岸田総理の提案よりも消費税軽減税率0%や防衛費増税中止宣言の方が経済合理性が高い理由

数日に分けて岸田総理の経済政策がなぜ分かりにくいのかについて考えてきた。岸田総理は個人的な信念に基づいた経済政策を立てているが現状認識があやふやなために空中にお城を立てた状態になっているという考察になっている。

今回は永濱利廣氏の議論を見ながらこれを検証する。永濱利廣氏は「基本的に岸田総理の認識は間違っていない」と言っている。だがその一方で「であれば消費税の軽減税率を0%にすればいいのに」という立場だ。基本認識に賛同しつつもっと上手いやり方があると言っている。

鍵になるのは「公式のシナリオ提示」である。現在地を明確にした上で政府がどんな見込みで経済対策をおこなっているのかを早急に示す必要がある。そして、シナリオに整合させる形で政策を提示すべきだ。それがわかりやすい説明につながる。






議論はYouTubeと第一経済研究所のレポートで読むことができる。Youtubeでは詳細が語られているがレポートは要旨だけがまとまっていて軽減税率の話も出てくる。

【世界経済・日本経済アップデート】米国経済は10月以降減速/来年は成長率半減/欧州は成長率1%以下/中国は30年前の日本/日本は底堅い回復/原油高のインパクト/食料インフレ直撃【エコノミスト永濱利廣】(PIVOT・YouTube)

第一経済研究所のレポートはこちらから読むことができる。

永濱利廣氏の議論を聞くと「我々は既に上潮派の人たちが理想としていた時代に突入している」という認識があることがわかる。問題は誰もそれに気がついていないという点だ。上潮派の人たちの議論は政府が財政出動を行い世界をインフレ状態にするべきだというものだった。実はバイデン政権がこれをやってしまい、アメリカは40年ぶりのインフレに突入した。永濱利廣氏はこれを「世界は40年ぶりのインフレだ」という。あとはこの波に乗れるかどうかにかかっているというのが基本認識のようだ。

いわば「天国の招来」を説いていた人たちが「天国にいることに気がついていない」ということになる。

日本の経済は堅調だという。ここだけを聞くと永濱氏は日本経済に明るい兆しを見出しているのだろうと思える。だが、YouTubeの後半は全く別のことを言っている。世帯から所得は流出するであろうと予測しているのだ。

世界経済は40年ぶりの高いインフレに直面しており日本もその影響を受け始めた。政府は長い間インフレを待ち望んでいたのだからこれは「いいこと」だ。日本企業は成長の恩恵を受けられる。また物価が上がれば税収は自動的に増えてゆく。

日本企業は成長の恩恵を受けられる。また物価が上がれば税収は自動的に増えてゆく。ただこれが賃金上昇につながらなければ支出の増大につながる。これを家計からの所得流出と言っている。流出先は企業と政府だろう。税収は上振れするからだ。

これまで「デフレは悪いことである」と書いてきた。ここから脱却できるのだから「インフレは良いことだ」ということになる。だが、この記述は正しくない。デフレやインフレがいいことなのか悪いことなのかは人によって異なる。

海外で稼ぐ企業にとってインフレはいいことだ。インフレによって自動的に収入が上がる政府にとってもいいことである。だが、その恩恵を受けることができなければ、一般消費者にとって「インフレは悪いこと」になる。無党派層の動きは政権に影響を与えるのだからこれは政権にとっては悪いことになってしまう。

だから、エコノミストたちは盛んに「来年の春闘で賃金上昇があるかが鍵である」と言っている。インフレの恩恵が何らかの形で賃金労働者に還元され賃金労働者が地域で消費をすれば、かつてあったサイクルが再び回り始める。これが景気の好循環である。

しかしながらこれを阻害する要因が二つある。1つが日銀が盛んにいう「長年の慣行」である。もう一つの要因が政治だ。

岸田総理の発言を見ていると、外部要因(永濱利廣によると世界で起きている40年ぶりのインフレ)で生じた変化を「あたかも自分が起こしたこと」のように誤認させようとしているということがわかる。実際はアメリカが原因になって自然に起きていることなのに定額減税をしてみせることによって因果関係を逆転させ「政府の政策が良かったから需要超過が起きた」と主張できる。政府は状況を作り出そうとしているのではなくフリーライドを試みているといえるだろう。

永濱利廣氏は「上潮派は正しかった」と言っている。唯一上潮派と認識が違っている点は「既に上潮派の主張が実現した世界に突入している」という主張だ。税収は黙っていても上がる。だが上潮派が主張していたようなトリクルダウンはなかった。問題は水がないことではない。水が流れてこないことなのだ。

実はこの議論はマスコミでも語られ始めている。岸田総理の政策のうちデフレ対策にあたるものが物価高を助長しかねないとTBSが伝えている。この指摘は杞憂ではない。アメリカではコロナ禍対応の積極的な財政出動がインフレを起こしている。さらに財政出動の持続性を疑問視し金利の高騰が続いている。

