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自分大好きトランプ氏はアメリカ議会の混乱でも大いに自己愛を満たす

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アメリカ議会が混乱している。下院議長が解任されたが後任の見通しが立っていない。こうなると出てくるのがトランプ氏だ。「議長に指名されれば受ける用意がある」として漣(さざなみ)が立っている。週明けにはキャピトル・ヒルへの凱旋もあるかもしれないのだという。Foxニュースは期待しCNNは呆れている。共和党の内規では刑事訴追されている人は議長にはなれないそうだが「俺は頼りにされている」ということを示したいトランプ氏の自己愛を満たすには十分なのだろう。

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最初にこのニュースを伝えたのはフォックス・デジタルだった。

議長になりたいとは思わないが自分は共和党に幅広い人脈がある。だからUnifier(統合する人)になれると主張したそうだ。

このため求められば短期間議長に就任して混乱を収拾しても良いと申し出た。ウクライナの戦争も1日で収めることができると言っているくらい自分の能力に過剰な自信を持っている人なので共和党の内紛くらい「短期間で」解決できるというわけだ。

だがこれはおそらく仮想的万能感だ。一方で「逃げ」も確保している。バイデン大統領の訴追に力を入れている保守派のジョーダン議員を支持し「彼こそが議長にふさわしい」と言っている。トランプ氏の関心はあくまでも「自分がいかに重要で能力がある人間である」かを見せる点にある。議長のような面倒な仕事はやりたくないのではないかと思う。「自分はやったらできるがもっと重要なことをやらなければならない」という仮想的万能感が非常に強い人なのだ。

日本のような謙遜型社会において仮想的万能感が強い人は潰される傾向が強いが、アピールしてなんぼのアメリカでは事情が違うようだ。常に自分の能力を過大に評価し外にアピールすることがよしとされる社会である。自己愛が強い人は「自分に自信のある魅力的な人だ」ということになる。

こうした仮想的万能感の強い人にとっては他人の失敗も全て自分の成功である。

バイデン政権が壁の建設に追い込まれている。2023年会計年度の移民申請者の数は280万人と言われているそうだ。メキシコの大統領が「毎日1万人が南米からメキシコを通過してアメリカに向かっている」と指摘したとも伝わっておりこの数字は誇張ではないようだ。合衆国は壁の建設以上の対策を打ち出せていないが、すこしばかり壁を延長したところで押し寄せる移民を防ぐことはできないだろうとも言われている。

280万人は亡命申請をした人の数である。読売新聞によると米墨国境で拘束された不法移民の数は240万人になるという。アメリカでは入国審査の際に「亡命しました」と申告すれば審査をする必要が生じる。審査を受けている間は「亡命希望者」ということになりアメリカに滞在することができるのである。ベネズエラのようにアメリカと敵対する国から「困窮を理由に」逃げてきた人もいて必ずしも偽装とは言い切れないのが難しいところだ。

200万人強というのは茨城県や広島県の人口に匹敵するそうだ。

ロイターによるとアメリカ国民の54%が移民によってアメリカ人の暮らしが困窮していると感じている。当然のことながら共和党支持者の方が拒否感が強く73%が圧迫を感じているのだそうだ。バイデン大統領も国内の混乱を無視できなくなったようだ。だが「壁」意外に対応策は見つからない。

かつてバイデン大統領はトランプ氏の主張する壁の建設は問題の解決には全く役に立たないと主張していた。このため「議会が予算の使い方を変更させてくれないから止むを得ず壁を作る」と苦しい言い訳をしている。さらにメキシコ大統領に対しては「単に政治的な宣伝であり何の意味もない」と説明したそうだ。

トランプ氏は大統領時代に「どうしても壁が作りたい」と民主党が支配する議会と対立。34日間に渡って議会と対立し連邦政府が閉鎖されたことがある。「壁の建設」はこうして問題の解決策から政争の具に堕落していった。大勢の連邦職員がフードバンクに並んだとも伝えられている。困窮する連邦職員などどうでもいい。とにかく自分が正しいということを相手に認めさせたいというのが自己愛の強い人のメンタリティである。

トランプ氏はこの時の議会対立も踏まえて「やはり自分の主張は正しかった」とバイデン氏を批判している。トランプ氏は「壁建設の再開が遅すぎた」と指摘した上で「バイデン大統領は自分に対して謝罪すべきでないか」と主張している。一般のアメリカ人が感じる不安も全て自己肯定の道具なのだ。

自分は有能だ、自分の主張は正しいなどと叫びながら、連邦政府閉鎖まで視野に入れつつ大騒ぎをするという自己愛型の政治の結末はどこか寂しい。

トランプ氏は今回の件で大いに自己愛を満足させたが、これでトランプ氏が刑事訴追されているという現実が消え去るわけではない。議会ではバイデン大統領に対する弾劾裁判の調査が進んでいるが、トランプ氏にも「オーストラリアの富豪に軍事機密を伝えたのではないか」という新しい疑惑が浮上しているそうである。抱えている訴訟の数はさらに増えるかもしれない。

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