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結局は国民の拠出が増加 少子化財源は健康保険料などに混ぜ込んでこっそり徴収する方向に

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岸田総理が「国民の負担が増えない形を考えている」と説明していた少子化財源だがやはり負担が増える方向で検討が進んでいる。負担増を目立たなくするためなのか健康保険などに混ぜ込んで徴収する方針が決まった。さらに「負担増」と言いたくないために「拠出の増加」と言い換えている。ここまでして隠したいのかと言う気がする。

ただし今回の提案はいつもとはちょっと違っている。当事者たちがむしろ「負担が増えることをきちんと説明してほしかった」と言っている。国民の目を盗む形で恩恵だけを受けていると批判を避けたかったのかもしれない。何よりも和を重要視する日本人にとって「周囲の協力が得られている」と言う実感はとても重要だ。

日本は資源国ではなく人口規模が大きく、いわば国民経済国家だといえる。経済を回している人や再出発を目指している人を主役にした経済以外の選択肢はない。子育てもまた根幹的な活動だろう。国民一人一人のやりがいを生むだけでなく未来の国民を育てる重要で意味のある活動だと認知されるべきだ。

子育て世帯が社会からの支援を実感できるような一貫したメッセージの発出が求められるのだが、政権は十分にその要請に応えているとは言えない。なぜか「拠出は増えるが実質的な負担増はない」というわかりにくい説明に終始している。

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岸田総理が「国民の負担が増えない形を考えている」としていた少子化財源だが、結局「国民が実感できない形で徴収する」ことになりそうだ。なお岸田総理の発言は「賃上げが起きるから実質的な負担は増えない」というものだった。時事通信が10月30日に伝えている。つまり決して「国民に持ち出しがない」とは言っていない。

衆院予算委員会は30日午前、岸田文雄首相と全閣僚が出席し、基本的質疑を行った。首相は少子化対策の財源について「所得を増やす中で、国民の負担率は決して増やさないよう制度を構築していきたい」と述べた。

この大方針を受けて具体的な少子化対策の議論が始まった。現在、健康保険などに混ぜて徴収する形で検討が進んでいる。ニュース用語は「公的医療保険の保険料」となっている。国民健康保険、企業などの健康保険(被用者保険というそうだ)に加えて後期高齢者医療制度が含まれるため「健康保険」という表現にならないようだ。

毎日新聞によると2024年度からの実施を計画しており、最大で1年当たり3兆円程度の予算規模になる。全てを公的医療保険で賄うわけではなく歳出改革と併せて費用を捻出するが子育て世帯以外では「新たな拠出となる」と宣言された。公的医療保険の保険料に上乗せ徴収がいつから実施されるのかについての記述はない。毎日新聞は財源が不足する間はつなぎ国債で賄うとしている。

今回特筆すべきなのは検討する側がむしろ「負担増を明確にしてほしい」と要望しているという点だろう。「全体として実質的な」という言い方がわかりにくい上に、具体的には健康保険などを通じて負担は増える。最初の時点で「この説明が嘘だ」と認識されてしまうと加速化プランそのものが崩壊しかねない。毎日新聞の表現は次のようなものになる。

論点には「全体として実質的な追加負担を生じさせないことを目指す」と明記した。ただ、懇話会の構成員から「国民や企業には新たな拠出が伴う。十分な理解醸成を図るべきだ」との指摘があった。

NHKの報道にも同様な指摘が見られる。負担軽減なのか負担増なのか極めてわかりにくい。子育て世帯以外が「やはり社会保険料が増える方向だ」と理解すると消費が冷え込み価格転嫁が進まず従って賃上げも起こらないため前提になっている「実質的負担増は起こらない」という表現が崩壊する。さらに実際にメニューが出たときに子育て世帯が「こんな対策では不十分だ」と考えて世帯支出を抑制する可能性もある。

一方、「政府が行う所得減税や、賃上げとは逆の方向だ」といった指摘も出され、制度への理解を得られるよう、政府が責任を持って説明するよう求める意見も相次ぎました。

現在の政府の経済対策の問題点はシナリオの不在だろう。例えば「まず消費を喚起して価格転嫁が進みやすい状況を作り、賃上げにつなげ、その後でインフレ対策をやります」などと順序立てて説明すればここまでの混乱は広がらなかったかもしれない。賃金が上がるということがわかれば現役世代は不安を感じない。だが、さまざまな対策協議が同時並行的に進んでいる上に現在地の認識が総理大臣からいっさい語られない。これが野党の「場当たり批判」を生み国民を不安にさせる。

今回も経済界の非協力ぶりは顕著だ。保険でも税でもない医療保険増額の一部転用という「わかりにくさ」に対する批判が出ておりこれは理解できる。健康保険に混ぜ混むと企業にも負担が生じる。「子育て支援」という大義名分があるため表立っては反対もしにくいが「国民や企業にとって新たな拠出を伴う」と不満を訴えている。経団連はこれまでも将来世代対策は消費税でやるべきと主張しており経団連に社会を支える気持ちがないことが窺える。共同通信による経団連と連合のコメントは下記の通り。

経団連は「国民や企業にとって新たな拠出を伴う。これまで理解醸成の動きがなかったのは残念だ」と苦言を呈した。連合は「給付と負担の関係が不明確な支援金制度の創設は大きな疑問がある」と批判した。

経団連は一貫して少子化対策に協力したくないというメッセージを発出し続けている。企業が社会に協力的でないというメッセージは「どうせ賃上げは起こらないのではないか」という印象を生み政権批判の主要な動機の一つとなっている。

結果的に財務省・経団連・総理大臣は一体であるという漠然とした印象が生まれ敵意となって総理大臣に向かっている。「総理大臣以下大臣たちの賃上げを優先するのか」という批判をかわすべく政権は火消しに追われているが根本的な問題は解決しないままだ。ロイター時事通信の記事を紹介しておく。賃上げをやっておいて返納というのはいかにもわかりにくい。

ここは総理大臣に「現役世代への投資は是非必要だ」と積極的に訴えてもらいたいところなのだが、総理大臣のリーダーシップはあまり期待できそうにない。所得税減税について鈴木財務大臣は「総理大臣が言ったことは事実ではなく、国債の発行が増えます」と答弁してしまっている。結局、総理大臣の「増税メガネ」批判払拭対策費も含めて赤字国債を6.3兆円分増発することになった。

では実質的な負担はどの程度増えるのか。重要なのは医療費改革だ。総理大臣のリーダーシップでどれくらい診療報酬を抑えられるのかが重要になってくる。

岸田総理は医師会対策として関係の深い武見氏を厚生労働大臣に起用した。財務省は医療機関の内部留保に当たる利益余剰金が増えていることを根拠に診療報酬を抑制したい考えだが、医師会は反発している。

仮に診療報酬の圧縮が進まなければ、その分少子化の財源は減らされ、結果的に赤字国債で補填するか保険料に混ぜ込んで国民から徴収しようということになるだろう。日経新聞産経新聞が診療報酬についてそれぞれ財務省の立場を書いているが、総理大臣の方針は示されないままだ。

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