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「最近Amazonの荷物が遅くなった」と思ったら自分だけではなかったらしい

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Amazonで品物を注文した。10月18日に注文したのだが26日までにお届けしますという。24日の朝に「小田原から発送しました」という連絡が来たが、到着は本当に26日の夕方になるそうだ。「そんなにかかるのか」と思った。

「自分だけ」と思いXを検索してみたのだが、どうやらここ数日はこうした遅延が発生しているらしい。「プライム感謝祭」の影響のようだ。特に混乱しているのがAmazonで荷物をトラッキングしている人たちである。一体何が起きているのか。調べてみた。

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Amazonで18日に品物を注文した。いつも、ヤマト運輸の営業所にあるPUDOに入れてもらうようにしているのだが到着は26日になるという。「まさか」と思ったのだが、実際にそうなった。24日の6時ごろにAmazonから「発送しました」という連絡が入ったので「こんな朝早くから作業をしているのか」と驚いた。あるいは24時間で作業をしているのかもしれない。いまだに荷物は小田原にあるそうだ。

最初は「プライムではないから差別されているのだろう」と思ったのだが、どうもそうではないらしい。Xで「Amazon遅くなった」で検索すると「プライムを退会する」とか「お急ぎ便の意味がない」というようなポストが複数出ていた。どうやらプライム感謝祭の影響らしいが全体的に発送作業が遅れ気味のようである。

日本の小売は最近Amazon依存を起こしている。「見つからなければAmazonを探せばいい」と考える人が増えた。小売店の従業員ですら「Amazonを探してみては?」などと提案する人がいる。Amazonには敵わないと言う気持ちがあるのだろう。こうなると「プライムデーや感謝祭になると値下げになるからそれまで待とう」という人も多くでてくるだろう。アメリカでも7月のプライムデーがブラックフライデーよりも人気になり商習慣が変わりつつあるそうだ。

個人としては便利になったと感じる。だが、結果として物流の全体効率は悪くなる。小口の個別配送が頻発するからである。「安いものを早く手に入れたい」という個人の部分最適化が進むと全体効率が悪くなる典型のような話だ。さらに社会全体を見ると「Amazonが倒れてしまうと全てが崩壊する」と言う一極集中のリスクが生まれる。

実際にAmazonは運送業界の環境を大きく変えてしまった。2017年には「宅配クライシス」が起きている。大手宅配業者はAmazonの高負荷に耐えられなくなった。ヤマト、日本郵便、佐川などは2017年が関係の見直しをAmazonに迫り、結果的に各社は総量規制と値上げをおこなった。佐川は撤退し、ヤマト運輸の依存率は7割から2割に減少したそうだ。

ここでAmazonが目をつけたのが組織化されていない中小の運送業者と個人だった。クライシス対応としてAmazonは中小物流を組織化(デリバリープロバイダー:デリプロ)したり個人事業主(アマゾンフレックス)と委託契約をおこなった。

佐川急便は事業の効率化に成功するがヤマト運輸はうまくゆかず再びAmazonと契約した。大口・法人シフトに成功した佐川急便と違いヤマト運輸はメール便などの小口に頼る体質から抜け出させなかったのかもしれない。現在では日本郵政との間で役割分担の協議が進んでいる。個人事業主への依存をやめて配送を日本郵政に一任する方向だそうだ。

ただ、ヤマト運輸がAmazonとの関係を再強化した際には現場が混乱したとされている。非効率的な個人を諦めて法人にシフトすると言う動きは家電、PC、携帯電話など多くの産業で見られる。

一般小売の最適化が進まずAmazonの一人勝ちになると何が起きるのか。やがてシステムがAmazon依存を起こす。だがその一人勝ちはデリプロやアマゾンフレックスなどの立場が弱い人たちに依存している。つまり社会全体が立場の弱い人たちに覆いかぶさっているような状態になっている。そして、この最も弱い部分が潰れるといっきにシステム崩壊が起きる。今回の遅延はセールに起因する一時的なものなのだろうが、システムに大きな脆弱性があることがわかる。

