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官僚化するコールセンターのコミュニケーション障害

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ソニーの光ネットワークに切り替えたのだが、接続がおかしい。そこで不思議な経験をしている。コールセンターの対応が何か変なのだ。最初は何が変なのかはよくわからなかった。
現象はリンクダウンだ。どうやら5.0Ghzは接続されているので、ONUの2.4Ghz帯おかしいのではないかと思う。ノイズということも考えられるのだが、NECやApple製のwifiを使っているときにはこんなことはなかったから、やはり腑に落ちない。
最初にリンクダウンが起きたときにソニーに電話をした。そこで親切のつもりで「ログかなんか取れるんだったら、見ときますけど」と申し出てみた。するとオペレータは困惑した声で「ログなんか取らなくてもいい」と言い出した。細かく聞くとどうやらルーターにログ機能があることを知らないようなのだが「知りません」がいえないようだ。「調べて詳しいものから折り返しします」と言った。2時間くらい待ったところ別の担当者がかけてきて「ログが取りたいということですが、細かいサポートは有料になります」と言い出した。どうやら分からないらしいのだが、どうしても分からないとは言えないようだ。
あれ、何かおかしいなあと思った。だが、話しを聞いても何がおかしいのかはよくわからなかった。どうやら会話というか質問と答えがかみ合わないのである。
詳しく聞いてみると、切り分けにマニュアルがあるらしい。まずはONUをリセットさせた上で、回線を調査する。そして回線がおかしくないことを確かめたら、いくつか設定を試させてからONUを新品に交換するらしいのである。確かに、こうすれば、オペレータも客も細かいことを知らなくてもすむ。
さらにいろいろ聞いたところ、ついにオペレータは「それは指示書には入っていない」と言いだした。よほどうんざりしたのだと思う。
マニュアル(知識のデータベースみたいなもの)があり、それに沿ったことしかいえないのかなあと思ったのだが、そうではないという。FAQみたいなナレッジベースはありそうだが、障害の切り分けなのでナレッジベースでは対応できない。
ここで何がおかしいのかが分かった。オペレータはパペットなのだ。どうやら顧客はエンジニアとは直接話せないことになっている。障害を報告するとオペレータにはマニュアルと指示が与えられて「その通りに言え」と言われているらしい。だから、顧客がちょっとでも専門的なことを聞こうとすると「分かりません」の代わりに「そこから先は有料です」と言うことになってしまうのである。
コールセンターの中には身分制が引かれていることになる。エンジニアは社員なのかもしれない。オペレータは多分非正規か協力会社だから「身分が下」である。当然、顧客もエンジニアから見れば「身分が下」ということになる。どんなに社員の指示がおかしいと顧客が思っても、それを言ってはならない。ソニーのエンジニアは顧客に「無知なんだからエンジニアの言うとおりにやっていればいい」と思っているのかもしれない。
さすがに「ムカッと来た」ので、エンジニアに「電話は絶対に切れないという言質をとれ」とオペレータに命令してしまった。エンジニアは客と話す必要がない。だから客を怒らせるようなことを言ってもオペレータが被ってくれると考えるようになる。だから、「誰が客なのかわからせてやろう」という意地悪な気持ちになってしまったのだ。するとしばらく返事が返ってこない。型どおりの検査はやったものの「責任を取れ」といわれてやり直しているのかもしれない。
この体制にはメリットとデメリットがある。デメリットは「エンジニア(オペレータ)に顧客経由の知見が貯まらない」という点だろう。一方、知見が蓄積しないからソニーは安くオペレータを使い続けることができる。前回、アップルのカスタマーサポートについて観察した。サポートはジニアスと呼ばれエンパワーメントされており(ただし正規雇用かどうかは分からない)スキルアップも図れる。また、アップルはその知見を製品開発に活かすことができる。顧客も含めてWin-Winの関係である。ソニーは人件費を安く使える代わりに知見を商品開発に活かすことができない。知識は金融よりも大きな資本なのだが、ソニーはそれを自ら捨てていることになる。もちろん、オペレータは客の苦情受付と「人間ヘルプマニュアル」のままでスキルアップができない。
コールセンターの構造を知らない人だったら「エンジニアがおかしくないと言ってます」と言われれば丸めこまれてしまうのではないだろうか。そもそもエンジニアを代弁しているとは言わないで、お客の困惑を押し切ってしまうのだ。
面倒だなと思うのは日本人の変な生真面目さだ。アメリカ人なら「それは私の仕事ではない」とか「できない」と言ったと思う。これは怠けているというわけではなく、正直さが美徳だとされているからだろう。だが日本人は自分が無能で権限がないと思われるのを嫌がる。だから「分かりません」の代わりにいろいろなことをいい状況を複雑化させてしまうのだろう。
さて、「だからソニーの回線は使うな」という話をしたいわけではない。どっちみち、日本の大きな会社というのは階層構造になっているはずだ。NTTの方がもっと官僚的かもしれない。いったんトラブルが発生したらどこも似たり寄ったりだろう。
顧客接点を見ると、なぜ日本の会社が知的資本を失いつつあるのかがよくわかる。流通が煩雑というよりは、社内の官僚機構が硬直化しているのだろう。終身雇用制度や正社員制度から脱却しないと、知的資本の流出は続くのではないかと考えられる。
よく日本企業が「お客様は気まぐれで何に飛びつくか分からない」と嘆く声を聞く。だが、顧客の声を聞いていないのだから分からないのは当たり前なのではないだろうか。


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