問題を整理する。外的要因によってインフレになりやすい状況が整っている。だがその恩恵はこのままでは国民生活に還元されない可能性が高く日本人はいつまでもデフレが続いていると誤認する。国民生活に還元されなければ「エンジン」は回り始めない。だから何らかの形で政府は消費者の負担を減らしてやる必要がある。しかも国民が「エンジンが回り始めたな」と実感するまで継続的に行わなければならない。そういう理屈だ。

だから消費税の軽減税率を0にしろと言っている。直接的に物価高を止めるのと同じ効果が生まれる。ただ、状況が落ち着けば「食料品以外の消費税を上げてもいい」と言っておりとにかく消費税を全部下げろとは言っていない。永濱利廣氏はさらに「防衛費増税なども撤回すればメッセージとしては効果的だ」と重ねる。

コストプッシュインフレの主因である食料品の消費税率を英国などのようにゼロに下げれば効果的。

確かに構造改革は重要だ。だが日本政府と国民が一丸となって協力しようという気運は見られない。このような状態では構造改革で再び経済が成長を始めるというのは単なる夢物語ということになるだろう。だから、まずは現状を見てできることをやれという提案なのではないかと思う。結局人は実際に見たものしか信じない。であればみんなが信じるまで思い切った政策を続けるのが得策だ。

防衛費増額については実際にこの線で提案を始めた人がいる。それが茂木敏充幹事長だ。日本政府が起こしたインフレではないがとにかくそういう基調があるのだから税収は自然に増えてゆく。であれば増税はやらなくても大丈夫だということになる。あとは政策を実行している人がこのシナリオを信じるか信じないかということだけが重要になるがおそらく岸田総理は確信は持てていないのだろう。岸田総理が信じていないことを国民が信じるはずはない。

茂木敏充氏の最大のネックは岸田政権の幹事長という立場だろう。岸田総理の減税提案は場当たり的なものだとみなされている。つまり将来の増税を隠すために一時凌ぎの減税提案をしているという印象もある。さらに、鈴木財務大臣も「本当に成長が続くかわからない」という前提があるために将来の税収確保に熱心という印象だ。当然自民党の幹事長も「この隠し立て」に連座していると思われているはずだ。

仮に楽観的な成長シナリオを国民にわかりやすく提案できるリーダーがいれば、政権を担うのは引き続き自民党でも構わないということになる。だがそのためには明確な経済情勢に対する定義と現状認識の再確認が必要だ。

今回は「世界経済40年ぶりのインフレ」を論拠にして組み立てている。これは主にアメリカ経済のことを指しているものと思われる。それを支えているのはバイデン政権によってもたらされた政府支出の大幅な増加だ。本当に持続的なものなのかは再検討されるべきだろう。アメリカ経済には既に減速の兆しがありこのままリセッションに入る確率もそれほど低いものではないとされている。また、日銀によれば「長年の慣行」により物価上昇と賃金上昇が妨げられている。「40年ぶりのインフレ」が持続するかどうかは確率の問題であり楽観シナリオ・最も可能性が高いシナリオ・悲観シナリオに分けた対策が必要だろう。

こうしたシナリオがないまま議論が進んでいるため国民は過去を見て悲観的な未来を予想している。これまで長い間低成長が続いていたのだから今後もそれが続くであろうと想像するのは当たり前だ。

さらに前提条件には「国民が経済の好循環を信じるか信じないか」が組み込まれている。総理大臣のメッセージングも非常に重要なのだということがわかる。

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“岸田総理の提案よりも消費税軽減税率0%や防衛費増税中止宣言の方が経済合理性が高い理由” への1件の返信

  1. インフレに良いインフレと悪いインフレがある。
    現在のインフレはどの国も悪いインフレに陥っている事です。
    良いインフレの例え。
    田中角栄氏の日本列島改造論の様に、起爆剤がありそれに伴い順次経済が活性化し、品物の新製品がどんどん生まれ、それに伴い国民が雪崩のように買い、それに伴って会社が潤い、会社が潤うから給料も自然と奮発できる循環が生まれ、新製品が出るたびに値段が上がり、その新製品も即売する国民皆が恩恵に預かれるインフレ。
    東南アジアのインフレは他国の援助に拠った経済インフレですから基本が無いので一時的なインフレに過ぎず、経済の底打ちが速いでしょう。
    欧米のインフレは悪い見本と言っていいと思います、金持ちに偏る金の流れで起きるインフレですから、貧困層は置いてきぼりを喰らい何時まで経っても底辺の状態です。
    日本も海外に習った経済を目標としているので、金持ちに有利な政治経済を行っています、根本原因を見直し列島改造論的な構想を行って初めて穏やかなインフレに移行できると言うものです。
    それには海外に頼らない国内資源を海底から回収する技術開発で日本の経済の立て直しから始める時期に来ています。
    水素エネルギーの問題を解決するカギとなる ↓
    >>化石燃料の採掘中に発見された温暖化対策のカギ

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