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柿沢未途法務副大臣が違法なネット広告問題で辞任 背景には萩生田都連会長らとの確執も

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江東区長が公職選挙法違反で辞任した問題に新展開があった。柿沢未途衆議院議員が違法なネット広告は自分が勧めたと告白した。特捜部の捜査が入りかなり追い詰められていたのかもしれない。

報道は早速参議院で取り上げられた。岸田政権は大いに慌てたのだろう。「法務省の官僚が法務大臣の許可なく柿沢副大臣の辞表を勝手に受理した」として参議院での説明を回避した。

マスコミは岸田政権のダメージを気にしているようだが背景事情を調べるとネットを通じた政治参加という問題に行き当たる。まちづくりに興味を持っていた区民たちが自民党の「おじさん」政治に翻弄されている。今回木村区長の推し活に参加した人たちは「政治のような面倒なことにはもう関わりたくない」と感じているのではないだろうか。

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まず論点を整理する。

第一に東京都連における既得権益層と新しい人たちの対立という図式がある。江東区長を5期務めた区長の体制を維持したい既得権層と新しく入っていた柿沢未途氏という対立構造だ。ここに萩生田光一氏が参戦している。

次に地域づくりに興味のある市民の政治参加という問題がある。忙しい市民が政治家の生の声を聞くためにはインターネットを使った選挙活動が広がるべきだろうが、日本においてネット選挙は厳しく規制されている。木村区長は正攻法でここに挑み、最終的にネットの有料広告問題で退任した。

だが、問題はここでは終わらなかった。柿沢氏の「自白」を受けて辞任が昼休みに受理された。岸田内閣の争点隠しと思われるが直接的な証拠はなく「法務省の事務方が法務大臣の許可を取らずに勝手に辞表を受理した」ことになっている。岸田総理は陳謝したが責任を取ったり事務方を処分する考えはないようだ。

このように今回の事案には重層的な問題があり一つひとつを切り分けて考える必要がある。だがメディア報道は「また不祥事が起こり岸田政権にダメージ」という通りいっぺんのものになっている。

まず最初に江東区について考える。江東区はもともと下町と呼ばれるエリアだが、湾岸地域に高層マンションが立ち新しい住民も多数入っている。このため潜在的には既得権を持った昔ながらの自民党支持者と政治にあまり関心がない無党派層の新しい住民という分離が起きているはずだ。政治運動はこれまでの組織ベースで行われている。仕事を持っていて地縁がない人たちはこうした選挙運動に参加できない。こうした人たちに効率的にメッセージを伝えるためにはインターネットが有効なことは言うまでもない。

木村弥生江東区長は衆議院比例北関東ブロックに自民党候補として掲載され2014年に初当選した。2017年には京都3区と比例近畿ブロックで重複立候補した、泉健太現立憲民主党代表の対立候補だった。小選挙区では敗れたが比例で復活した。だが2021年には支持を落とし比例復活できなかった。父親は木村勉氏元衆議院議員なので議員二世ということになるが、対立候補として充てられるなど割と「便利な存在」だったことも確かだ。

ここに異変が起こる。

5期務めた山崎孝明江東区長が体調不良を訴えたため息子が引き継ぐことになった。Wikipediaにこの時のあらましが出ている。柿沢未途氏と萩生田光一氏の間に軋轢があり萩生田氏が柿沢未途氏を恫喝したと言われているそうだ。原典はFRIDAYである。記事が残っているので読んでみた。

「山崎区長と仲が良かった都連会長の萩生田光一氏は柿沢氏に区長選での協力を要請した。過去の経緯から柿沢氏が拒むと、萩生田氏は外にも漏れる大声で、『できないんなら、15区に参議院議員を鞍替えさせてもいいんだぞ』と丸川珠代氏を示唆して恫喝。柿沢氏が承諾しないと、『15区の支部長ポストを公募で決めるぞ』とも怒鳴っていた」

公認権を傘に恫喝を繰り広げる萩生田氏と柿沢未途氏の間に何かがあったのか。

柿沢未途氏は無所属で立候補し自民党の候補者を破ったあと自民党に追加公認されている。しかし都連からは受け入れてもらえず「山形県連預かり」となっているという。政治的空白区を作りたくない自民党中央と都連の間に潜在的な対立があることがわかる。

山崎孝明江東区長は結局3月27日に体調不良で入院しそのまま4月12日に亡くなったという。ぼうこうがんだった。

こうした潜在的な対立の中で「おじさんたち」同士の争いが繰り広げられていた。今にして思えば「特捜部が入るとは大袈裟な」と思えるのだが、副大臣が関与していたとなれば話は別である。

