アメリカ合衆国関連で2つのニュースがあった。
一つ目のニュースはCPIの伸びが収まりつつあるというものだ。これで利上げは終わりだろうという希望観測的な安堵感が広がり株価上昇・債権価格回復という流れになっている。当然日本とアメリカの利率の差も縮まるため発表直後はやや円高方向に触れた。また、アメリカCPIのニュースは日本でも好感され株価が大幅に値上がりした。ロイターは「日経平均は大幅に3日続伸、「逆CPIショック」で今年最大の上げ幅」とホクホク顔だが日経新聞は「少し浮かれすぎなのではないか」という論調のコラムを掲載している。円も結局は151円まで円安に戻している。非常に変化が多い荒っぽい値動きが続いていて経済指標に一喜一憂するのは危険だ。ただ一ヶ月ほど前に投資した米国株は軒並み上昇しているはずだ。
もう一つは連邦政府の閉鎖回避だ。ジョンソン議長が「二段階方式」を提案した。結局予算案は民主党からの賛同を得て下院を通過したようだ。重要法案(軍事建設・退役軍人対策・輸送・住宅・エネルギー省への資金提供)が1月19日までの予算となり残りの部分は2月2日までの延長となる。もともとに段階方式は共和党強硬派が推進していたが上院議員たちは懐疑的でありホワイトハウスも反対していた。しかし、ジョンソン議長が強硬派の主張する大幅な予算削減を盛り込まなかったことで民主党に妥協の余地が生まれた。非常に複雑な提案であり「間を取った妥協」になっているためなぜこのような内容になったのかはよくわからない。
下院の予算通過プロセスのアップデートがCNNでまとまっている。妥協あり場外乱闘ありと言った感じで非常に賑やかでカラフルな1日だったようだ。
アメリカの議会法では「規則を可決するためには過半数を得る必要」があり「規則を撤廃するためには2/3の賛成票が必要」とされている。後者は超党派による賛成が必要になる。
結局ジョンソン議長の推進したアイディアは右派の二段階提案を踏襲したものになった。だが民主党からの反発を恐れて共和党右派の求める大規模な歳出削減は含まれなかった。第一部分は1月19日まで延長され、第二部分は2月2日までの延長となるという。
予算は最低限でイスラエルとウクライナの支援問題は含まれない。大規模な予算削減が盛り込まれないことで民主党は提案に乗りやすくなった。法案は336対95で可決されたという。意外なことに民主党からは209票の賛成があった。一方で共和党の93人と民主党の2名が反対に回った。共和党の議長の提案にもかかわらず共和党の反対票が多いという不思議な事態だ。民主党との妥協的協力に反対した共和党員ともともと予算の成立を妨害したかった右派が離反した格好になる。
この妥協によってジョンソン議長が解任されることはなさそうだが苛立ちを募らせる右派は前議長を攻撃対象にしている。ティム・バーチェット氏が「ケビン・マッカーシー前議長に腎臓を肘打ちされた」と告発。バーチェット氏はマッカーシー氏の追放投票に賛成票を投じていた。前議長を追い落としたゲーツ氏はバーチェット氏を擁護し「倫理に関する正式な告発状」を準備していると宣言している。
民主党のチャック・シューマー上院院内総務は議長提案に賛成している。上院では民主党がかろうじて多数派だが連邦政府閉鎖は回避したい。このため議案は上院を無事に通過するものと見られている。さらにシューマー氏は感謝祭が終わるまでにイスラエル・ウクライナ・台湾・アメリカ国境対策を含むパッケージを可決すべきだと主張する。
共和党は当初IRSの予算を削減しそれをイスラエルに回すべきだとしていた。富裕層に対して厳しいIRSの活動を妨害する狙いがあったものと思われるが中には「IRSを廃止しろ」と訴えている議員もいるという。日本で言うと税務署の予算を全部停止しろというのと同じ意味になり過激な提案だ。超党派の議会予算局はIRSの予算を143億ドル削減すると10年で125億ドル負債が増加するだろうとしてこの案に反論していた。大規模な歳出削減やイスラエルに対する支援が盛り込まれなかったことで今回の予算案ではこれが問題になることはなかった。
いずれにせよアメリカの議会ではかなりの極論が飛び交っており下院議長が自分の権限で何を通すのか(そして何を通さないのか)を決めている。日本の予算審議とは異なりかなり荒っぽい議論が展開していると言って良い。
バイデン大統領は法律が上院で可決されればサインすると宣言している。このため、連邦政府の閉鎖は回避されることになりそうだ。
つぎの山場は安全保障関連の予算案の成立だ。民主・共和両党ともイスラエル支援には積極的だがウクライナ支援には意見の隔たりがある。ウクライナはアメリカの支援なしには防衛が継続できないため場合によってはかなり深刻な問題が生じるかもしれない。