おそらくアメリカの内政は興味のある人にか興味のないたぐいの話であろう。単純にCNNの報道を時系列で読んだ。一応BBCもあらましをまとめているがやはりかなりの長文になっている。およそ1日の出来事だが非常に目まぐるしい1日だった。首謀者のゲーツ氏は新しい議長候補者を決めずに走り出したそうだが、途中で支援者たちに「寄付のお願い」もしているという。目立ちたいという私利私欲で動きはじめた可能性が高いが民主党が議長に協力しないことを決めたことで解任が決定的になった。
これでアメリカ合衆国は本予算をめぐる協議ができなくなった。
大統領とマッカーシー議長の間で債務上限に関する取引がなされた。共和党強硬派はこれに反対していたが債務上限は延長された。だが本予算が決まらず9月末ギリギリになって民主党との協力のもとで政府閉鎖が回避された。まるで民主党の議長だと怒ったゲーツ下院議員は議長解任動議に向けて動き始めた。(媒体によってゲーツ・ゲイツと表記に揺れが見られるようだが読み方は「ゲイツ」が正しいそうだ)
共和党の穏健派は「共和党内紛が議会を混乱させれば共和党全体が危険にさらされる」と警告した。議長は民主党と連絡して解任動議を拒否する考えはないと強調した。民主党の代表のハキーム・ジェフリーズ氏も「この際キッパリと共和党の過激な一派と手を切るべきである」と表明し議長とは協力しないと表明した。混乱の原因は共和党の内紛であることははっきりしているため、混乱回避に協力する動機がない。むしろ混乱を拡大させることで共和党の機能不全ぶりが明らかになるのを見越しての非協力だったようだ。
民主党が協力しないことがわかったため、造反者が5人になれば議長が解任できることがわかった。ウクライナへの追加支援が行われるであろうという見通しは議長の積極的な発言にうらうちがある。この時点でホワイトハウスはウクライナ支援の協議がやり直しになると悟った。CNNはカバーしてないがのちにG7首脳には電話で報告があり、このまま議会が再開されなければアメリカはあと2ヶ月しか支援を継続できないということがわかっている。CNNはXの情報やFOXニュースのインタビューなどから造反者の票読みを始めた。
トランプ氏は意外なことにゲーツ議員を非難し解任を支持しなかった。敵は共和党ではなく急進左翼(民主党のことだ)という指摘だ。外から見ていてこれが共和党の支持を減らす行為だと悟ったのだろう。ペロシ名誉議長(民主党)はホワイトハウスに戻らなかった。ファインスタイン上院議員の葬儀が理由だったようだ。
解任動議を行うかの投票が行われ208票対218票で動議は阻止できなかった。11名が投票に参加しなかった。議員らはなぜマッカーシー議長を追放すべきなのかについて討論を始めた。阻止する側は「ゲーツ氏がなぜ新しい議長候補を出さなかったのか」について批判した。議長はこのやりとりを静かに聞いていた。ずっと携帯電話に目を落としていたとされている。
議論の中でゲーツ氏が解任道義の前に資金募集のメールを送っていたということがわかった。ゲーツ議員は「下院の共和党議員の中にはロビイストや利益団体に支持されている人が多い」と反論した上で、有権者に自分を支持するように頼んで何が悪いのだと開き直った。アメリカ共和党は誰のものかという議論は大統領選挙でも交わされるテーマになっている。支持者の中にも「共和党は企業に支配されている」と考える人が増えているのだ。
結局8名が造反し216対210で議長は解任されることが決まった。アメリカの政治史上初めての出来事だった。しばらくしてノースカロライナ州選出のパトリック・マクヘンリー氏を臨時議長にすることが決まった。いざという時のためにマッカーシー議長が非公開で預けていたリストに従ったものだった。CNNは仮議長は議会の休会、閉会、議長指名だけができるとしている。つまりこの瞬間からアメリカの下院は完全な機能停止に陥った。一方でのちにロイターは仮議長は暫定つなぎ予算を決めるかもしれないと書いており報道によって内容にばらつきが見られる。いずれにせよ議長が決まらない限り本予算が編成できないことが確定した。
今後共和党の中で会議が行われる。今の所新しい議長候補は見つかっていない。マッカーシー氏は次の選挙には立候補しない。
マッカーシー議長の在任期間は269日で歴史上3番目に短い下院議長かつ解任された初めての議長になった。最も短い議長は1869年に1日議長を務めたセオドア・ポメロイ氏だった。二番目に短い議長は257日目に飲酒で死亡したそうだ。1876年の出来事だった。
民主党が救済に動かなかったことで超党派で予算編成などを行う考えのあった共和党は「超党派グループからの離脱を検討している」と報じられている。ホワイトハウスは早く次の議長を決めるように要請した。さらに新しい議会指導者が現在のウクライナ支援を激変させるのではないかという懸念の払拭に努めている。
解任されたマッカーシー議長は「気分は最高だ」と述べた。記者会見において穏健な共和党員として民主党と結託することもなくかと言ってフリーダムコーカスと妥協することもなかったと強調した。さらに軍隊に対して「給料は払えません」とは言えなかったと主張した。
さらに今回主導したゲーツ議員が資金集めに今回の件を利用したことを批判し「動機は彼の私利私欲に基づくものだったのだろう」と分析した。英語では「個人的な動機」と表現されている。
マッカーシー氏は新しい議長に立候補することはないそうだが議員辞職は考えていないという。今週の選挙は予定されておらず来週になるだろうと考えられている。繰り返しになるが今の所めぼしい議長候補者はいない。つまり本予算成立がいつになるのかそしてウクライナ支援が継続できるのかについての見通しは全く立たなくなっている。