現役支援と企業救済は両立できる。だが、企業救済を優先させてしまうと子育てなどの現役世代支援の原資がなくなりなおかつ支援すべき困窮企業も増えてゆく。順番を間違えるとどちらも救えなくなってしまうのだ。
ゼロゼロ融資が1兆円焦げつきそうだと各紙が伝えている。これに民間の貸し出しも含めると2兆円ほどが回収できなくなる可能性があるという。政府は貸倒にしないために新しい融資枠を検討しているそうだが無駄に終わる可能性が高い。すでに倒れかけているゾンビ企業が多く含まれていると日経新聞が指摘している。
日本に旺盛な消費が戻れば経済が回り始める可能性は高い。そうすれば企業の中には息を吹き返すところも出てくるだろうからこちらの方がやり方としては賢い。つまり、政府は消費税減税などの措置を先に講じるべきだ。
ゼロゼロ融資のうち1兆円程度が総焦げついているか焦げつきそうだと朝日新聞と読売新聞が指摘している。この「焦げつきそう」がどの程度のものなのかについては書かれていない。全体の融資規模は19.4兆円で焦げ付きそうなのは全体の6%である。
これをどう捉えるべきか。
「回収が難しそう」の内容をNHKは次のように書いている。かろうじて延命できたが潰れかけているところに貸した融資が8,785億円もあるという。
倒産などの危険がある「リスク管理債権」とされた債権が8785億円
時事通信は興味深いことを書いている。どうせ返せないわけだから「新しい枠組みを作って借り換えてもらおう」ということになっているようだ。これが政府対策の中に含まれるのだろう。
次の点が問題になる。
- 問題を先送りすればこれらの融資はやがて返ってくるのか。
- なぜ企業は返せないのか。単にサボっているのではないか。
倒産が増えることが予期されていた7月に東京新聞がこんな記事を書いている。コロナで落ち込んだ消費が戻ってきていないセクターで中小企業が苦しんでいるという内容だ。
例えば消費税を一定期間減税したり防衛増税の凍結を宣言するなどの政策を総動員しインフレによって得られる利益を国民に還元すれば消費意欲が戻る可能性はある。経済を回すのは国民なのだから国民が明るい見込みを持てば全体が潤う。結果的にこうした「ピンチ」の企業は救済されるだろう。だが賃上げなきインフレは支出の減少につながる。結果的に困窮企業が増える。
経済の良い循環を作るためには、政策そのものよりも順番が大切である。さらに国民(企業も労働者も消費者も)が今何が起きているのかを理解し協力する必要もある。つまり総理大臣の整合性が取れた説得力のある説明が求められている。
だが、国会では鈴木財務大臣が「増収分は既に使ってしまい減税の原資はない」と総理大臣の発言を否定してしまった。既に内閣の中でも整合性が取れなくなっている。少なくとも財務省は総理大臣と話を合わせるつもりはないようだし、この状態で「総理大臣の説明を聞くべきだ」とはとても主張できない。
全体の消費意欲を増すほうが「賢い」経済政策と言えるだろう。だがどういうわけか政府が「賢い」選択を採用する兆候はなくまともな説明を行うつもりもないようだ。
国民は苛立ちを募らせている。SNSでは「総理大臣だけ収入がアップするのは許せない」という声が上がっている。どうせ自分達の賃金は上がらないだろうと考える人が多いのだろう。SNSは気にしないとしていた総理大臣だが「給料は上げさせてもらうがその分は自主的に返納するからそれで勘弁してほしい」という対策で乗り切りたい考えのようだがそれで反発がおさまるとは到底思えない。
朝日新聞と読売新聞は1兆円と書いているが、日経新聞は焦げ付きは「2兆円」になる可能性があると書いている。「融資要請が殺到したことで2020年5月から民間でも貸付を受け付けるようになった」のだという。総額は43兆円程度で貸倒リスクが高い貸し付けが2兆円ということになる。貸倒が続けば政府はこれらの金融機関をも救済しなければならなくなる。
日経新聞が問題視するのが「ゾンビ企業」だ。すでに倒産することがわかっているのに事業を畳むことができていない企業が18.8万社もあるそうだ。コロナ前の2019年から3割増えたという。政府の政策は単にゾンビを増やしただけだった。
おそらく政策か慣習かのどちらかに「企業を潰したくても潰すのが難しい」という要因があるのだろう。活発に経済を回す人たちにお金を行き渡らせたいのならまずは無理な延命を止めなければならない。
いずれにせよ政府は「誰が経済の主役なのか」を思い出す必要がある。まずは経済を牽引する人たちにお金を行き渡らせるべきだろう。結局、誰かが賃上げを起こさなければ今後も悲観的な議論と足の引っ張り合いが続くことになる。