TPP審議が難航している。問題になっているのはTPPの中身ではなく、議事進行のやり方だ。政府・自民党は国民には条約の締結経緯について告知しなかった。外交交渉なので国民には明かせないというのだ。これについて「もっともだ」と擁護する意見がある。
しかし、この論は破綻している。西川公也委員長が「暴露本」を出版する予定になっていたのだ。Amazonで予約が始まっていたところを見ると、自民党や官邸側もこれを容認していたということになる。この本が出版されていれば大いに売れたであろう。そして、その金は出版社と西川議員に配分される。
つまり、こういうことになる。外交の経緯は国民に知らせたくはない。そして「相手国の信頼を損なうと公益に反する」のだと説明する。その一方で、交渉過程を私的に出版することは特に問題視されない。それは公益に反しないというわけである。これを整合的に説明することはできない。もし説明するとしたら次のようになる。「政治家が私腹を肥やすのは公益に合致するが、無知蒙昧な国民がよけいな知識を得ることは公益に反する」のである。
TPPの国会議論自体は壮大な儀式だ。多分、安保法制と同じように自民党と公明党はTPPを通すだろう。これは選挙結果で決まっている。重要なのは「お話し合いをしている」という納得間だ。だが、それもアメリカ次第だ。アメリカでの決議は大統領選挙が終わるまでお預けだという話がある。つまり、日本は自らこれを潰すことは避けたいが、かといって熱心に推進するという立場でもない。アメリカが通さなければ「はい、そうですか」となるだけである。つまり政権が重要視しているのは国の利益ではなく、政権の安寧なのだ。
だが、自民党の公益に関する認識には大きな問題がある。こういう人たちが国民を軽視したまま「公共の福祉」という言葉を弄んでいる。これは大変危険なことである。それは彼らが何かを企んでいるからではなく、何も考えていないからだ。
ついでに言えば「外交交渉の結果」を得意げにパーティーで話したり、出版してお小遣い稼ぎをする政治家が政権の中枢にいるというのは、多いに国益に反する。こういう政権が「日本には特定機密に関する取り決めがないから、アメリカから情報をもらえない」と嘆いている。
相手国の立場に立つとよくわかる。何でもべらべらと話してしまう(恐らくは会話すら成立していない)相手を信頼して重要な秘密を伝えることはないだろう。つまり、彼らが「外交過程でございます」と言っていることは、最初からたいした秘密ではない可能性が高いのではないだろうか。