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アメリカ合衆国が積極介入姿勢 総工費約2兆円のジェラルド・R・フォードがイスラエル沖に急行

第三次世界大戦が始まるとしたらこのように展開するのだろうなと思わせる事態が東地中海で展開している。背景にあるのが政治の不安定化だ。その不安定を突いて小さな衝突が起こる。リアクションは大袈裟なものになり過大なリソースが分配され地域の情勢が必要以上に緊張する。すると別の場所に空白が生まれ別の衝突が起こるという具合だ。いったん道筋ができてしまうと連鎖反応的に不安定さが増してゆく。そんな世界である。仮に世界が戦争状態に突入するとしてもそのきっかけはほんの些細なものなのかもしれない。

ただ国際世論には揺り戻しも起きている。ヨーロッパの多様な意見が一方的なエスカレーションを妨げている。ジェラルド・R・フォード打撃群を送り込んだアメリカ合衆国も「米軍をイスラエルに派遣することはない」と宣言した。あくまでも空母は「お守り」として東地中海に鎮座している。

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ガザ地区のハマスがイスラエルに奇襲攻撃を行い世界に衝撃が広がった。アメイカ合衆国とイスラエルは事前に奇襲攻撃について把握しておらず諜報能力に疑念が生じた。エジプトは事前に情報を知っておりイスラエルに報告していたようだが無視された。

すでにこの件はイスラエルメディアに報道されているため当然ネタニヤフ首相は批判されることになる。すると批判を払拭するためにさらに大袈裟な攻撃を仕掛ける。アメリカの諜報機関も異状を察知できなかった。さらに下院が機能不全に陥っており大統領が取れる選択肢は限られている。

そんな合衆国はジェラルド・R・フォードを核とする空母打撃群をイスラエル沖に派遣し積極介入の意思を示した。エスカレーションを防ぐためという理由づけになっているがいかにも大げさな展開だった。総工費2兆円の大型原子力空母をテロリスト制圧のために差し向けるというアンバランスさには危うさと滑稽さが入り混じる。

アメリカが展開すればハマスの掃討など簡単にできるように思える。大規模空襲を行いガザ地区を殲滅してしまえばいいからだ。だが厳密にはガザ地区とハマスは別物だ。ガザ地区には200万人を超える市民やパレスチナ難民が暮らしている。これを一様に殲滅することはできないというのが現在の国連の立場でありアメリカ合衆国は国際世論の賛同なしにこの一線を超えられない。

すでに国際世論では「ガザ完全封鎖」は人権侵害であるとする声があがっている。国連人権高等弁務官はオーバーリアクションといえるガザ完全封鎖にイエローカードを突きつけた。

アメリカは民主主義の国なのでこうなると「国際世論」に働きかけてハマスへの攻撃を正当化しようとする。実際にハマスは音楽フェスを急襲し大勢の罪のないの市民を虐殺し人質を連れ去っている。人質の中には殺された人もいるという情報がある。主に訴える先はヨーロッパだ。

確かに当初ヨーロッパはパレスチナへの支援の全面打ち切りを決めた。だが、すでにこの決定をめぐってEUは一種の混乱状態に陥っている。ヨーロッパには帝国支配から独立した国がありパレスチナに対してシンパシーを感じる人たちも多いようだ。

すでにイスラエルの国防大臣が「ガザを兵糧攻め」すると言っている。これはこれはガザにいるパレスチナ人にとって実質的な死を意味する。EUが支援を引き上げてしまうと実質的にイスラエルのエスニッククレンジングに加担することになり容易に手が出せない。

アメリカはイランの介入を警戒して空母を送ったという説もある。ワシントンポストが報じているが、イランは関与を否定している。イランが宣戦布告して介入を宣言していない以上アメリカはこれ以上の手出しはできない。巨大空母を中心とする打撃群を地中海に送ったが、結局は国内向けのデモンストレーションに終わってしまうようだ。

ホワイトハウスは追加支援を約束したがイスラエルには軍隊は送らないと発表した。これが当初の想定通りなのかあるいは国際世論の変化を感じたために政策転換したのかはわからない。

