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「自民公明合わせて51減」の衝撃 自民党独自調査で

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現代ビジネスに「独自」と称する記事が出た。「【独自】自民党情勢調査で「自民41減」「公明10減」…岸田首相は絶句、11月解散を本当に決断できるのか」という表題になっている。自民党単独で過半数割れ、連立与党でも安定多数を若干下回り改憲勢力もぎりぎり2/3を下回る程度の微妙な負け加減だ。とはいえ野党は政権政党になれるほどの勢力は得られないため、今まで通りに好きに与党を批判できる。

冷静に考えてみれば、そもそも誰も「選挙をやる」という話はしていない。にもかかわらず選挙観測報道が一人歩きし「封印したはずの独自調査」までがリークされるという異常事態になっている。

背景にあるのは2022年末の税制改正大綱議論だ。改めて去年の議論を読み直してみると2027年に1兆円の余剰財源を確保することになっており「2023年しかるべき時期」に詳細を決めることになっている。このまま敗北覚悟で選挙に突っ込んで禊(みそぎ)を済ませるか、あるいは「増税をやったら国民に見放される」という恐怖心の中で増税提案をするかという究極の二択を迫られそうだ。

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日経新聞によると、衆議院の定数は465、過半数は233、安定多数244、絶対安定多数261となっているそうだ。今回リークされた調査内容を信じると220+22ということになる。これは、自民党単独で過半数割れ、連立与党で「安定多数」を若干下回る242議席ということになりいくつかの委員会を野党に明け渡すことになる。なお改憲勢力は220+69+16=305ということになり(公明党を入れなければだが)憲法改正が若干難しくなるという微妙な結果でもある。

あまりにもよくできた数字なので「誰かが作文したのでは?」と思えるほどだ。現代ビジネスは「複数のリサーチ会社に依頼した数字」としており、どのような聞き方でどう調査したのかは報じていない。加えて解散を阻止したい人たちが大袈裟な数字を出しているのだろうという公明党側の声を紹介している。

Yahoo!ニュースでは政権に批判的な週刊誌などがいくつも「自民党41議席減の衝撃」という記事を書いている。減税提案は喜ばしいと考える有権者も多いだろうがこのような記事と減税提案が結び付けられてしまうといかにもあとがなくなったので減税で票を買おうとしたように見えてしまう。

一方で公明党に関してはこの数字は当たっているようだ。常勝関西と言われてきた大阪・兵庫で維新との選挙協力を解消する動きがあるが挽回策がない。公明党はこれまで比例との重複立候補は認めないという立場だったがそうも言っていられないのではないかという報道がある。公明党が盛んに「減税も補助金も」と主張する背景には切迫した選挙事情がある。

こうなると国民民主党の政権与党入りという話が出てくる。現在の条件は過半数割れなので国民民主党はこの負けから距離を置くことができる。それでも国民民主党を味方につけたいということになると今度は国民民主党のバーゲニングパワーが上昇することになる。国民民主党にとっては「売りだし時」なのかもしれない。

そもそもなぜこのような数字が「報道」され一人歩きするのか。

産経新聞は有馬晴海氏の声を紹介している。実際には複数の調査が行われたようだ。好調・不調の調査が入り混じっているようだが一部の幹部しか情報を教えてもらえないために情報が錯綜しているのだそうである。そのうちなぜか不利な報道だけが「独自」として一人歩きしたことになる。有権者も決め手のない選挙に対して迷っていることがわかる。こうなると選挙直前の小さなニュースによって大勢が変化するというボラティリティの大きな選挙になりそうだ。

岸田総理はこのところ「補正予算を成立させるべきだ」と盛んに情報発信し、解散報道を打ち消そうとしている。公認権の縛りがあるため岸田総理の発言に異議を唱える人は誰もいないだろうが本音では「そんなインパクトの弱い発信では選挙に勝てない」と考えている議員が多いことがわかる。これが却って自民党の迷走ぶりを際立たせる。

今回の調査では「ああやっぱり」と感じた点と意外だった点がある。まず公明党が常勝関西でかなり議席を減らすのは既定路線だ。だが、実は維新の一人勝ちという結果にもなっていない。維新は28議席増加なのだが候補者を全国に立てられるほどの資金力は持っていないのだろう。さらに鈴木宗男氏との間にもトラブルを抱えており一部の票を減らすかもしれない。結果的に立憲民主党が引き続き野党第一党になる。立憲民主党は与党にはなれないがそれなりの規模を維持する。これまでのように好きかってに与党批判ができるのだ。

政治課題に関する関心は低下しているように思える。国民の不満はどこか漠然としていて目立った抵抗運動もない。野党を積極的に評価するという声も聞かない。にもかかわらず「自民党が大幅に議席を減らすのではないか」という結果が出てくる。具体的な反発があればそれに応えることもできるのだろうが「漠然とした不安」には応えようがない。

今後補正予算の審議が始まると国会答弁という新しい不安要素が出てくる。既に加藤鮎子大臣の答弁を不安視する報道が若干見られる。つまり、国会審議が始まってしまうとさらに内閣の支持率が下がる可能性がある。

さらに12月になると去年先送りした増税議論を精緻化する必要が出てくる。去年の議論の後に賃上げが行われていればよかったのだが、円安が進行したこともあり実質賃金は下がり続けている。さらに「成果を分配」という岸田総理の提案まででてきたことで、落ち着いた増税議論などとてもできそうにない。

仮に惨敗調査報道が一人歩きしたままで選挙のないままで議論が始まると党内の抵抗はさらに大きくなることが予想される。前回は岸田総理の防衛費増額が議論を主導し「負担増やむなし」という結論で終わった。決まったのは「5年後の2027年度に1兆円余りを確保する」ことだったが詳細を詰めることはできず宮沢会長は「来年のしかるべきタイミングでまた集まってもらい、最終的な詳細まで決めたい」と抱負を述べて終わっている。つまりそろそろ「しかるべき時期」にさしかかっている。

このまま惨敗覚悟で選挙に突入して禊を済ませるか、あるいは増税をやったら負けるという恐怖感の中で2027年度に1兆円を確保するための措置を議論するかという究極の二択になりつつある。

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