オランダで総選挙がありウィルダース党首が率いる自由党が第一党に躍進した。連立政権に参加していた政党は軒並み議席を減らし規制政党離れが進んでいることが明らかになった。背景にあるのは経済の悪化と反移民感情だ。ただし、自由党を含めて過半数をとった政党はない。これまで議席を全く持っていなかった「新社会契約」などとの連立を目指すが、新しい政権ができるまでには長い時間が必要になる可能性がある。
これまでもウィルダース党首の名前はよく語られて来た。2017年に書かれた「極右政治家ウィルダースはオランダをどう変えるか」では既に強い影響力が懸念されている。だが、メジャーな政党はウィルダース氏から距離を置き政権入りすることはないと見られて来た。
状況が変わったのは2023年7月だった。ウィルダース党首の影響力拡大を懸念したルッテ首相は強い移民制限策を提案し閣内のリベラル派と対立した。連立政権は崩壊しルッテ氏は政権引退を宣言する。
オランダは政治的には安定している上に先進的なリベラル志向が強い。だが政治的正しさにうんざりする「サイレントマジョリティ」も増えている。反移民政策は政治的には正しくないとされるため表立って語ることが難しい。しかし移民の流入を嫌う人は増えておりなんらかの対策を求めていたのだろう。サイレントマジョリティの受け皿となったのがウィルダース党首だった。
こうした状況はスウェーデンに似ている。ネオナチに起源を持つといわれるオーケソン氏が率いるスウェーデン民主党が第二党に躍進した。こちらも反移民感情などのサイレントマジョリティの支持を受けたものと考えられているが、政権に入ることはなく閣外協力ということになった。
スウェーデンとオランダの共通点は「理想主義的な左派の退潮」だ。さらにスウェーデンのオーケソン氏が内閣に入れなかったようにウィルダース氏が首相になるのはそれほど簡単ではないという事情も似通っている。オランダの選挙システムは過半数をとる政党が出にくい仕組みになっている。定数は150だそうだが自由党の議席数は35から37程度と見られている。
ウィルダース氏はVVDと新興政党「新社会契約(NSC)」との右派連立を目指すとみられている。3党の合計議席は79議席となる。ただ、VVDとNSCはウィルダース氏がモスクとコーランの禁止を目指すなど反イスラムの立場を取っていることから、同氏との連携に懸念を示しており、連立協議は難航する可能性がある。
ウィルダース氏は強いイスラム嫌悪の発言で知られている。最近「極右」という言葉はかなり幅広い意味で使われている。自由党は「ガチの」極右政党だ。単に政権に入りたいからという理由で自由党と連立を組んでしまうと極右政策の共犯者になりかねないという事情がある。
この連立候補の「新社会契約」について時事通信は「現有議席を持たない」としている。つまりこれまで政治的な実績がない政党ということになる。
現有議席を持たない中道の新党・新社会契約(NSC)は、一気に20議席を獲得する見通しだ。
オランダでは政権ができるまでに数ヶ月がかかることも珍しくはないという。ウィルダース氏がそのますんなりと首相になるとは考えられておらず、多数派による政権構想が行き詰まった場合は、少数政党による連立政権が誕生する可能性もあるようだ。ただし、理想主義の左派がルッテ氏の現実主義路線を拒否したために連立政権が瓦解し票を失ったことを考えると、少数派連合の政権ができたとしてもその政権運営は極めて不安定なものになるのかもしれない。
去年のスウェーデンに続くオランダの総選挙での極右の躍進はヨーロッパにおける反移民感情の広がりが思った以上に浸透していることを裏付ける結果となった。