求められるがやはり「信頼」という裏打ちが必要だ。

スナク政権はトラス氏の失敗を受けてできた政権だ。このためまずはインフレの克服に手をつけた。この間減税などは行わず支持率が犠牲になっている。インフレの抑制に目処が立ったので金融市場を刺激しないで減税ができるというのが今回の提案になっている。つまりある問題を片付けたので次のことができるようになったという説明になっている。

異なる経緯を辿るドイツにもやはり厳しい監視の目がある。まずコロナの予算を他に転用するというアイディアが出た。経済状況の悪化は避けられないのだからなんとかして財政支出を増やす必要があるとの判断だったのだろう。ところがこのアイディアは憲法裁判所から差し止められてしまう。空いた穴は10兆円程度になるなどと報道された。そこで、債権価格の下落(金利の上昇)はやむを得ないとして財政ブレーキを4年連続で停止したのである。

どちらも厳しい監視を受けている。もちろん完全に不安を払拭できるわけではないが、監視があるからこそいざという時に減税をおこなったり借金を増やしたりすることができる。

このことからも岸田総理の失敗は明白だ。現在の混乱の要因は現状を把握し国民と共有することなくいくつかのプログラムを同時に走らせている点にある。

日銀の調査を見る限り国民は物価高で明らかに生活に余裕がなくなったと感じている。そしてイギリスやドイツでも同じような傾向は見られる。つまり現在最もプライオリティが高いのは「今、目の前にある問題に対処するため」の措置だ。

ところが、実際には負担増の話が進む。バイデン大統領に気に入られるために防衛費を2倍にしますと表明し、財政再建のための将来負担増の議論も始まった。さらに少子化対応の財源議論と診療報酬の改定も同時に動いている。減税と給付金の話はこの上に乗っている、辻元清美参議院議員の言い方を借りると「増税メガネの上に減税メガネ」である。

トップの方針が明らかにならないため議論は迅速に進まない。例えばガソリンに関してはトリガー条項解除の話が始まったが「自民・公明・国民民主の政調会長同士でご相談ください」ということになっている。税制調査会の議論は別に進んでいるために調整ができなくなっているのだろう。だが「どちらを先にやります」と決めるのは誰か。それはおそらくトップにいる岸田総理ではないか。

その上さらに憲法改正の話が出てきた。憲法改正議論を始めるのは構わないと思うのだが「それって今やることなんですかね」という気はする。ただこちらも今までの議論が曖昧だったことから「今やらなくてどうするんだ」と焦っている人たちがいる。具体的な条文を出せという話になっているようだ。ただ、保守派に配慮しすぎると今度は宏池会系の人たちが「自分達の考えと違う」と怒り出す。すでに宏池会の中からは総理の資質を疑問視する声が上がっている。これも政局のタネになるだろう。

「ヨーロッパではこうだ」というアプローチに抵抗を持つ人もいるかもしれない。だが実際に問題になっているのは「まず目の前のことを片付けてから次の課題をやりましょう」という程度の話である。子供が新しいおもちゃを引っ張り出してきたら「前のを片付けてからにしようね」と言わなければならない。その程度の話である。それがそんなに難しいのかよくわからない。

国民が「ささやかなゆとりが欲しい」と政治に期待するのはそんなにいけないことなのだろうかとも思う。ただそれ以前に「まずは何をやらないといけないのかちゃんと考えてから行動しようね」と言わないといけない。

これが与野党共に現在の政治が置かれている状況であると考えると少し悲しい気持ちになる。

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