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メインフレームとCOBOLはもう限界 全銀ネットで障害が発生 原因は内国為替制度運営費モジュールの動作不良

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全銀ネットで10日に発生した障害は11日なっても復旧しなかった。原因は不明とされていたが、ロイターが「内国為替制度運営費のチェック機能」に不具合があったと報道しており日経Xtechも記者会見の様子を報道している。比較的小さなモジュール機能が全体に大きな影響を与えたことになる。

詳細の背景の分析はこれからだが、おそらく50年前に作られたメインフレームとCOBOLを中心としたシステムのメンテナンスが難しくなりつつあるのだろうと感じる。現在2027年を目標に置き換え作業が進んでいるが、問題のあったリレーコンピュータは2035年まで廃止できないとのことだ。

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10月10日は連休明けの五十日(ごとうび)だったが、2つのシステム障害が起きた。

まず、ゆうちょ銀行では認証サービスなどが利用できなくなった。不具合が発覚したのは朝の8時だったがゆうちょダイレクト(午後2時に復旧)とゆうちょPay(午後3時に復旧)はそれぞれその日のうちにトラブルが解消された。通帳アプリなどの障害は即日には解消しなかった。

もう一つは全銀ネットのトラブルだ。影響が出ているのは、三菱UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、山口銀行、北九州銀行、三菱UFJ信託銀行、日本カストディ銀行、JPモルガン・チェース銀行、もみじ銀行、商工組合中央金庫だ。なぜ限られた銀行だけが影響を受けたのかという理由は当初は伝わっていなかったが、全銀協はすでに原因を把握しているようだ。

全銀協の全銀こちらは1973年にシステムが起動してから50年間目立った障害がなかったとされている。さらにゆうちょの件と全銀ネットの件は関係がない独立した事象のようだ。

障害を起こした銀行はシステム改修を行なっていたことがわかっている。8時半ごろに障害があることがわかった。発覚当時は「バックアップ機能が使える」とのお知らせが出ていた。もちろん、全銀ネットにはそれなりのバックアップ機能があり、さらに夜間バッチのシステムも備えているとの説明だった。しかし振込の数が多すぎた。全部で140万件あったそうだが、そのうちの40万件が取りこぼされ処理が11日にずれ込んだ。

結局「リレーコンピュータが不具合を起こしている」以上の情報がないままで「システムの復旧見通しが立っていない」というニュースが流れ続けた。

テレビの報道はまるで天災のような扱いになっていて「システムがなおらないから仕方ない」ということになっている。だが、給料の支払い遅れなどの実害が出ている。この報道は異常だと感じたのだが、探してみると原因を書いているところがあった。それがロイター通信だ。

システム障害は10日の朝に分かった。原因はモジュールの一つ(内国為替制度運営費のチェック機能)の不具合だったようだ。10日に新しいシステムを作ってやり直したがエラーが発生し11日になってもエラーは回復しなかった。

こうなると「古いプログラムをとりあえず突っ込んで処理すればいいのではないか?」と感じるのだがロイターはきちんとそのあたりもフォローしている。保守期限でシステムを入れ替えたと書かれている。だから古いシステムに戻して復旧させるということができないのだろう。新しいプログラムを何とか動かすしかない。おそらく11日にも新しいプログラムを書いており12日の復旧を目指す。

全銀システム障害、2日で約500万件の取引に影響 12日朝の復旧目指す(Reuters)

内国為替制度運営費で検索するとXtechの記事が出てくる。無料部分だけを読んだところ次の点がわかった。有料部分に「なぜ古いシステムに戻して復旧しなかったのか」が書かれているそうだ。専門性のある記者たちが疑問に思うのは当然のことである。

  • 内国為替制度運営費は銀行間手数料のこと。
  • 内国為替制度運営費の処理の仕方が銀行間でまちまちだったため、問題が出た金融機関とそうでない金融機関が出た。
  • リレーコンピュータ(RC)は2023年10月が第1期更改で、2029年の第24期まで更改が行われる

「テストを当然実施してきた」、全銀ネットが10日に開催した説明会の一問一答(日経Xtech)

今後詳細の分析はでてくるのだろうが、現在まで分かっている情報を組み合わせると次のようなことがわかる。

現在のシステムは仕様がバラバラの各金融機関のシステムの間に「リレーコンピュータ」と呼ばれる翻訳機を噛ませる仕組みになっている。さらにシステムはメインフレームと呼ばれる旧式のコンピュータで作られている。COBOLと呼ばれる古い言語で書かれているものが多い。COBOL時代には仕様書を作る習慣がなくプログラムを開けてみないと何をやっているのかがわからないことが多い。かなりメンテナンスが難しい仕組みである。これを職人芸でカバーするのが昭和のシステムエンジニアの力量だった。

さすがにこれでは効率が悪すぎる。そこでコアになるシステムを標準化したうえで加盟金融機関から「決まった手続き」で呼び足してもらう仕組みに変えようとしている。これをAPIという。また主要部分と付加機能エリアを明確に区分して堅牢性と拡張性を同時に確保しようとしている。

2027年までにCOBOL中心のメインフレームからJavaベースに置き換えようというのが現在の構想である。新しい規格を「第8世代」と言っている。

だがXtechの記事を読むと2027年までにリレーコンピュータを完全にAPIに置き換えることはできないようだ。おそらくシステム改修に資金が回せない小さな金融機関が多く存在するのであろう。このため、リレーコンピュータは2035年まで廃止できないことになっている。だから第八世代に置き換わった後も2029年までかけてリレーコンピュータを改修する必要があるのだろう。

次期全銀システムは富士通メインフレームとCOBOLから脱却へ、何が変わるのか(Xtech)

今回の障害からわかったことはいくつかある。

今後廃止されるであろう言語を新しく覚えようとする人はいない。さらに仕様書がなくコードから仕様を探るというような前時代的なやり方に対応できる技術者も減っているはずだ。結果的にシステム内部で何が行われているのかがよくわからなくなっている。全銀協は「原因解明をしっかりやる」と宣言しているものの、仮に「ソースコードが読める技術者不足」が原因だった場合は対処のしようがない。

リレーコンピュータは極めて複雑な仕組みのためそもそも一度に改修することができず2029年までかけて24回に分けて更改する必要がある。システムが複雑なのかエンジニアが足りないのかなどはこれからわかることになるだろう。

ただ仮に今回の問題が「メインフレーム・COBOL」問題だと特定できたところで今後消えてゆくであろうプログラミング技術を再習得しようとする人は出てこないだろう。システム改修期限を早めればついてゆけず脱落する金融機関も出てくるはずだ。原因がわかったところで容易に対応策が出てこないだろうと容易に予測できる点に問題の難しさを感じる。しばらくの間全銀ネットではこの手の問題がしばしば起こるのかもしれない。

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