当初から「なぜジェラルド・R・フォードを展開しているのか」という合理的な説明はなかった。アフガニスタンからの撤退はアメリカが応援してきた政府の瓦解を招いた。ウクライナは明確にロシアから攻撃されていたがアメリカ軍は積極的に関与しなかった。一方でガザには攻撃すべき敵がいないのに大袈裟な空母打撃群が展開した。だが結局は国際世論の動向を見極めイスラエルへの派遣は決定されなかった。主語を「アメリカ合衆国の」とすべきか「バイデン政権の」とすべきかはわからないが、近年のアメリカは安全保障にどこか危うさがある。数歩先が予測できず態度にも一貫性がない。

そもそも、このジェラルド・R・フォードが曰く付きである。

ジェラルド・R・フォードは40年ぶりのアップデートであり最新鋭の意欲的なイノベーションが満載の原子力空母と紹介されることが多い。だがこの文章の末尾には「まだ設計も製造もされていない艦載機や兵器を将来、搭載しようという大胆な意図、そして今後、数十年にわたってアメリカのシーパワーを確固たるものにしようという決意」との記述がある。つまり今は単に大きいだけということになる。この情報が2017年のものだ。

この後、海上公試が行われた。だが実際に大西洋に配備されたのは2022年である。トランプ大統領は「強いアメリカ」の象徴としてこの巨大原子力空母を作った。しかしながら2017年の時点ですでに5年間は配備されない可能性があると書かれていた。あまりにも不具合が多く実戦に投入できなかったのである。

Despite the fanfare of the president’s commissioning, the ship may not be deployed for another five years as various systems still must be vetted, according to The Navy Times.

結局、ジェラルド・R・フォードは事前報道通りに5年遅れで配備された。この時の報道ではトランプ前大統領がとにかく「大きくてかっこいい」空母にこだわっていたことがわかる。軍隊の野心的な計画は技術的に追いついておらず、大統領は「かっこいいアメリカの象徴としてのかっこいい原子力空母」にこだわっていたそうだ。

今回ハマスの奇襲についてアメリカもイスラエルも前兆を察知できなかった。エジプトは情報を得ていたがイスラエルは無視した。このため不測の事態を恐れたアメリカが急遽大袈裟と思われる空母を派遣した。下院では議長が決まっていない。アメリカの大統領が追加支援をやろうとしても権限は限られている。このためとりあえずもっとも派手で象徴となる空母を展開した。だが、それがいかにも大袈裟な見た目になってしまった。

予想外の展開にオーバーリアクションになっている可能性が高いわけだが、アメリカ政治とイスラエル政治がそれぞれ混乱しているためこのオーバーリアクションがさらなる地域情勢のエスカレーションをもたらしかねない危険な状況になっている。これをかろうじて抑えているのがヨーロッパの多様な意見だ。

この問題はすでに二つの大きな空白を生み出している。一つはウクライナだ。アメリカ世論はウクライナ支援疲れを起こしており議会にも「国内への移民流入を優先せよ」という声がある。バイデン政権が壁の建設を再開したのはそのためである。今回バイデン政権と議会共和党がユダヤ系の声を優先すればおそらくウクライナには大きな空白ができるだろう。

民主党にはすでにパレスチナ支持派が多くユダヤ系の中にもネタニヤフ政権を支持できないという人たちがいるそうだ。すでにガザ地区は完全包囲され人権侵害の懸念が出ている。仮にアメリカ合衆国がイスラエルに肩入れしすぎると民主党支持者からもバイデン政権は人権侵害と戦争犯罪にに加わったと非難されることになる。さらにここに共和党から「ウクライナとイスラエルのどっちを取るんだ」という声が加わる。こうなると「ここにもう一つカードが加わったらさらに混乱するだろうな」という予想がつく。

例えばそのような「カード」の一つに極東情勢がある。仮に今中国が台湾に対して何か行動を起こしてもアメリカ合衆国がウクライナ・イスラエル・極東の3面に同時に展開することは難しいだろう。バイデン政権は優先順位をつけることを余儀なくされるが、この時に「極東を優先すべきだ」という論拠を見つけるのは極めて難しい。

イランが介入を否定し過剰な空爆に対する国際世論の懸念も出始めており今の所ガザ地区をめぐる情勢は「これ以上はエスカレートしないだろう」という観測になっているようだ。イランがイスラエルに襲い掛かる兆しはなく、中国がアメリカの隙をついて台湾を攻撃するという予兆も今の所はないというのがもっぱらの見方である。

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