一部の政治コメンテータが「永田町の噂」として語っていた政治資金規正法の問題がマスコミ解禁された。ゲンダイが既に伝えていた通り上脇教授の告発をもとにした捜査とみられ5派閥に広がっている。既に知られていた内容にもかかわらずメインの報道各社が全く状況を伝えてこなかったという点には違和感を感じる。取材源である政治に嫌われるリスクを回避し検察がどの程度の事件にするのかが判明するのを待っていたのだろう。
収入不記載の手口は組織的に広がっていた可能性もあるが口コミで広く広がっていた可能性も否定できない。なかには当惑している議員もいるという。告発はネットに広く公開されている情報を丹念に拾った結果に過ぎないので「この程度のことはバレないだろう」という認識が広がっていた可能性も高い。バレなければ多少このことは大目に見てもらえるという程度の遵法意識の人たちが国会議員なのだ。
今後この事件が岸田政権の存続を揺るがすかは世論の反応次第だろう。世論が「単なる記述の間違い」という説明に納得をすれば事件は早期に収束するはずだ。
ただ、既に税制調査会で負担増の話が始まっており「自分達にはインボイスのような制度を押し付けておいて政治家の事務処理はこんなに杜撰なのか」という反発も予想される。仮に組織的な関与が指摘されるようなことがあればもちろんそれだけでは済まなくなるだろうが、組織的関与がなくても、世論は簡単には岸田政権を許してくれないかもしれない。
最初の報道は穏やかなのもので、ある程度制御された印象だ。ソーシャルメディアなどではそれほど大きな問題としては扱われていない。むしろ創価学会の池田大作名誉会長の逝去が大きく取り上げられている。おそらくSNSで「政権の不祥事」という認識を持っている人たちは多くないだろう。
捜査対象は5派閥に広がっており、問題の合計金額は4000万円程度になる。具体的には政治資金パーティーに寄付をした団体の名前などを収支報告書に記載していないことが問題視されている。共同通信による内訳は次のとおり。
過少記載額は清和政策研究会(安倍派)が約1900万円、志帥会(二階派)が約950万円、平成研究会(茂木派)が約600万円、志公会(麻生派)が約400万円、宏池会(岸田派)が約200万円としている。
今回の事件は既に11月6日にゲンダイで記事になっていたが、星浩さんのような「フリーの」コメンテータがニュースの合間で言及すると言った程度で地上波はほぼ黙殺という状態だった。
マスコミは特捜部の捜査の進捗を受けて情報を一斉に解禁した。NHKの記事のタイムスタンプを見ると夜の7時と9時になっている。各政治団体の事務局担当者が任意で事情を聞かれているという内容になっておりこの時点では議員たちの関与は報道されていない。時事通信と共同通信も同じようなトーンになっており今のところ横並びの印象が強い。
ゲンダイの記事によるとあらましは次のようになる。
神戸学院大の上脇博之教授は多くの収支報告書を丹念に精査し2021年分について「まとめて告発」した。教授は「ケアレスミスではなく組織的な不記載の疑いがある」という。また、ネットに情報が公開されているものだけを精査したため氷山の一角であるとの印象を持っているそうだ。だが教授に捜査権があるわけではないためこれ以上の調査は難しい。
ポイントは捜査権を持っている検察がどこまで情報を深掘りできるかだろう。今回の報道は上脇教授の主張をなぞる形になっている。つまり「公表されているものについては仕方がないがこれ以上の捜査はしない」ということなのかもしれない。議員の逮捕につながりかねない事案については会期外に行うのが通例だが形式的な問題であれば年末までに大掃除しておきたいと考えるだろう。
共同通信によると当事者の議員たちは戸惑いを見せているという。どうやら「何が正しいやり方」なのかがよくわからなくなっている上に事務関係者にお任せになっており状況を把握できていない人もいるようだ。つまり仮にここから議員資格に関わる問題が出てきたとしても派閥や官邸が状況をコントロールできなくなる可能性があるということだ。
この事件は実はバイラル(伝染性)の方が怖いのではないかと思う。
大掛かりな調査をするまでは誰も全体の広がりを把握できない。仮にここで検察が組織的な関与に踏み込まず不誠実な慣行が温存されてしまった場合には後になって重大な問題を隠していたということになりかねない。
タイミングもあまりよくない。年末には税制大綱の議論が進む。すでに国民の間にはうっすらとした政治への不満が高まっている。税調インナーの人たちは「財源確保など言いにくいこともお願いする」などと言っている。つまり負担増につながる議論を推進すると宣言しているのである。以下、森山総務会長のコメントだ。
防衛増税や少子化対策の財源確保などを念頭に「言いにくいことも申し上げて国民の皆さんに理解をいただく。そういう政治を進めることが一番大事だ」とも訴えた。
加えて「自分達にはインボイスのような面倒なものを押し付けておいて自分達はいい加減な会計処理をしているのか」と比較対象になってしまうと無党派層の離反はより深刻なものになるだろう。
「突き合わせをされるとバレる」程度の情報を堂々と公開していた点も問題だ。遵法意識が極めて低い上に「どうせ誰もそこまで面倒なチェックはしないだろう」という気持ちがあったものと思われる。実際に検察もマスコミも全く調査はしていなかった。実際に告発が出るとマスコミの関心は検察がそれ以上の調査をやるのかという点に移った。そして検察が告発以上の捜査をするつもりがなさそうだとわかると一斉に検察発表に沿った形で情報が解禁されみんなでそれを報道し始めたのである。