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財務省の為替介入は、ありもしない「ファントム」だった可能性

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為替相場が1ドル150円をつけた後で急激に変動した。「為替介入があったのではないか」とする声がありそれを前提にした報道も見られるようだが「どうやら介入はなかったらしい」という観測も出ている。

すでに知っている人は知っている類の話なのだろうが記事を読むのが面倒だという人のために短く関連記事をまとめておきたい。どちらを信じるかはその人次第だ。

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ロイターが「日銀発表の5日当預予想、ほぼ市場予測どおり 為替介入なしか」という記事を出している。根拠は次のとおり。

 日銀は4日、5日分の当座預金残高の予想で、財政等要因が100億円の余剰になるとの見通しを発表した。民間短資会社のほぼ予想通り。前日のニューヨーク外国為替市場で一時急速に円高が進み、市場で介入観測が広がったが、「データを見る限り、なさそうだ」(市場筋)との見方が出ている。

ちょっとした介入はあったかもしれないがマーケットを大きく動かすような規模ではなかったと仮定すると鉄砲をパンと撃ったらスズメが逃げていったというようなことが起きたことになる。もしかすると鉄砲を撃ったのは財務省ではない可能性もある。これを「ファントム(幽霊)」と名付けたい。つまり投資家たちがスズメのように神経質だったということになる。

実はBloombergも「日本当局、3日に為替介入はしていないもよう-初期データが示唆」で同じ見解を出している。

テレビ報道なら信頼できると思う人もいるかもしれないが「日商会頭「為替介入には遅すぎる」と批判」とあるように「当然為替介入はあっただろう」とする報道も出ており注意が必要だ。日商会頭の発言にはこれといった根拠がなくしたがってこれは現実ではない可能性がある。中小企業の代表者らは「日銀が為替をコントロールしている、あるいはできるはずだ」と思い込んでおり植田総裁に直接為替対策を要望したりしている。この様子を朝日新聞が「円安進行で「中小は厳しい」 大阪経済界の悲鳴、日銀総裁の答えは」で伝えている。

背景にあるのはアメリカ長期金利の高騰だ。金利差が開いていて円資産をドル資産に替える需要がある。FRBは長期金利上昇の原因を突き止められていないがまだ小幅なために対策は講じないという意味のことを言っている。ただ「通常の反応」とは違っているようだ。このようにアメリカでは説明ができない動きが起きている。

通常の動きとは外れているのだからFRBはこれを「オーバーシュート(行きすぎたトレンド)だ」と見ていることになりやがて平常値に落ち着くだろうという含みがあるものと思われるがロイターの記事はそこまで踏み込んでいない。

とはいえ、円貨で投資することの多い日本の投資家が最も気にしているのは日本の株の動きであろう。今の所5日間続落だ。

順番は次のようになる。

何らかの理由でアメリカの金利が上がる。するとアメリカの債権を買う動きが起こり資金が移動する。これが円安に拍車をかける。アメリカの投資家は日経平均をドル建てで見ているのだから為替が円安に動けば含み損を抱えることになる。これでは顧客に説明ができないので慌てて日本の株を売っているというのである。これに期末の「利益確定」が加わった。

詳細についてはロイターの「アングル:「円安は買い」が崩れる日本株、含み損の海外勢に投げ観測も」を参照してもらいたい。「海外投資家の投げ売り」と表現されている。つまり企業業績に伴う売りではないということになる。ただ「投げ売り」だったとすると今後は「持っておくべき株」の選別が行われることになる。冷静さが必要だ。

神田財務官は行きすぎた円安を防ぐために為替介入オプションを温存しておきたいのだろう。だが皮肉なことにこれも先行きの不透明さを生み出している。ドル円がある程度の「ボックス」に張り付いているのも何らかのきっかけで大きく動くのも実は同じ「気分」の反映なのかもしれない。

ロイターの「東京市場トリプル安:識者はこうみる」を見ると次のようなコメントが見られる。市場の環境が激変しており今は多くの機関投資家が手元の資産を整理している。これがある種の「トレンド」を作っている。これから企業業績が発表されるので銘柄によっては買い戻しの動きがあるだろうということになる。

来週の後半あたりから米国や日本で企業決算が始まる。米経済はリセッションに向かうとは決め打ちしにくくなってくる。個別企業の業績を見極める中で、市場は冷静さを取り戻していくのではないか。

今回の記事は為替介入が「ファントム(幻想)」だったのではないかという仮説をもとに組み立てている。仮にこれが正しかったとすれば今の市場はそれほど神経質になっているということだ。さらにテレビ朝日のように「当然介入はあったのであろう」という前提を置いた報道も入り混じっており受け手の側で情報を精査する必要がある。

震源になっているのはおそらくアメリカの長期金利の上昇だがFBRは(おそらくは)平準化を見越して容認の構えである。さらに今後企業業績が発表されると市場にはある程度冷静な判断が戻ってくる可能性もある。

繰り返しになるが、今一度資産を精査した上で手持ち企業の業績などを確認する時間に充てるべきなのかもしれない。

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