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財務省は多分「1回こっきりの減税議論」に一喜一憂する人たちが疲れるのを待っている

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新聞やテレビは「減税議論」一色になっている。意外と単純な作戦が通ってしまうんだなあと思った。なんとなく飽和する情報に疲れてきているのではないかと思う。

しばらく前にTBSが「所得税減税と防衛増税「矛盾しない」鈴木財務相」という記事を書いていたが、全く注目されなかった。国民は所得税減税キャンーペーンに疲れ始めており「難しい問題に自分が口を挟むのは」と考え始めている。みんなが疲れてきたところを狙って仕組みによる増税を入れてしまえば結局は財務省と自民党税制調査会が考えている路線が実現する。単純な作戦だが人の感情と行動をうまく理解している。

ただ、こうした議論の結果に何か違和感を感じる人も増えているようだ。公明党の山口代表は「1回の減税で増税を誤魔化そうとしているのではないか」という有権者のうっすらとした不信感を察知している。山口代表は「減税と給付は1回こっきりではない」と強調した。

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冒頭で紹介した鈴木財務大臣の発言は国会が開く前のものだ。指示を受けた自民党税制調査会は総理の減税発言に神経を尖らせていて「税調は追認機関ではない」と抵抗している。そして、いち早く「減税は1年だけ」との方針を決めた。山口代表の言い方を借りると「1回こっきり」の1年だ。その後は増税議論が待っているがその時に作られる仕組みは恒久的なものになる。恒久的とは「この先ずっと」と言う意味である。

鈴木財務大臣の表現を正確に引用すると

「防衛関係費のような恒常的に必要な経費は税制措置によって安定的な財源を確保することが大切。物価高騰等に対する対策、国民の生活を守る対策、これとは矛盾しない」

となる。単体では「一度限り」とも「一年だけ」とも言っていない。それは別のところで別の人が言う。たくさんニュースが流れてくるとその中に紛れてしまうので意外と分からない。

たぶん、自民党税調と財務省は「所得減税は1年限りの措置でありそのうちなくなる」と見ている。一方で防衛費の増額は恒久的(つまりずっと続く)ものである。恒久的の意味は分かりにくいがガソリンや復興税の税金の取り方を見ると「日々の支出」の中に混ぜ込む仕組みを作りわかりにくく取るコツのようである。これを安定的な財源と言っているのだろう。矛盾しないとは「減税議論があっても長期的には自分達が主張する財源確保が実現できる」という意味だ。

テレビの街頭インタビューやQuoraのスペースで話を聞くと「政治のような難しいことはわからないから」という人が増えている。減税議論ではさまざまな意見が飛び交っており「これはとても面倒な話なのだ」という印象がつきつつある。人々が「難しくて面倒臭い」議論に疲れたところで仕組みを導入するというのが税金を増やしたい側の作戦と考えると、話は財務省・自民党税調のペースで進みつつあるといえそうだ。

使う側の防衛省も既に全額もらうつもりになっている。そうするとさらに欲しくなるのが人情というものである。実はもう「8,000億円足りない」という話が出ている。だが、減税議論に埋もれて全くニュースにならなかった。やり方は「万博方式」である。お買い物リストを先に決めてしまい、後から資材費が高騰したからもっと欲しいとおねだりする。万博はこのやり方で当初の8割増の予算獲得に成功しているそうだ。一度既成事実を作ると中止はないという日本の特性をうまく利用し「新しい問題が出てきた」として枠を増やそうとする。単純なやり方だがこれが意外と成功する。

これを受けて東京新聞が「円安で防衛費が8,000億円足りなくなるのでは?」と指摘している。防衛省からの情報で8000億円ほど足りなくなるということがわかったという内容である。防衛省は資材高騰と円高が理由としているが安全保障上の機密が多く情報があまり開示されていない。

なんとなく「ああそうなのかな」とは思う。だがよく考えてみるとやっぱり変だ。岸田総理はバイデン大統領に喜んでもらおうとまずNATO並みの2%に防衛費を増やしますと約束した。つまりこの43兆円は数字ありきである。しかし一旦閣議決定されると「43兆円分のお買い物」が認可されたことになる。そこで防衛省は「円安になったから同じものを買うためには8,000億円足りません」と言い出したということである。

冷静に考えると「いやそれはおかしいだろう」と思うだろうが今はそうではない。減税の話が飛び交っており「税金を減らすのは大変なんだなあ」という空気が作られている。とても数年先のことまで考えている余裕はない。

これについて立憲民主党の後藤祐一議員が質問したが岸田総理は「43兆円で収めるから心配はいらない」と回答した。東京新聞は「上振れは総理大臣によって否定された」と安心したようだ。だが、よく考えてみるとこれもまた変だ。まだ財源の当てがついていないのに総理大臣は43兆円は確実に頂きますよと言っている。そして言われた方も「なんだ負担は増えないのか、よかったよかった」などと思ってしまう。そんなものなのだ。

「財務省の陰謀」などという説がまことしやかに語られる。だが、実際には陰謀でもなんでもない。とにかく議論を難しくしてみんなが疲れるのを待つという極めて単純な作戦が意外と成功する。そしてもらう側も枠が決まったらそこに数字をはめ込んでゆく。そして既成事実化したところで新しい事実を持ち出し「実は足りないんですよね」と言い出す。通ることもあれば通らないこともあるのだがやってみないとわからない。

ただこのやり方には大きな落とし穴がある。

減税議論はこんなに大変なのに効果は一年しか続かずしかも「1回こっきり」だ。一方、人々が議論に疲れたところにニコニコと財務大臣と自民党税調が現れる。あれ、これはなんか変だなあと気がつく人も増えてくるだろう。

自民党の支持団体は税金を流してしてもらう立場なのであまり大きく騒がないだろうが「お気持ち」が動機の小口の支援者が多い公明党は「どうもこれはまずいぞ」と気がつき始めているようだ。維新が躍進する大阪や兵庫では無党派層の「アゲインスト」の風にもさらされている。政治に距離を置いている人ほど「これはなんか変だ」と気がつくだろう。だから山口代表が「減税も支援も1回こっきりではない」と主張してみせたのではないかと思われる。

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