今回の特徴は「何か起きていそう」だが「全体像が全くわからない」と言う点だ。Xを検索すると「悲痛なお客さまの声」が多く聞かれるが、これが例外的なものなのかそれともある程度危険な領域に達しているのかがわからない。呟いている人たちの多くが「自分だけ?」と言っていた。SNSがなければ何が起きているのかはわからないままだっただろう。

キーワードを少し変えて、Xを「Amazon遅延」で検索すると「発送はされたものの遅延の連絡が来た」という書き込みが散見される。さらに午後便を頼んだら23時37分に届いたというものもあった。中には在庫が無くなった結果40日遅延したというものもある。ほとんどの人がAmazonのサイトを参照しているようである。つまりAmazonが組織化した運送業者を使っているのだろう。自前のシステムがなくAmazonと連携が取れていないため「いつ届くのか」すらわからなくなっているところも多いようだ。

大手の運輸業者が2017年に行ったような値上げ交渉を小口業者が行うことができれば問題は解決するかもしれない。だがその力関係は平等ではない。このためシステムが実際に潰れるまでは予兆に気がつけない。

2022年の夏にはアマゾンの配達員が労働組合を作ったというニュースがあった。「二次受け」となっていることから「デリプロ」の配下なのではないかと思う。彼らもまたAmazonの配送指示システムを使っていることがわかる。だんだんAIによる指示が過酷になってゆくそうだ。Amazon側は直接雇用ではないという理由で団体交渉を拒否している。またこの動きが全国に広がることはなかった。横須賀の事例はニュースになったが、2023年9月には長崎にも組合ができているそうである。ここが2つ目の組合になるそうだ。

この脆弱なシステムのせいで「これではまるで送りました詐欺だ」と怒っている人がいた。届いていないのに届きましたとなっていたとか、発送中ですと言いながら全く届かないなど現象はさまざまだ。状況が混乱しているため実際に詐欺の温床になる。プライム感謝祭の後には本当に詐欺メールが急増するらしい。そんな危険性もある。

Amazonが悪いわけではないと思う。だが少しガツガツと勝ちすぎた。市場原理では抑えられないのだから「政治がなんとかすべきである」とは思うのだが、現在の政治が新しいグランドデザインを描いた上で新しい制度を導入するとは思えない。

こうなると自己防衛を図るしかない。

中には遅延に対してクレームを入れているという投稿もがあるのだがこれは逆効果だろう。遅延が溜まっているということはクレームも溜まっているということだ。センターが混乱する。つまり、さらに間違いが増える可能性がある。セール品の場合は再注文してしまうと差額が発生するが、価格があまり変わらない場合は、潔くキャンセルするのが正解かもしれない。

今回は発送が終わるまで、ギフトカードを除き、クレジットカードやデビットカードを引き落とさない設定になっているらしい。デビットカードの場合注文が処理されるまで残高を維持しなければならないことになりきわめて不便である。こうなると、Amazonがそもそも一定量のキャンセルを見越して売っている可能性がある。売り逃しを防ぎたいのだろう。注文受付時にクレジットカードを処理すると遅延がありキャンセルを受け付けた場合クレジットカード会社にキャンセル伝票を入れなければならない。この手数料がバカにならないということなのかもしれない。

いずれにせよAmazonがキャンセル前提でシステムを組んでいるのだから、文句を言う時間を節約するためにもキャンセルしたほうがいいのかもしれない。「みんな」がきめ細かな対応より利便性と安さを求めた結果なので受け入れるしかないといえそうだ。

もちろん、Amazonも何もしていないわけではないようだ。Amazon Helpで「遅延が発生した」というアカウントを拾ってカスタマーサービスへとつないでいる。親切な動きではあるが「どこに連絡をしていいかわからない」という人が大勢いるせいである。

Amazonのカスタマーサービスに連絡するのには若干のコツがある。あからじめ「コンタクト」のリンクをブックマークしておくのがいい。ここに最近注文した品物が出てくるので、れをクリックすると電話の問い合わせができる。電話番号を入れると向こうから電話してくれると言う親切設計だ。つながりさえすれば意外と親切なのだがUIが壊滅的に分かりにくいためにここに辿り着くのにとても苦労する。

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