ざっくり解説 時々深掘り

「ガザ地区はエジプトにくれてやる」とイスラエル アラブ側は断固拒否の構え

Xで投稿をシェア

前回のエントリーでは2005年のイスラエルのガザ撤退から総選挙を経てイスラエルがガザ地区に侵攻するまでの経緯をおさらいした。結果的にイスラエルは国際的非難を浴びハマスを掃討できなかった。

今回の作戦でイスラエルはガザ地区とハマスをどうするのだろうか?と思ったのだが、どうやら「エジプトに管理させたい」ようだ。入植を諦めてハマスを無害化した上で管理責任からも逃れたいとのことである。ただアラブ側はこの主張を額面通りには受け取っていないようだ。目の前に土地が現れればイスラエルはそれを自分のものにしたいと思うだろう。アラブの懸念にはそれなりの妥当性がある。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






ロシアのウクライナ侵攻などを見ていると軍事作戦の背景には土地に対する渇望があると思いがちだ。だがイスラエルの思惑はそうではないようだ。

記事をまとめると次の通りになる。

  • 赤十字国際委員会(ICRC)によると、封鎖に伴いガザは依然「占領下」にあると位置付けられる。その結果、イスラエルには国際法に基づき240万人の住民を保護する義務がある。

だがイスラエルはこれを迷惑だと感じている。この負担を取り除くために、イスラエルはガザ地区を「無害化」した後で管理責任をエジプトに委譲したい。土地と人の押し付け合いという非常に奇妙な状態が生まれている。

民族浄化の批判を避けるためには、まずエジプトがラファを解放し、ハマスを「濾過」して無辜のパレスチナ人だけを領域に退避させたのちに、イスラエルが地上侵攻しハマスのみを撃退、地下施設などを破壊した上で、エジプトに返上するのが「最善」ということになる。

理論的にはできなくもないとは思うものの現実的には極めて難しい。そもそも「敵対勢力の完全分離」などできないだろうから机上の空論の色合いが強い。だが2005年にガザ入植に失敗し、選挙結果も思い通りにならず。孤立化にも失敗、最後に壁も乗り越えられてしまった以上はもはやそれしか道は残されていないとイスラエルは考えているのかもしれない。ネタニヤフ首相はハマスとの戦いは「do or die(やるかやられるか)」だと言っている。

だがそもそもアラブ側はパレスチナ人を移動させることそのものに反対している。イスラエル側は「一時的な移住である」と主張するが、そもそもそれが信頼できない。広大な更地ができた後「気が変わりました、ごめんなさい、やっぱりガザはいただきます」となりかねないからだろう。そもそもヨルダンは人口のかなりの部分をパレスチナ難民系の人々が占めている。つまり一度住民を押し付けられた過去がある。

このアラブ諸国との会議にはヨーロッパ、日本、中国、ロシアも参加している。ウクライナ情勢ではロシアが「被告席」に座っておりその事態はまだ継続中である。一方で今回の問題においては事実上不参加のイスラエルが「被告席」に座っておりアメリカ合衆国が後ろ盾になっている。第三次世界大戦のような明確な「敵味方」構造はない。東西冷戦構造に慣れた日本人には理解が難しいのかもしれないが、慣れてゆくしかない。

2つのことがわかる。ガザ地区を一度「クレンジング」しようとしているイスラエルは国際的に要請が高まっている支援物資の受け入れに難色を示すはずだ。ハマスに物資を渡さずに民間人のみに支援物資を渡せといっているが、両者が混在している上に戦時下にあるガザ地区で国際監視団が物資の供給コントロールなどできるはずはない。過去には市街戦に失敗していることから考えると、街を上から破壊して更地にした上で「消毒活動」を行う可能性がある。だが、一度実行に移せば国際的には大いに批判されるはずだ。

するとバイデン大統領はその後ろ盾として国際的に孤立するかもしれない。アメリカ合衆国の国際的な影響力の強さはウクライナや極東において重要な要素となっている。日本と韓国にとってはかなり危うい状況が生まれつつある。アメリカ合衆国でも国内的に軍事支援継続の議論が起きているがバイデン大統領はイスラエル側を全面支援する構えである。ロシアのウクライナ侵攻の際に「プーチン大統領が」ではなく「ロシアが」と大きな主語がとられた。今回もまた「アメリカが・アメリカ人が」支援していると取る人も出てくるのではないかと思う。実際には賛成している人も反対している人も一緒くたに「アメリカ人」として扱われてしまうのだ。

なぜハマスがこの記事を選んでガザを侵攻しているのかについては定説がない。

数年前から準備されていたと言う説がある。アフガニスタン撤退の失敗からプーチン大統領がウクライナへの侵攻に自信を深めたなどと言う話があるが、この混乱を見てハマスが「今ならやれる」と考えたのだと仮定すると、この混乱を見て「今ならやれる」と考える別の国が出てきてもおかしくない。アメリカ合衆国は議会が麻痺しているので今別の戦争が起きたとしても大統領には予算の裏打ちのある行動はとれない。東シナ海・南シナ海でどこかの国が危険で無謀な動きに出ないものか少し感度を上げて警戒したほうがいいのかもしれない。一つの地区の動揺が伝播し次の無謀な行動を誘発するのだ。

どこで何が起きても全く不思議ではない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です