イスラエルにハマスからの総攻撃があった。最新の報道によると双方の死者数は数百人単位に及んでいる。ガザ地区からのミサイル攻撃だけでなくイスラエル国内にも奇襲攻撃があったようだが、イスラエル当局は事前に察知できなかった。国連と西側はハマスのテロを非難しているがイランは支持を表明している。イスラエルはサウジアラビアとの関係修復を進めておりイランにはそれを妨害する動機があるなどと指摘するメディアもあり状況は複雑だ。
イスラエルはユダヤ教の祭日シムハット・トーラーに当たる休日の土曜日だったが全国に空襲警報が鳴り響き騒然としたようだ。多数の死者が出ているようだが詳細の数は不明である。ネタニヤフ首相は「戦争状態」と表現し、これが各紙の見出しになっている。
最新の死者数は時事通信が伝えている。双方で100人台の規模で死者が出ているそうだ。
- 同国(イスラエル)のメディアによると、100人以上が死亡、900人以上が負傷
- ガザの保健省は、少なくとも198人が死亡し、1600人以上が負傷したと発表
AP通信によると前触れのない奇襲(サプライズ・アタック)だったようだ。「Hamas surprise attack out of Gaza stuns Israel and leaves hundreds dead in fighting, retaliation」との見出しが取られている。BBCもこれだけの大規模攻撃なのにイスラエル側が事前に動きを察知していなかったとしているので、奇襲だったことは間違いがない。
それだけハマスが追い込まれていたということがわかる。
ロケット砲の砲撃などの話はたまに聞くがイスラエル領内にもハマスの戦闘員が侵入した模様だ。また一部報道ではガザ地区への連れ去りもあったようである。今後の「和平交渉」に向けての人質の可能性がある。
西側と国連はハマスを非難し8日に国連安保理事会が開催されることになっている。このところ英米仏と中露に分断されている国連安保理事会がどのような裁定を下すのかに注目が集まる。
日経新聞は「ハマスがロケット弾数千発 イスラエル首相「戦争状態」」と見出しをとりガザ地区を実効支配するハマスが和平交渉から取り残された焦りから総攻撃を仕掛けたと分析する。だが、このレベルの攻撃が外国の支援なしには成立するはずはない。イランはハマスへの支持を表明しておりPoliticoは「Iran’s support for Hamas fans suspicion it’s wrecking Israel-Saudi deal」という記事を出している。イランが「イスラエルとサウジアラビアの関係を悪化させようとしているのではないか」との指摘だ。
ではなぜイランに動機があるのか。経緯は次のようになる。
バイデン政権とサウジアラビアの皇太子の関係が悪化していた。懸案は人権だった。バイデン大統領は安い原油を求めてサウジアラビアに接近するが人権問題を取り下げることはなかった。そこでサウジアラビアは中国を引き込みアメリカとの核兵器開発交渉が頓挫しかけていたイランに接近した。イランとサウジアラビアは2024年1月から揃ってBRICSに参加することが決まっている。
一度アメリカを「仲間はずれ」にしておいて有利な交渉を持ちかけるという狙いがあったのではないかと思われる。
案の定、焦って巻き返しを図ったアメリカはインドから中東にかけて「アメリカ版一帯一路」を提案しサウジアラビアとイスラエルに話を持ちかけた。司法改革で国際的に孤立していたイスラエルはこの話に乗り気であり両国の関係改善が進む。
一方アメリカはサウジアラビアに新しい軍事支援を行うのではないかと言われており民主党の議員団から懸念の声が出ている。サウジアラビアの目的は「サウジ防衛への米の関与を規定する防衛条約の締結」とされる。このためサウジアラビアはパレスチナ問題でイスラエルに大幅に譲歩してしまう可能性があるのだ。
孤立を恐るイランにはハマスを刺激して攻撃をしかければ取り残されかけているパレスチナが動揺する可能性があるということになる。
Politicoの記事を読む限りイランは密かにイスラエルとサウジアラビアの関係修復を邪魔しようとしていたわけではなく公然と批判を強めていたそうだ。外国の援助なしにハマスがこれほど大規模の攻撃を行えるはずなどないと考えると誰もがイランの関与を疑うだろうが、それこそが狙いなのである。
中東は正解のないパズルなので現状を動かそうとするとこのような悲劇は必ず生まれる。
今回の動きは「アメリカに代わって世界平和を主導する」という習近平国家主席の野望と大統領選挙を控えて外交的な成果が欲しいバイデン大統領が引き起こした問題といっても良いのかもしれない。だが結果的に犠牲になるのは移動の自由がほとんどなく「天井のない監獄」とも呼ばれるガザ地区の一般市民である。
日本人は国際問題を「東西冷戦構造」で見る習慣がある。ロシアや中国は悪者で日米欧は正義の味方であるというような単純な世界観だ。なので当然ウクライナの戦争ではアメリカや西側に味方するのが「正解」ということになる。この世界観では「どちらの側につくのか」を決めるのはさほど難しくない。だが、実際の世界情勢はこうした善悪の二元論では語れなくなっている。日本は原油のほとんどを中東に依存していることを考えても今回の問題は決して他人事ではないという気がする。