トルコが大変な事になっている。この一年で200人以上がテロの犠牲になって死んでいるのだそうだ。テロを起しているのはクルド人の過激派とISだ。「テロには断固と措置を取る」というのは簡単だし「テロリストは許せない」と言いたいのはやまやまなのだが、実際には上から押さえつけただけではテロを防ぐことはできない。かといって、テロリスト勢力を抱き込むことはできない。
なぜ一連のテロが起こっているのかという問いに簡単な答えはなさそうだ。「経済がうまく行っていないのではないか」という仮説を立ててみた。しかし、これは間違っているようだ。
トルコの経済は順調で、近年には10%もの高い成長を記録したこともある。リーマンショックで落ち込んでいるところを見ると、ヨーロッパとの関係が好調なのではないかと考えることができる。トルコは一人あたりのGDPは18,800ドル程度の発展途上国だが、この数字はハンガリーやルーマニアと同程度だそうだ。EUとの格差は意外と小さいのだ。
「エルドアン大統領に人気がなく強権で押さえつけているのでは」と考えてみたが、2014年の選挙では高い支持で大統領選挙を勝っている。好調な経済が人気を支えているのかもしれない。エルドアン大統領は民主的に選ばれた大統領なのである。
だが、その支持は一枚岩ではないらしい。エルドアン大統領は最近新聞社を接収し「人権侵害だ」として世界各国の非難を浴びた。新聞社はイスラム教指導者ギュレン師の影響下にあり、両者は対立している。
もともと、大統領は軍部と対抗するためにイスラム教勢力のギュレン師と組んでいた。しかし、統治がうまくゆくようになるにつれてイスラム教勢力がうとましくなったようである。それに怒ったギュレン師は影響力の及ぶメディアを使って政府批判を始めたものと見られる。その対抗措置としてエルドアン大統領側が強権を発動したのだろう。ギュレン師とエルドアン大統領は軍部という共通の敵を失い、却って仲違いしてしまったのだ。
トルコが「お行儀よく」民主主義を守っていたのはヨーロッパの一部として加えてもらいたかったからである。EU側はあからさまにイスラム教徒のトルコを差別しているが、トルコ人は「自分たちはヨーロッパ人だ」と考えている。しかし、近年EUはうまくいっていない。ギリシャ問題などがあり経済的にはガタガタである。イギリスのように離脱を仄めかす国さえある。トルコ人の心は徐々にヨーロッパから離れつつあるのかもしれない。
トルコはヨーロッパと接しもいるが、同時にシリアやイラクなどの紛争地域と隣接している。ここからの脅威が直接トルコの政治や経済に影響を与える。特にイラクの混乱はアメリカの失敗に起因している。先進諸国は勢いを失いつつあり、その結果として周辺国を不安定化させる。
エルドアン大統領が軍部との対抗の中から出てきた大統領であるところを考えると、強力な軍部が治安を維持するために活躍するとも思えない。軍部の台頭はエルドアン大統領の地位を危ういものにしかねないからである。
それにしても民主主義は脆い。エルドアン大統領は国民から支持されているわけだから、エルドアン大統領は民主主義的に選ばれた指導者である。与党公正発展党の支持はそれほどでもなく、野党が台頭している。そして、多数の国民の裏側にマイノリティがいる。マイノリティ達は民主的な手続きでは影響力を行使できないので、テロやデモなどといった手段に走る。そこで、エルドアン大統領はSNSを禁止したり、新聞社を接収したりして言論の統制を図るのだが、それでもテロの脅威を完全に防ぐ事はできないのである。
テロを上から押さえつけるためには、戒厳令でも敷いて夜間の外出を禁止するなどの措置が必要かもしれない。だが、エルドアン大統領が強硬な手段を取れば、世界中から非難を受け、国内の過激派の更なる台頭を招くのではないかと考えられる。
いったん排除された少数派は社会を根本から不安定化させる。これを民主的に解決することもできないし、かといって力で排除することも難しいのだ。
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