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深夜の日経新聞辞令で一時1ドル148円台後半の円高傾向 日銀の金利政策の柔軟化報道

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1ドルが一時148円台になった。深夜に出された日経新聞の「辞令」がきっかけである。もちろん日経新聞の記者が飛び抜けて優秀である可能性は高いが以前にも植田日銀総裁が重要な発表をする前に同じように日経が報じた事例があったことを考えると日経辞令の可能性がある。経済・金融活動が活発な昼間を避けて重要な情報を夜に流しているわけだ。

日経新聞は次のように「予言」している。

現在1%としている長期金利の事実上の上限を柔軟にし、一定程度1%を超える金利上昇を容認する案が有力だ。

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日経新聞の報道は「日銀が1%を超える金利を容認する」というもの。現在長期金利が0.890%まで上昇しておりそれを追認する動きだ。ロイターはこの流れを受けて「円が対ドルで一時149.05円、日銀が金利操作再修正との報道受け」と書いた。正確な表現は「という案が有力」と日経を正確に受けており最終決定ではないとのニュアンスはある。

日銀は「戦いに負けた」のではなく「容認してこうなった」という形を作りたいのだろう。日銀は現在でも従来の金融政策を維持する姿勢を見せているが、実際には現状を追認し徐々に金利政策を修正する過程が始まっているといえる。2012年以来の大きな変化が起きていることになる。


長期金利の上昇はすなわち日本経済が再び「成長」を始めたということを意味している。つまり物価の上昇を伴っている。日本の物価上昇は一時的ではなかったということが判明しつつあり、ロイターはこれを「ゴールテープ目前だ」と評価している。

ただし問題もある。多くの人はこのインフレを

  • ウクライナの戦争とコロナ禍に反応した一時的なもの
  • 賃金上昇が追いつかずコストプッシュに支えられた悪い景気だ

と考えているはずだ。

自民党も公明党も賃金上昇が物価に追いつくまでの一時的な措置として所得税減税を行うと説明している。これは景気が悪くなればその後には好景気が来るという「景気循環説」に基づいた議論だ。大きく基礎条件が変わった時には当てはまらない。

例えば中東情勢の悪化を見るとわかるように「ウクライナが終わったら世界は平和になり経済は元通りになります」という従来の説明も怪しくなり始めている。アメリカの国力が低下しており今後も散発的に混乱が続く可能性は排除できない。

例えば石油価格の先行きはボラティリティが高くなっている。直近では世界経済が不調のため原油価格は80ドル台まで下がると予想されている。だが中東の情勢が悪化すれば140ドルから157ドルになる可能性もあるという世界銀行の試算が出た。ボラティリティが高いというのは要するに「変動が大きくなり、この先どうなるのか誰にもわからない」という意味である。

市場はこうした変化を織り込むが政治は全く追随できていない。例えばガソリン対策においても現在の国会議論は「ウクライナ情勢が落ち着けば原油の価格は再び安定を取り戻す」という暗黙の前提で議論が進んでいる。与党の説明もそうなっているが野党の追及も自説にこだわるばかりで新しい変化を織り込むところまでには至っていない。

2012年以来の金融政策の変更が始まっており、なおかつ世界情勢も不安定になっている。こうなると日本政府には「論理的な経済運営」が求められる。だが、岸田政権にこれを求めるのは無理筋だろうし、野党の追求にもあまり期待が持てない。

もともと岸田総理の人気挽回の策とした始まった所得税減税提案に見られるように岸田政権の経済政策には裏打ちになる理論構成もベースになる基礎認識もない。

おそらく岸田総理にはインフレが始まったという認識はないはずだ。インフレの時に消費刺激策をとる人はいない。ただ結果的にこれが支出刺激につながり過度のインフレを招かないのは国民が将来の負担増と目の前で上がり続けている物価に対して防御的になっているからなのだろう。日本にはまとまった政府の個人に対する景気予想調査もないので、政治家は「カン」で政策を決める傾向がある。このため日本の消費者が何を感じ全体としてどう行動しているのかは誰にもわからない。

総理大臣の説明はさらに混乱しはじめている。所得税を返せば企業がそのメッセージを受け取って賃上げが進むはずだなどと言い出した。もともと税収が思いのほか好調だったから所得税で返すという説明だったので「政府の税収が好調だと企業が賃上げを検討する」という謎の理論が完成する。

岸田文雄首相は30日の自民党役員会で、政府の経済対策に盛り込む減税と給付について「国民生活を一時的に支え、経済界、労働界に十分な賃上げを呼びかけるのが目的だ」と述べた。

少子化対策については新しい負担は求めないと言っているが、防衛費に関しては増税が決まっているため「新しい負担は求めない」とは言わなかった。

こうなると政府の説明は話半分で聞いておいて各個人がそれぞれ防衛するしかない。政府を批判しても状況は変わらない。

それにしても政府がここまで迷走するのはどうしてなのだろうか。共同通信が額賀新衆議院議長の間違いを批判している。国民主権を理解していれば国民に対して決意表明である宣言を天皇に返上することなどなかっただろうと言っている。

識者からは「天皇主権だった戦前の反省に基づく戦後民主主義や現行憲法を理解しているのか」と、資質を危ぶむ声も聞かれる。

確かにちょっとした間違いは誰にでもあることなのだろう。だが、儀式が持っている意味を理解していれば決して起こらなかった間違いであることも確かだ。おそらく自分達がやっていることをの意味を理解せずに意思決定をする機会が増えているのだろうということはわかる。

「日経辞令」とそれに対する市場の反応が本当に正しいものなのかは実際の植田総裁の説明を聞いてみないとわからない。31日のお昼に説明があるようだ。読売新聞に対するインタビューは希望的観測に彩られ「年内にもゼロ金利解除があるのではないか」という憶測が飛び交った。報道はいつも一人歩きする。

日経新聞の記者がとびきり優秀で人よりも早く情報を見抜いただけなのかもしれないのだが、仮に日経辞令が多用されるようになればそれはすなわち「植田総裁が事前に時間をかけて調整する余裕を無くしているのだろう」と解釈することが可能だろう。事前に情報を流しておき徐々に市場を修正する時間的余裕がなくなっている現れだとみなすことができる。

少なくとも政治の側は理論的な理解はしていないのだから植田総裁がいくら政府に協力を求めて説明を繰り返してもそれは砂漠に水を撒くようなものである。植田総裁は総裁なりに市場との対話を試みているようだ。現在も円相場は148円台後半から149円台前半の狭い範囲で上下運動を繰り返している。

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