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唯一の先進脱落国のアルゼンチンでチェーンソーを振り回す大統領が誕生 ミレイ氏の勝利が確定

アルゼンチンの大統領選挙が終了した。決戦投票において現体制を代表する候補にミレイ氏が競り勝った。マッサ候補が敗北を認めたためミレイ大統領が誕生することになる。

ミレイ氏は新自由主義者とも極右とも呼ばれる。選挙期間中はチェーンソーを持ち歩き「全てを破壊する」と宣言していたそうである。勝利が確定するとアメリカ合衆国のトランプ前大統領やブラジルのボルソナロ前大統領から祝福を受けた。どちらも現在の政治に飽き飽きしている人たちから熱烈に支持された大統領だった。

アルゼンチンは先進国から脱落した唯一の事例として知られる。このためアルゼンチンの政治は日本の好ましくない未来像の一つという文脈で語られることがある。

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アルゼンチンはもともと食肉加工で成功した国だった。戦争が終わると食肉加工基地としての地位を失うが高福祉政策が忘れられず次第に没落してゆく。海外貿易で儲けた利益を国民に分配する政策をペロン政策と呼ぶがこれは現在の自民党の政策に非常によく似ている。

結果的にアルゼンチンの財政規律は失われペソの価値は暴落した。アルゼンチンは今でも高いインフレに悩まされている。政策金利は133%で年末のインフレは185%程度になることが予想されている。つまり1年間でペソの価値が半分近くに減価するという状態である。国民はペソを信用しなくなり米ドルに依存するようになるとさらに通貨価値が下がる。最後に国民が頼ったのが暗号資産だった。

グスマン経済担当大臣のもとで借金の整理をしたが、その後に大臣は辞任してしまう。副大統領との折り合いが悪かったと言われている。副大統領には汚職容疑で有罪判決が出ている。公職追放と禁錮6年が言い渡されているが現職の間は収監されない。また副大統領は上級裁に訴え出ることにしており判決は確定していない。これらの混乱を背景に現職大統領は「私ではこの国は統治できない」として大統領選から撤退してしまった。

ペロン主義の継続を希望する国民も多かった。これを代表するのがセルジオ・マッサ候補だ。一方で若者の間には現在の体制の破壊を望んでいる。この声を代表しているのが「右翼急進派」と表現されることが多いミレイ候補である。53才の元テレビ評論家という肩書きだ。

大統領選挙への関心は非常に高く暫定投票率は76%だったそうだ。

蓋を開けてみると「無政府資本主義者」を自認するミレイ氏が勝利した。全てをぶっ壊す象徴としてチェーンソーを持ち歩いていたそうだが決選投票では中道派の支持も必要なためチェーンソーを持ち歩くパフォーマンスはやめたという。公約として最も有名になったのが中央銀行の破壊と通貨ペソの放棄である。代わりにアメリカドルを通貨にするなどと言われている。ただし、その政策はチェーンソー式である。つまり解体については語っているがその後で何をどう組み上げるのかについてはまるでビジョンがない。

ミレイ氏が大統領になった場合、まず直面するのは議会対策だとされている。マッサ氏には議会のサポートがあるがミレイ氏には全くサポートがない。またIMFからの支援を引き続き受けることができるのかも未知数だ。

「世界には4つの国がある。先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンだ」というノーベル賞経済学者サイモン・クズネッツの言葉はあまりにも有名だ。日本は唯一非西洋から先進国入りした国でありアルゼンチンは先進国クラブから脱落した唯一の事例だった。

農業生産国という成功体験から脱却できなかったアルゼンチンと工業生産国としての成功体験から脱却することができなかった日本の姿に似たものを感じる経済評論家は多い。たとえば、加谷珪一氏はアルゼンチンと日本を比較する文章を折に触れて書いている。

加谷珪一さんはアルゼンチンは資源国であり高齢化率があまり高くないのでそれなりに「幸福な衰退」を実現できていると書いている。つまり日本がアルゼンチン化するとその未来はアルゼンチンよりも暗いだろうということだ。一方で日本は海外にお金を貸している債権国だがアルゼンチンは借りている債務国だ。つまり将来的にアルゼンチン化する可能性は高いが、それは日本が海外に持っている債務が取り崩された後の話ということになる。

ミレイ氏の当選が確定するとトランプ前大統領が祝福していることが大きく伝えられた。既存政党や政治家を敵対視し政府不信が人気の原動力になっているという意味で二人には共通点が多い。

南米の国では支持者同士の深刻な対立で選挙結果がいつまでも決まらないという結果にならなかったことに安堵する声も多く聞かれたそうだ。

アメリカ合衆国には依然として「大統領選挙は盗まれた」という声がありボルソナロ前大統領も選挙結果に疑問があるとして法廷に異議申し立てをしていた。どっちみち国家経済はほぼ破綻しているのだから「まずはやらせてみよう」ということなのかもしれない。

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