今回の件で柿沢氏の過去の行状などが改めて紹介されている。多少のルールは破っても問題がない遵法精神のない人だという仄めかしがあり「岸田総理はなぜこんな人をよりによって法務副大臣に任命したのだろう」と思わせる内容になっている。

木村弥生氏はXのスペースなどを使って普段政治に関心のない人たちに支持を広げてゆく。自分達に近い女性の政治家に共感を覚えた人たちも多かったはずだ。今回の区長戦に参加した人たちは背景にあるおじさん同士の争いは意識しなかったのではないか。

結果的にこの選挙は木村氏が初当選した。75906票対62148票という接戦だったそうだ。東京の女性区長は6名となり女性の政治参加への欲求が高まっていることがわかる。正攻法だけでこれだけの票が集まったのかあるいはネット広告でも使わなければ勝てなかったのか。今となってはもうよくわからない。全ての活動は区長の退任で無駄になった。

記者たちはそれほどネットに詳しくなさそうな木村さんが有料広告を選択した理由について知りたがったが木村区長は言及を避けていた。結果的に捜査過程でこの陣営は木村陣営ではなく柿沢陣営だったということがわかっている。

ここまでを整理すると「おじさんたち」の対立に政治に期待をした人たちが巻き込まれたという背景があることがわかる。柿沢氏をインナーサークルに入れたくない萩生田都連会長らが既得権の維持を主張し柿沢氏が反発した。だが、特捜部が入ったことで柿沢氏は新聞のインタビューで「違法性はなかった」という線をボトムラインにして先手を打とうとした。そしてその「表紙」は女性区長候補だった。

おそらく今回の選挙で木村さんを友達や知り合いに勧めたという人もいたはずだが「もう面倒な選挙には関わりたくない」と考えるだろう。推し活の結果が公職選挙法違反だったということになってしまう。この人たちが政治に戻ってくるかと問われると「おそらく難しいのではないか」と思える。俯瞰で見ると支援者たちは単に利用されただけということになる。

柿沢氏は「自白」したことからこの件についてこれ以上は隠すつもりはなかったのだろう。あくまでも自分は違法性の認識がなかったという説明で通そうとしていた。ではなぜ昼休みに辞任することになったのか。

ここで役割を果たしたのが蓮舫氏だった。総理に報道について尋ね、総理は慌てて報道を確認すると答弁した。結果、事務方が法務大臣の許可を得ずに辞表を処理してしまったので柿沢氏はもう法務副大臣ではなく従って国会で答弁できないと説明された。いかにも無理がある説明なのだが内閣側はこの説明で2時間粘ったそうだ。

また、小泉法相は自身の委員会出席中に辞表が提出されたが、提出を直接確認していなかったとした上で、「法務省として副大臣を委員会に出席させないという判断を法務大臣に諮らないまま事務方の独断で行ったことが確認された。このような判断は事務方のいわば越権行為であり、不適切なものだ。私自身監督不行き届きを痛感するとともに、二度とこのようなことが起きないよう、厳しく事務方を指導する」と陳謝した。

総理大臣も法務大臣も予算委員長も「これは重大な問題だ」「由々しきことだ」として謝罪した。だが「越権行為」の法務官僚を処分するとは言わず柿沢氏を連れてくることもなかった。普段から「聞く力」と「丁寧な説明」を強調する岸田総理だが、土壇場になるとその基底にある地金が見え隠れする。

さらに言えば謝罪がいかにも軽々しい。「責任を取る」「重く受け止める」と言いつつ結局何もしない。

おそらく当事者として木村区長の「推し活」に参加した人たちは「政治のような面倒なことには関わりたくない」という感想を持つだろう。東京新聞のインタビューの中で国政復帰などを聞かれた木村弥生氏は「もう関わりたくない」と繰り返し述べている。今回の件で地方政治における住民参加問題が語られることはなさそうだ。全ては岸田内閣への影響という大きな問題に収斂してしまう。

最終的には政府批判の争点探しに躍起になる野党ととにかく争点は全部潰してしまいたい岸田総理の間の大きな争いに巻き込まれてしまったといえるのかもしれない。

結局、真面目に街づくりをやりたい人たちは政治に参加しなくなり既得権を守りたい人たちと過程に興味を持たない無党派ばかりが育つことになる。今回報道で語られなかった背景をつなぎ合わせるとそんなやりきれない構図が浮かび上がる。

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