共同通信が「少子化「支援金」徴収、負担軽減 低所得者2600万人、政府検討」という記事を出している。所得減税4万円提案の時にも「低所得者対策は高齢者に手厚くなる」という批判があったが、今回の提案も同じような批判を集めそうだ。このままだと、少子化対策の援助対象になる人たちから支援金を取り立てるという不思議な制度になってしまう。
議論が混乱する理由は簡単だ。「負担軽減策」「支援」「負担増」が同時進行しており一体誰がどれだけ何を負担するのかがさっぱりわからなくなってしまっているうえに、あっちから取ってこっちに送り、こっちから取り立ててあっちに送るという議論がバラバラに進行している。こうなると「もう何もしない方がいいのではないか?」という気になる。
おそらく、不安を募らせているのは現役セクターだけではない。多くのセクターで冬を予想し溜め込む動きが起きている。ここで政府に乗せられて支出を増やしても好循環は起きず梯子を外されるだけという不信感があるのかもしれない。事実、四半期のGDPはまたマイナス成長に戻った。予想よりも悪い結果だったそうだ。
総合基本戦略を欠いたままで個別具体論を場当たり的に進行させる岸田総理に元でコストカット思考から脱却するのは難しいだろう。だが、次に当たる人も見つからない。依然閉塞した状態で負担増の話だけが粛々と進められてゆく。そんな状況だ。
政府は補正予算案の審議をできるだけ短く済ませたい考えだ。今週中に衆議院の通過を目指す。すでに5派閥の政治資金規正法の検察捜査が進んでいるためできるだけ国会審議を圧縮したいという思惑もあるだろう。実質審議は21日と22日の2日間になる。
政治規制法の問題ではさまざまな憶測が飛び交っている。元議員の有田芳生氏などは「岸田総理はこれを知っていて見つかる前に選挙をやるつもりだったが最後は逃げた」などと呟いている。
全体の額としてはそれほど多くない4,000万円だ。不正蓄財の可能性もあるが、単に選挙資金として溜め込んでいたということなのかもしれない。各陣営とも支援者を繋ぎ止めるのに必死なのだろうが「所詮お金だけのつながり」が増えているのではないか。
負担増につながる税制調査会の話し合いは国会審議とは別途行われる。こちらは森山総務会長が「国民に嫌なこともお願いする」との意欲を示している。表の国会審議では支援策が話し合われるが裏では負担増に向けた準備が着々と進んでいる。国民はその両方を見ており不信感を募らせる。おそらく国民がより注目するのは「言いにくいこと」の方だろう。
防衛増税や少子化対策の財源確保などを念頭に「言いにくいことも申し上げて国民の皆さんに理解をいただく。そういう政治を進めることが一番大事だ」とも訴えた。
タイトルで取り上げた少子化財源の議論も迷走している。2,600万人程度の低所得者を免除する計画だ。その分を誰かが余計に負担することになる。負担金は500円程度が想定されているという。一つひとつを小分けにして目立たなくさせるという作戦になっている。
お金の使い方にも懸念がある。使うつもりがないのに集めた予算がかなり蓄積されている。その総額は16.6兆円になる。
基金は新型コロナウイルス対策関連事業で急増し、残高は2022年度末時点で計約16兆6千億円に上る。
野党は積み上がる基金を批判している。この対策として岸田総理は基金の基準見直しを表明した。いっけんいい話のように思えるのだが、政府がコロナ対策という名目でお金を集め使わずに溜め込んでいたということになる。どのような理由で誰が溜め込んだのかはよくわからないのだが、実際には徴収する必要のなかったお金を納めさせて景気対策などに使わずに取っておいたということだ。官僚は予算獲得が評価になり余剰予算にはマイナス評価がつくなどと言われる。現在は単年度予算方式なので予算を使ってしまう必要があるが基金は使い残しが認められる。つまり官僚たちが出世するために頑張りに頑張った蓄積が16.6兆円ということになる。
企業も資本金を溜め込んでいる。国内向けにビジネスをおこなっている企業の中には地方に法人事業税を納めたくないために資本金を減資し余剰金として溜め込んでいるところがある。政府も雇用維持の観点からすでにゾンビ化した企業に対して融資をおこなっているが政府投資だけで1兆円ほどが焦げつく可能性がある。日経新聞は民間も合わせると2兆円ほどが焦げ付くのではないかと予測している。
企業はできるだけ労働者に賃金を支払いたくない。
賃上げの動機として政府は節税を挙げている。つまり企業は自分達で持ち出してまで賃上げを行うつもりはないということになる。医療機関も同様の姿勢だ。財務省は積み上がった利益余剰を賃上げに使うべきだと言っているが医療機関は診療報酬を値上げしろと言っており議論は平行線だ。岸田総理は医師会の会長と面会し医師会に配慮する姿勢を示している。
結局、誰も未来に向けて投資をするつもりはない。誰かが何かをしてくれるのをひたすらに待っている。そんな状態だ。
再びGDP成長がマイナスに戻ってしまったが、蔓延するコストカット思考を見ると「これも当然なのかもしれない」と思う。
出口を目指す日銀総裁は「景気の回復は緩やかに続いている」としている。だが行動を起こすことはない。おそらくまだ確信が持てないのだろう。
実際には企業の設備投資や個人の消費などがマイナスになっている。予想より悪い結果で識者たちは気を揉んでいるようだ。だが、ここであまりネガティブなことを吹聴してしまうと悪い予測が自己実現しかねない。
岸田政権の基本戦略はGDPの成長が自分達の政策で起こったかのように錯誤させるものだったと思われる。だが、迷走する経済対策は国民の不安を呼び起こしただけだと評価して良いだろう。
- マイナスのGDP、成長のカギは?(NHK)
- 焦点:さえない内需、GDP下押し補えず デフレ脱却「宣言には距離」(Reuters)
- 実質GDP7─9月期は3期ぶりマイナス成長、賃金低迷が消費を圧迫(Reuters)
時事通信では支持率が過去最低を記録したが、毎日新聞でも支持率が低下しており不支持が7割に達したそうだ。内閣の支持率が上がらないのは当然なのだろうが、次が見つからないところには不安を感じる。誰かが流れを変えない限り「コストカット思考」が反転することはない。