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岸田政権の補正予算案で「みんなの給料」が上がらない理由

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補正予算案が閣議決定された。NHKなどは物価高対策に限って報じているため主流は賃上げと賃上げ要請になるように思われがちだ。だがTBSは物価高対策は全体の2割を占めるに過ぎないと言っている。

この補正予算が国民から支持されないのはおそらく「わたしの、あなたの、そしてみんなの」給料や収入が上がり生活がよくなるという実感が生まれないからだ。

ここでは過度な政権批判は避けて冷静に「なぜ今回の補正予算案がみんなの賃金上昇につながらないのか」について分析する。理由はシンプルなものが多く理解にはそれほど苦労しないだろう。主語を岸田政権とすべきか与野党を含めた「政治全般」にすべきかは迷うところだ。与党だけでなく野党にも「経済の主役として頑張っている国民を応援しよう」という気持ちがなさそうなのだ。

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まず分析をする前に「実質賃金上昇」について整理する。方法は二つある。1つは物価を抑制するか物価に関わる税金の徴収を一時停止する方法だ。もう1つは賃上げを加速する方法である。特にインフレ下では企業の価格転嫁が進めばその分を賃金として分配することができるため、経済の好循環が回り始める。仕組みは割合シンプルである。

実は「物価高対策」は全体の2割しかないとTBSが伝えている。NHKの報道だけ見ている人は意外に思うかもしれない。代わりに多く含まれるのが国土強靭化と成長分野への重点投資だ。どちらも需要刺激策になる。つまりこれはインフレ要因である。

特に国土強靭化には問題が多い。そもそも建設業に携わる人たちが減っている。担い手がいないのに予算を増やすと建設資材の高騰や建設作業員の人件費高騰につながる。これがみんなの暮らしをよくするための投資なのかは甚だ疑問だ。

成長分野の投資は一見良さそうに見える。国内投資促進のために3兆4375億円が使われ、そのうちの2兆円が半導体や生成AI関連企業支援に使われるという。

だがこれが「生き金」になるためには優良な企業に対する「目利き」が必要だ。単に企画書に生成AIと書いたところにお金を流すだけになってしまうと「生成AIに関連づければ研究予算が獲得できる」という人たちがプログラムに殺到して終わりになるだろう。さらにそのほかの優良な分野を研究している人たちはまともな投資プログラムがある国(おそらく最も有望なのはアメリカ合衆国だろう)に流れる。既にアメリカ合衆国には生成AIのコミュニティができており自然に協業が起こりやすい環境にあるのだから、本気で生成AIをやりたい人はアメリカにゆくはずだ。

テレ東BIZは「AIと半導体の開発支援のために特別会計分を含めて2兆557億円を計上します」と報じている。企業は自分達で成長分野を見つける努力をやめて「政府が提示する正解に乗っかる」方が楽なのだ。

もちろん政府は賃上げの対策もとっている。賃上げを5%程度行えば法人税を優遇するという戦略だ。3%では法人税優遇は限定的なものになるので「この際だから5%上げてしまおう」と考える企業も出てくるかもしれない。

法人税は「儲けた企業」が納める。国税局がこんなレポートを出している。従業員割合ではなく企業数でしかないのだが実は儲けている(と申告した)企業はそれほど多くない。

  • 284万 8,518社 のうち利益計上法人が 109万 917社 、欠 損 法 人 が 175万 7,601社 で 、欠 損法人の割合は 61.7%となっている。
  • このうち連結法人 ( 1,836社 ) は、利益計上法人が 1,153社、欠損法人が 683社で、欠損法人の割合は 37.2% となっている

資本金が1億円以上の企業は赤字でも納税しなければならないという決まりになっているため「だったら資本金を減らして中小企業になろう」というところも増えている。減資した部分を「余剰金」として溜め込むことが問題視されているそうだ。

企業は空前の利益を上げて「内部留保が溜まっている」と言われているのになぜ欠損法人がこんなにあるのかなどという疑問もある。実際に死にかけている「ゾンビ企業」と税金逃れのために偽装欠損企業化している企業の見分けもつかない。だがこの際それは忘れることにしよう。

いずれにせよ法人税減税目当てで賃上げという作戦は失敗する可能性が高い。その広がりは限定的にしかならないからである。一部の誰かの給料は上がるかもしれないがみんなの給料は上がらない。そうなるとフリーランスの収入も増えない。一部の人たちの給料が上がっても国民経済が盛り上がることはない。

このように一つひとつの問題を整理してゆくと「なぜ実質賃金の上昇が起こらないか」という理由を見つけるのは難しくない。「岸田政権の経済政策は国民の実質賃金向上に寄与しない」のはむしろ「水は高いところから低いところに落ちる」というのと同じようなことを言っているに過ぎず政権批判でも何でもない。

この話を政権批判につなげられないのには理由がある。代替政党が見つからないのだ。

立憲民主党が消費税減税を取り下げた。理由はよくわからないのだが泉代表の言っていることが理解できないのはもはやニュースでも何でもない。とにかく「責任政党だから取り下げた」と言っている。仮にこの説を採用すると「消費税減税提案は無責任だった」ということになる。産経新聞は「消費税減税が選挙で響かなかったから取り下げたのだろう」と分析している。「どうアピールすれば国民に受けるのか」という姿勢が見え隠れする。

有権者が求めているのは24時間365日国民生活向上について考えてくれそうな政党なのだろう。それは誰のためでもない「わたしの」生活を良くしてくれるものでなければならない。どうも与野党ともに条件に合致する政党がない。これが支持政党なしが6割という世論調査の結果につながっているのかもしれない。

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