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外形標準課税に日商と自民党が抵抗 日本の賃金底上げを阻害する企業経営者たち

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総務省が大企業の法人事業税逃れ対策を始めた。そもそもの仕組みが複雑なために整理をしないとわかりにくいニュースだ。外形標準課税問題とか中小企業化問題などと言われる。

一般になじみがない問題なのだろうが一応整理しておこうとこのニュースを見始めているうちに気になったことがある。それが日商を中心とする中小企業の政治依存である。現状維持のために政治依存を強めているが支持母体の離反を恐れる自民党も日商支援に回っている。これが地方財政回復の抵抗勢力になっている。

背景にあるのは企業の賞味期限切れだ。資本と経営資源が中小企業に死蔵され日本の経済成長を妨げる。だから日本の賃金水準は底上げされない。

長年降り積もった現状維持バイアスは結果的に「縛り合い回路」を形成している。その様はまるで何かの生霊に取り憑かれているようにも見える。今回の問題の場合の生霊はゾンビ化しつつある自称「中小企業」だ。

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まず、簡単に本来のテーマである大企業の中小企業化について説明する。報道を整理すると次のようになる。

  1. 営業赤字でも大企業は資本金の額や給与総額などに課税される。外形標準課税という制度があるためだ。
  2. 外形標準課税は2004年に導入された。3万社が対象だったが2021年までに2万社に減っている。対象になるのは企業が都道府県に納める法人事業税なのだから、主に地方の税源不足が問題になっていることがわかる。
  3. 大企業は資本金を1億円以下に減らすことで税制上の中小企業になることができる。企業が外形標準課税を逃れるために中小企業化している。持株会社化や分社化によって子会社(100%子会社)の資本金を1億円以下にする手法が流行している。
  4. 地方自治を管轄する総務省(財務省ではなく)の有識者会議(地方財政審議会)が課税対象企業を広げるために新しい基準案を公表した。現在の条件は資本金1億円超だけだが、これに加えて資本金と資本余剰金の合計という基準を作る。
  5. 今後与党の税制調査会で検討されるが経済界は反発している。特に巻き添えになる中小企業の反発が大きい。

自民党の議員の中には中小企業に支援されている人たちも多い。このため自民党の議員たちも総務省の検討に反発している。表向きの反対理由は「賃上げに逆行するから」だ。自民党の議員たちは法人減税が賃上げにつながると信じているようだが法人減税は他の税収によって補完されなければならない。消費者が将来の負担増を予想すれば消費を抑えるのだからこれは理屈としてはおかしい。おそらく自民党の議員たちは自分達の提案が賃金アップに寄与しないことを理解していないのだろう。

どちらかを選ばなければならないというわけではないが、賃金上昇の経路は二つある。

  1. 儲けることができない企業と企業経営者を市場から退出させ、儲けることができる新しい経営者のもとに経営資源を移す。
  2. 好循環を作り経済が回るスピードを上げてやる。日銀の理論によると「幅広い賃上げと価格転嫁の好循環」がそれに当たる。

そもそも、大企業は中小企業化するのか。少し前の記事だが「中小企業になりたがる大企業 「減資」はズルいのか?」という記事が見つかった。加谷珪一氏はバブル崩壊後に赤字法人の増加に伴い地方税収の減少に伴うために導入されたと書いている。一度は地方税収の穴埋めに成功したが今度は大企業が中小企業化することによって租税回避を始めた。賞味期限が切れた大企業が資本金を削って資本余剰金という形で死蔵して生き残ろうとしているようだ。これは賃上げの「第一原則」に反する。

これをもっと庶民的にわかりやすく書いているのがFLASHである。マスコミ批判と絡めて毎日新聞を槍玉に上げている。毎日新聞社は41億円の資本金を1億円に圧縮した。かなり大量の資本が資本余剰金として死蔵したのだ。このラインナップを見ると「国内で商売をしている企業が多い」ことがわかる。国内では価格転嫁ができない状況が続いている。つまり第二原則が実現しない結果として資本の死蔵が起きていることがわかる。実はこの2つはお互いに縛り合いの回路を形成しているのだ。

●JTB(2021年、23億円→1億円)
●毎日新聞社(2021年、41億円→1億円)
●「かっぱ寿司」のカッパ・クリエイト(2021年、98億円→1億円)
●HIS(2022年、247億円→1億円)
●日医工(2023年、359億円→1億円)

海外で稼ぐ力を力のある企業の業績は上がり賃金も上昇している。だが海外展開をしていない企業はどんどん稼ぐ力を失っており資本金を内部に溜め込むことで生き残りを図っている。これが進行すると国の支援を頼る企業がゾンビ化する。現在コロナ対策として始まったゼロゼロ融資が民間投資も含めて2兆円ほど焦げつきそうになっている。政府・自民党は対策のために新しい融資枠を準備しているが結果的に消費者や現役世代に向けられるはずの支援が少なくなる。つまり政府の政策はここでも第一原則に違反しているばかりか消費者や現役世代の将来悲観を増幅させ第二原則にも悪い効果を与えている。

現在の中小企業は成長から取り残されている。これを裏付けるように日本商工会議所は賃上げで物価高を追い越すのは不可能だといっている。世界標準の成長についてゆけないという敗北宣言だ。日銀が中小企業に対して賃上げを執拗に要求することにかなり腹を立てているようで「賽の河原」という表現で感情的な反発を見せている。

そのうえで、小林会頭は「物価が野放図で、円安は野放図で、値上がりしたものを『買え、買え』というのはちょっとおかしいんじゃないか」と政府・日銀の物価高対策や為替政策を厳しく批判しました。

日本商工会議所の小林会頭は大企業が中小企業化するのは「せこい」と批判したが、その一方で「本来の中小企業には影響を与えないようにしろ」と政府に対して二重基準を求める。

政府・自民党もまた生産性が上がる見込みのありそうな企業を選別する政策には後ろ向きである。賃金上昇は節税対策になりますよとして企業経営者を懐柔しようとしている。繰り返しになるが法人税を減税すれば別のところで穴埋めをしなければならない。将来の負担増を予想する消費者は消費を控えるのだから国内の消費はますます冷え込むことになる。

日銀は中小企業に賃上げが及べば景気の好循環が生まれるとしている。このため現在の低金利政策の変更には後ろ向きだ。中小企業は「金利を少しばかり上げれば円安が解消するのでは」と日銀が先に動くことを期待し、日銀は逆のことを言っている。これではいつまで経っても賃上げが実現するはずもない。物価だけがジリジリと上がるスタグフレーションに苛立つ国民は岸田政権の賃上げに苛立ちをぶつけるようになった。

岸田政権は予定通り賃上げ法案を可決したものの、自民党と公明党の国会議員たちは増額分は返納することに決めたようだ。

全体的に「縛り合いの回路」が形成されているのだが、この回路をほどこうとするイニシアチブはどこにも見られない。岸田総理は「経済・経済・経済」演説の中でコストカット型経済からの脱却を訴えたが、結果的に自民党はコストカット型経済の温存のための装置になっている。

コストカットの刃は国会議員たちにも及び自ら賃上げ分を放棄する選択を余儀なくされたということになる。もはや合理的な説明は難しい。縛り合いの生霊が政治を呪っていると表現するのがぴったりだ。割と単純な構造によって生まれている現象だが議論を言語化して整理しない限り「生霊」は解決可能な課題にはならないだろう。

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