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原子力行政のグループシンキング(集団思考)

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熊本地震がなかなか収束しない。しかしながら、九州の外ではすでに「政治問題化」しつつある。北海道の選挙が近いからかもしれない。未曾有の災害が起きたから心置きなく消費税増税を延期できるようになったという声もある。
中でも川内原発の問題はヒートアップしている。川内原発は全国で唯一稼働している原発なのだが、これを止めろという声が大きいようだ。これに反発した人たちが「法的権限もなく原発を停止していいのか」と噛み付いている。法的権限が必要というのは、いっけん「合理的」で「正しい」判断のように思える。だが、これも怪しい。実は誰が停止の権限を持っているかが曖昧だからだ。
Googleで検索すると諸説あるようだ。そもそもそれがおかしい。ブレーカーが付いていない家電みたいなもので、火事になるまで止められない仕組みなのである。原発の場合「火事」とは福島みたいな事故のことである。どうやら各県知事にはいったん動かすと決めた原発を停止する法的権限がないらしい。首相にもその権限はない。鍵を握っているのは原子力規制委員会という「内閣からの独立性が高い」とされている委員会だが、委員長は首相が任命する。だから、この委員会は首相の意見を忖度せざるを得ない。
この仕組みはおかしい。
原子力規制委員会は「安全だというお墨付きは与えられない」と言っているのだが、官邸は「原子力規制委員会が安全だと言っている」と主張する。そして、マスコミは両方取材していて状況を知っていながら、官邸のいうことをそのまま伝えるわけである。
規制委員会は「安全のお墨付きを与えたくない」のは当然だ。すべての科学技術にはリスクがあって当たり前だし、運転しているのは自分たちではない。だから、何かあったとき責任の取りようがない。だが、官邸も電力事業者も「誰かの責任」にしたい。何かあったとき責任を追及されては困るからである。結局誰も責任を取らない仕組みができているのだ。
どうしてこのような曖昧な仕組みが作られたのかはよくわからない。民主党政権は東日本大震災の経験から「何かあったときには誰かがストップをかけられないとヤバイ」ということには気がついたらしい。そこで規制委員会を作った。しかし政権交代のごたごたで曖昧な状態のままに捨て置かれたようだ。
危険が伴う技術にはそれなりのリスクヘッジや補償の仕組みがある。だが、原発にはそれがない。
この仕組みは車に例えてみると分かりやすい。車にはブレーキが付いていない。いったん走り出したら止まれない。その根拠になっているのは警察官が「この車は絶対に安全です」と言ってくれているからだ。だが、警察官は車を運転しないので「絶対に安全」とは言えない。そこで「普通に運転している限りでは安心」と言う。誰かが不意に飛び出してきたらどうするのか。もう轢くしかないわけだ。警察官は「誰かが飛び出してくるなんて想定外だった」というのだろう。だが、警察官にはブレーキは踏めない。
大事故を見た人は「車は怖いものだ」と考えるようになった。そこで「絶対安全になるまで車庫から出させない」と言い出すことになった。ただし、運転をやめたわけではないのだから、メンテナンスは続ける必要がある。これは壮大な無駄だ。
どう考えても車は悪くない。仕組みが悪いのだ。
この問題を解決するにはどうしたらいいのか。それは車にブレーキを付けること、つまり現場に権限を与えるしかない。
もちろん技術的にはブレーキにあたるものは付いているだろうが、勝手に止めれば「なぜ止めたのだ」となることは必至だ。だからあっても使えない。つまり現場には技術はあっても「政治的自由」がないのだ。
誰が考えてもおかしな仕組みだが、どうしてこうなってしまったのだろうか。それはそもそも原発維持の目的が平和利用ではないからだろう。ソ連の原発開発に焦ったアメリカのアイゼンハワー大統領は「平和のための原子力」という原則を打ち出した。アメリカは当初核技術を独占しようと考えていたのだが、それができないと分かると同盟国に核燃料の開発技術を持たせようとしたのだ。これは核不拡散条約の対をなすもので、一種のダブルスピークだ。だから、日本が原発開発をやめてしまうと、核燃料を持つ意義が失われてしまう。
アメリカの軍事力が退潮し、北朝鮮も核開発を進めているので「日本が核兵器を持たない」というオプションは残念ながら再考の時期を迎えている。ところが安倍政権は安保法制ですら国民を説得できなかった。「軍事目的のために核技術を維持したい」などと言えば国内外は大騒ぎになるだろう。
この状態を打開するには、経緯を知らない人が整理するしかない。もしくはトランプ候補のように何も知らない人が「日本も核兵器を持ってもいいんじゃないか」などと無邪気に語るしかないのだろう。つまりは、定期的な政権交代が解決策なのだろう。

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