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イスラエル支援の共同声明で日本はG7から仲間はずれにされたのか。それとも面倒なことには関わらない方が正解なのか。

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バイデン大統領と日本を除くG7諸国がイスラエルに対して共同声明を出した。とにかく仲間はずれが心配になるマスコミは松野官房長官に「これはどういうことなのだ」と質問したようだが、松野官房長官の説明はどこか釈然としない。これは日本外交の失敗だと認識されるのではないかと感じたのだが、Yahoo!ニュースのコメントは意外なものだった。面倒に関わらずにすんだと考える人が多い。仲間はずれは怖いが面倒なことには関わりたくないと考える日本人が持っている独特の政治的センスを感じる。「どちらが正しい」かを自分で考えた結果議論になる欧米とは全くセンスが異なっているのだ。

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アメリカ合衆国は現在国際的に孤立しつつある。結果的にガザ殲滅に前のめりなイスラエルの後ろ盾になってしまっているからだ。このまま地上侵攻が開始されるとアメリカもイスラエルと一緒に「国際世論の被告席」に座らされかねない。

民主主義が国是のアメリカ合衆国は国際世論を気にする。軌道修正を図りたいアメリカ合衆国は「人質の解放が第一だ」と方針を転換した。CNNやNew York Timesなどが盛んに「人質解放が最優先だ」とするバイデン政権のコメントを伝え人質を取られているG7諸国とも共同声明を出すことにした。

ヨーロッパは当初「イスラエル支持」だった。パレスチナの支援を止めるべきだという意見もあったが論調が変わりつつある。アラブ諸国のイスラエルに対する反発が広がっており、ヨーロッパ国内にも動揺がある。エネルギー不足に直結する戦争の拡大は絶対に防がなければならない。

前回の非難声明にはカナダと日本を除く5カ国が参加した。まだアラブ側の反応がわかっておらず「ハマス非難・イスラエルの自衛権支持」という内容だった。今回はカナダが加わった。カナダはインドと対立しているのだが、英米がカナダ支持に回ったことで英米加の対立点が一つ整理されている。さらに「人道的な配慮」が乗ったことでトルドー首相が声明に乗りやすくなったという事情もありそうだ。

となると、なぜ日本だけが誘われなかったのかが気になる。

第一の理由は松野官房長官が指摘するように「日本だけが人質を取られていないから」というものだ。だがこれを額面通りに受け取ると「日本は被害を受けていないから関係ない」と受け取られかねない。

次に考えられる理由は「打診は受けていたが日本が乗れなかった」可能性だ。石油を中東に依存しているために「中立」以外の選択肢は取りようがない。共同声明はイスラエルの自衛権を全面的に支援する内容でありアラブ諸国にとっては受け入れが難しいだろう。

第三の可能性は日本は欧米の便利なATMだ見做されており「戦後復興の拠出」のような事情がない限りは頭数には入れてもらえないというものだ。ウクライナにおいて日本に期待されている役割がよくわかる。ガザ地区の復興のようなことはバイデン大統領の念頭になく従って日本は必要ないということになる。

Yahoo!ニュースに掲載されたFNNのニュースには識者のコメントが出ている。3名の専門家の意見はそれぞれバラバラだ。「日本は関係ない」と受け取られかねない松野官房長官の発言はよくなかったという人もいれば、日本は国益の観点から「どちらにもつかない」のが正解だという人もいる。さらに「イスラエル問題に対しても法の支配を訴えてイスラエル支持を確かなものにしなければならない」と主義主張の一貫性を重要視する人もいる。

つまり統一された「正解」となる見解がない。

このニュースで最も意外だったのはYahoo!ニュースにコメントを寄せている非専門家(つまり一般の人たち)のコメントだ。第一に「最新のニュースを見る」人と同じくらいの人たちが「歴史的経緯を勉強する」と回答している。つまりどちらかに肩入れするというより是々非々で判断するという人が多い。その上で個別のコメントを読むと「どちらが正解かわからないので巻き込まれなくて正解だ」という意見が多い印象だ。

日本人が日米同盟に期待しているのは東西冷戦の文脈が刷り込まれており「共産主義・権威主義」よりもアメリカ側に着くのが正解だと見做されているからである。だが、今回のガザ侵攻のニュースは「パレスチナ側にも被害が出ている上に歴史的に極めて複雑な問題である」と扱われている。こうなると日本人は「どちらにも否があるのだから、面倒なことには関わらないでいた方が得策」と考えるのかもしれない。だから「歴史をお勉強します」という人が多いということになる。

一方、この問題は欧米では大きく取り上げられておりZ世代と言われる若者たちの間には動揺が広がっている。大学では双方を擁護する集会などが行われ友人たちの間に意見の相違からくる亀裂も生じているという。亀裂と言っても生半可なものではない。こちらはこちらでまた別の原因があるのだろうという気がする。

確かに、今回の事件は「イスラエル版9.11」と呼べるほどのインパクトはあった。だが、冷静に考えてみると外国で起きた衝突がこれほどアメリカ人の学生たちに衝撃を与える理由がわからない。なんらかの国内事情が投影されていると考えた方がよさそうだ。

イプソスとABCの共同調査では「中東の平和にアメリカが責任を持つか」について大きな意見の隔たりがあるとされている。イスラエルを支援すべきだという人は増えているようだがウクライナとイスラエルのどちらを優先すべきかなど複雑な課題があるうえに、犯罪(33%)、銃暴力(32%)、インフレ(29%)、移民、米国・メキシコ国境の状況(26%)などの国内問題バイデン政権がうまく対応できていないという不満がある。

バイデン政権の政策に対する離反をかろうじて食い止めているのが「とはいえ共和党とトランプ氏に任せるともっと酷いことになる」という民主党支持者の恐怖心である。バイデン大統領の執務室演説も「ハマスやプーチンを許してしまうとアメリカの価値観が大変なことになる」という論になっている。つまり、アメリカ国内の政治世論は一種の闘争状態にあり「今戦いをやめてしまうと大変なことになる」という気持ちを持っている人が多い。この二分法的な世界観は一神教世界では理解されやすい。悪魔の誘惑に負けてしまうと地獄の炎に焼かれると説明できる。

バイデン大統領は予算獲得のために一連の「闘争」とイスラエル状態をリンクしてしまったことになる。

なぜ日本が省かれたのかはよくわからないが、今回のG7から日本を除いたという枠組みもバイデン政権が国際世論から孤立していないということを示すための枠組みだったと考えることができるのかもしれない。となると日本の一般人が考える「面倒なことに巻き込まれないのが正解」という感覚も意外と正しいのかもしれないと思える。

おそらく乗り遅れに関する不満が出るのは「勝ち負け」がはっきりした時だろう。クウェートが戦争に勝った時に「感謝広告から日本が抜けていた」として大騒ぎになった。日経新聞はこれを「クウェート感謝広告事件」と言っている。結果が出た時に「なぜ勝ち組に乗れなかったのか」と考えるのが日本人なのかもしれない。

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