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クリントン候補が使った「ハイル」

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クリントン候補が「アメリカをホールにする」と言って話題になっている。トランプ候補は「クリントンは何を言っているのかわからない。俺の『アメリカを再び偉大にする』の方がいいじゃないか」と批判したようだ。確かに、クリントン氏の「アメリカをホールにする」は意味がよくわからない。
日本語ではこの発言は「アメリカをひとつにする」と訳されることが多いようだ。よく「ケーキをホールで買う」という表現がある。まるまま1つのケーキをホールと呼ぶので、これは正しい翻訳のように思える。だが、辞書でホールの意味を調べてみると「1つの」は第一の訳ではない。第一の訳は「健全な」というものである。傷害がなく健康な状態をホールと呼ぶのだ。
語源を調べてみるとさらによくわかる。ホールはヒール(治癒する)と同根の言葉である。再び健全な状態に戻ることを治癒すると言うのである。さらに興味深いことにこれはゲルマン系の古い言葉にさかのぼることができる。ドイツ語ではヘレン(発音は心許ないが)というらしい。そして、ドイツ語で健全さをあらわす言葉はハイルと言う。あの「ジーク・ハイル」とか「ハイル・ヒトラー」のハイルである。当時のドイツ国民はヒトラーを「欠けがなく完全な状態だ」と称えたのだ。ドイツも欠けがないと考えたのだが、これは戦争に負けて国土を失い財政もめちゃくちゃだったという状態の裏返しになっている。ドイツはそれほど傷ついていたのだ。
クリントン氏は期せずして、ヒトラーと同じことを言っている。つまり、アメリカもまた傷ついているということがわかる。
クリントン氏がどのような意味でアメリカをホールにすると言っているのかはよくわからない。トランプ氏が出てきてアメリカがめちゃくちゃにされるのを恐れているのだとも考えられる。トランプ氏の台頭は不健全さが噴出したものなのだと見ていることになる。
アメリカの経済はおおむね好調だ。企業収益も悪くなさそうだし、失業率も低く抑えられている。にもかかわらずアメリカ人は傷ついているらしい。
人は傷ついたときに「傷ついていて痛い」とは言わないようだ。生存するために力を出すのだ。だが、そのエネルギーがどこに向かうのかはわからない。東西冷戦に勝利したはずのアメリカが何に傷ついているのか、何に負けて、どこに行こうとしているのか、合理的な説明は難しいように思う。