話をこう置き換えてみよう。学校がクラブ活動で校庭と校舎を開放している。コーチは民間人だ。そのコーチが児童・生徒に校内で性加害を加えていた。にもかかわらず学校側は20年間も何も気が付かなかった。さらに性加害を受けた児童・生徒はそれが「いいことなのか悪いことなのか」が全くわかっていない。今回騒ぎになり「ああ騒いでもいいんだ」と気がついた。
まず学校側がやることはなんだろうか。「知りませんでしたこれから気をつけます」と伝えることだろうか。
校長が出てきて謝罪すべきだろう。その上で教育委員会などの信頼できる第三者を立てて調査を依頼し再発防止策を検討すべきである。性加害の現場になった「人目につかない場所」にはそれなりの改修が必要だ。さらにいえば温床になったクラブ活動は即刻廃止すべきだ。なぜならば「子供の教育を目的としている場所で人権侵害を行う」ような活動とはしっかりと縁を切っていると児童・生徒・保護者に示すべきだからだ。
さらいいえばクラブ活動に参加していたOBたちにも広く聞き取りを行うべきだ。いじめでいうと「傍観者」だがいじめでは「傍観者もまた加害者」なのだ。普通の常識で当たり前のことがなぜ芸能界とテレビ局では当たり前でなくなる。電波権限で守られている地上波放送局には高い社会的責任とモラルが求められる。
NHKが「NHK内部で複数回性被害があった」と伝えている。20年前の出来事なのだそうだがおそらくは放送センター内の出来事と思われる。放送センターに入ったことがある人はわかると思うが、無機質な壁に囲まれた建物でどこにいるのかが容易にわからなくなる。かなり「迷宮性」が高い建物である。読売新聞は「ジャニーズのタレントが占有していた部屋があった」としている。つまりNHK側のスタッフたちの目が届かず何が行われていたとしても不思議ではない。独特の体育会的序列があったことは既にわかっている。
内部ではよく知られており報じるかが分水嶺だったと指摘する声もある。おそらくNHKはそれなりに局内で議論してハレーションを覚悟して報道しているのだろう。だが、内部事情はこの際どうでもいい。一方でNHKがNHK内部の話を伝えていることから「本当にこれは事実なのか?」と疑う人たちもいる。当事者と報道機関が同一だからこそおきる問題であり第三者による公平な検証が求められる。
NHKは報道で短くこれを伝え「看過できないので取り組みをさらに進める」とのコメントを発表した。建物の管理責任に対する謝罪はなく「ザ少年倶楽部」の存続についても言及しなかった。タイトルの変更を含めて抜本的な見直しをやると宣言しているがタイトルを見直して続ける可能性があるということだ。
戦後の一億総懺悔のようにテレビ局の総括が始まっている。TBSは既に報道特集で「懺悔」したが、あくまでも「自分達の知らないところで事態は動いていた」としていた。ジャニー喜多川氏を慕っている人も多くとても信じられなかったという。一方でテレビ朝日はいまだに総括報道をやっていないという指摘もある。
相変わらずジャニーズ事務所の当事者意識は薄い。「弊社が認識している限り、そうした事実はない」としている。だが否定はしておらず「第三者である再発防止特別チームに任せる」としている。さらにテレビ局に対して「被害報道の際には検証をしてくれ」と要請している。
巷間指摘が出ているようにそもそもジャニーズ事務所側で補償に応じる人たちがスタッフ・タレント含め少なくとも「傍観加害者」だった可能性が高い。これまでジャニーズを応援してきた人たちにこうした指摘をするのは大変心苦しい。だが、周りで見て見ぬ振りをしてきた人たちもまた加害者なのだ。
今回の件に関しては記者会見をやり直すべきだという声がある。これには反対だ。おそらく、大勢の大人たちや先輩たちが「見て見ぬふり」をしてきたのは確かである。当事者たちがいくら釈明を繰り返しても何の役にも立たない。
仮に被疑者が亡くなっているという理由で公的な調査が行えないなら、最低限今後はそうした調査が行えるようにしておくべきであろう。放送は総務省の所轄だ。テレビ局に人目がつかない性加害の余地があったのであればそれは調査の対象となるべきだろう。
私憤による制裁は再発防止には役に立たないばかりか事実の隠蔽につながり有害である。つまり、私憤を動機にした責任追求も意味はないどころか再発防止という観点からは極めて有害だ。
なぜ私憤制裁には意味がないのか。今回の事案は性被害だがいじめの構図に似ている。被害者と加害者が独立して存在するわけではなく「薄々気がついていた」「気がついていたが黙殺することで加害に加担していた」という「傍観加害者」が大勢いる。補償業務に参加するスタッフ・タレントに加え、それを報道するべきテレビ局までが「傍観加害者」とその「容疑者」なのである。私費で第三者委員会を立ち上げてもやはり「依頼者が忖度しているのではないか」という疑惑がつきまとう。とはいえ加害者が物故しており公的権力が介入することもできない。
今回は「NHKは犯罪の場所貸」とはしなかった。ジャニー喜多川氏は亡くなっており警察がこれを捜査することはない。従って事件にもならない。本来は生きているうちに事件として捕捉されるべきだったし今後は具体的な相談窓口を作ったり責任ある職員や社員のいない空間を作るなどの具体的な対策が求められる。
さらに当時の「ザ・少年倶楽部」に参加していた人たちに徹底的な聞き取りを行うべきだ。これまで性被害・加害という理由で積極的に関わることを避けてきたのだろう。繰り返しになるがこれを「いじめ」に置き換えるとおそらく傍観者も広い意味では加害者である。一部報道では「先輩たちにも我慢しろと言われた」と伝えられている。少なくとも放送局は独自の調査をもちより全貌を把握する社会的責任がある。制裁目的でなく再発防止目的なので後悔は必要ない。
厄介なことにこの調査はおそらく元ジャニーズのタレントたちにも及ぶはずだ。当時の関係者の中には既に独立した事務所をを構える人たちもいる。放送局は新しく社長になった東山紀之氏も含めて徹底的な調査を行うべきである。