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新しいBBC砲 アバンクロンビー・アンド・フィッチの元経営者が男性を性的搾取

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アパレルメーカーのアバンクロンビー・アンド・フィッチの元経営者の男性への性的搾取疑惑が浮上した。元経営者はモデル志望の若い男性をセックス・イベントに参加させていたそうだ。BBCは「セックス・イベント」と表現しているが、性行為中もスタッフに監督させた上で男性同士の性交渉を楽しみスタッフが多額の現金を渡していたなどと書かれている。

ジャニーズ事務所の問題は少年に対する性加害だったがアバクロのケースでは成人の参加者に守秘義務契約を結ばせており「話せば訴えられること」がわかっていたそうだ。日本では特殊事例のように語られる男性の男性に対する性加害・搾取問題だが、世界のエンターティンメント業界では割とありふれた話であるということもわかる。

ただし現在のアバクロファンの間に動揺は広がらないだろう。既にこの元経営者に対する不買運動が起こりかなり前にCEOを退任している。その後新しい経営者たちのもとでリブランディングが進んでおりブランドに対する影響は軽微である。BBC砲によって価値観の転換を迫られたジャニーズファンと自発的に価値転換を図ったアメリカのアパレルファンの違いがよくわかる。

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アバクロは日本でも芸能人の間で御用達のブランドとして広く知られていた。2009年には上半身裸のモデルが出迎えてくれることで有名な店が銀座に作られて話題になっている。

日本では青年になりきらない少年風アイドルの需要が高く一度「推し」になったファンは長く一つのグループのファンクラブに止まる傾向がある。一方のアメリカでは価値観の転換が進む。かつてあった白人の美しい男女を用いたプロモーションは「ルッキズム」とみなされ軽蔑の対象に変わった。アバクロの成功は過去のものになりジェフリーズCEOはかなり前に既に退任した。アバクロは新しい経営者のもとでリブランディングをおこなっている。

このためジェフリーズ氏の問題がアバクロのブランドイメージを毀損することはないだろう。

今考えても仕方ないことなのだが、仮にジャニーズタレントが「自分達もジャニー喜多川氏の問題を知らなかった」として自発的に事務所を独立するような体裁にしていれば、東山紀之氏と井ノ原快彦氏がジャニー喜多川氏の代理で叩かれるようなことは起こらなかったのかもしれない。あくまでも「見せ方」の問題だが、最初に親族の藤島ジュリー景子氏と一緒に記者会見に応じたために創業者の代理として叩かれることになってしまった。最初の印象付けがその後の議論に影響を与えるということがわかる。

また、被害者の男性が成人していたというのも大きなポイントだ。仕事と引き換えの性行為であるということはわかっていて守秘義務契約書も結ばされているのだという。BBCはアメリカの検察は事件を捜査すべきであるという弁護士の話を紹介してるが事件化は難しいだろうという認識も持っているようだ。


アバンクロンビー・アンド・フィッチ(アバクロ)は1892年創業のアメリカのスポーツショップだった。アメリカでは「古臭いおじさんむけブランド」という評価だったが、1992年にマイケル・ジェフリーズ氏がラグジュアリ・カジュアルとしてブランドを再構築した。この時に用いられたのが健康的な男性美だった。筋肉質の男性の上半身がフィーチャーされ薄暗い店内にはセクシーな香水が充満していた。アパレルのブランド広告の主役は白人であり、多様性に配慮して有色人種が脇役として配置されるというのがお決まりの構図だ。アメリカ社会の主役は白人であり有色人種は「その他大勢」という価値観は実はかなり最近まで当たり前のものだったのである。

このラグジュアリ・カジュアルというブランディングは1990年代には大成功した。だが2000年代になるとジェフリーズCEOの急拡大政策のもとでその希少価値が失われてゆく。2009年に日本に進出した時には店舗閉鎖、値引きなどが行われるようになっていた。アメリカ国内で減少した売上を補うため積極的な国際進出が行われ東京進出もその一環だったものと思われる。2010年以降2014年までに220店舗を閉店さらに2014年に60店舗の閉店が計画されたなどと当時の報道は伝える。日本では福岡にも店が作られたがフラッグシップ店ではなく「売れ残り処分会場」のような感じであまり話題にならなかった。

この凋落に拍車をかけたのがアメリカの消費者の気持ちの変化だった。2013年には2006年の発言が掘り起こされた。

どの学校にも格好のいい子とそうでない子がいる。自分達が対象にしているのはイケている人たちであってイケていない人たちにはアバクロの服は着てほしくないというのがジェフリーズ氏の主張だった。当時はそれほど話題にならなかったがBusiness Insiderの投稿でこの内容が掘り起こされてネット上で炎上したそうである。Business Insiderの元記事は見つからなかったがNewYorkerに炎上経緯を分析した記事が見つかった。

時代の変化を感じ取ったあるネットメディアはホームレスにアバクロの服を着させるというキャンペーンを思いつく。この提案は2時間後に3万回も再生され数日以内に700万回も再生され他他、CNNやFOXなどでも取り上げられたそうである。

この時期はオバマ大統領時代にあたる。アメリカで多様性が最ももてはやされていた時期だ。かつてあった「白人至上主義」や「ルッキズム(外見至上主義)」は古臭いものだと感じられるようになり次第に嘲(あざけり)と攻撃の対象になっていった。アンチルッキズムの潮流も生まれており価値観の多様化は今でも進んでいる。

ジャニーズ問題の発端はBBCの報道だった。多国籍企業がこれに反応し国際的な評価を下げるような事務所とは付き合えないということになった。一方でメディアとファンはできれば今まで通りの価値観で「推し」を応援し続けたいと考える。気持ちが追いつかないため「NGリスト」問題のように「一体今回の騒ぎは誰のせいなのか」というような犯人探しが続いている。さらにファンと告発した人たちの間には誹謗中傷合戦がある。「一体今回の問題が起きたのは誰のせいなのか」というような無意味な論争がしばらくは続くだろう。おそらくアメリカのように自発的な変化があればこうした動揺は起こらなかったのではないかと思う。

アバクロといえばブルース・ウェーバーのプロモーション写真も有名だ。ブルース・ウェーバー氏にも男性モデルたちを性的に搾取していたことがわかっている。当時男性モデルになりたい人たちは「仕事を得るためには当然通らなければならない関門だ」と考えていたようだが、2018年に一部の男性モデルたちが自分達がニューヨークタイムスに告発をしている。一部は法廷に持ち込まれ4年後に和解で終わった。ブルース・ウェーバー氏は名の知れた有名な写真家だったがこの裁判の結果多くのクライアントを失っている。

いずれにせよ、マイケル・ジェフリーズ氏とアバンクロンビー・アンド・フィッチの関係は既に途切れており、アバクロは既に方針転換をしている。BBCの取材に対してアバクロ側は「現在の創業者とは見ているが」とした上で「既に新しい経営陣の元で再生を図っている」と主張する。

日本のファンたちは今まで通りに「アイドル」を応援し続けたい。その要請に答えている限り当事者のアイドルたちも次のステージにゆくことはできない。現在新しく独立するだろうと言われている人たちは皆アイドルを脱却してセカンドステージのキャリアを獲得している。アメリカの類似事例を見ると、日本の市場が変化を好まない保守的な市場であるということがわかる。よくいえば安定した市場だが「新しい時代の変化に対応できない」市場とも言える。

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