旧統一教会問題で進展があった。文部科学省が重い腰を上げて解散命令請求を出すようだ。「動きが遅い」という文章を書こうとしたのだが実はそれ以上に大きな問題が持ち上がっている。どうやら解散命令は被害者救済につながらないようなのだ。現在野党が支援者の指摘を受けてあわてて対応法案を作っているそうだがおそらくこれは統一教会問題には適用できないだろう。いったいこれまで与野党共に何をやっていたのだろうかという気がする。選挙で頭がいっぱいになっていて有権者一人ひとりの事情にまで構っていられないのだなあと感じる。これが野党の支持率が低迷する理由になっている。政党ファーストで有権者ファーストではないのだ。
自民党にとって旧統一教会問題を処理する動機は明確だ。支持率低下の原因になった事案なので早くニュースの見出しから消し去りたい。支持率が低下したのは1990年代のワイドショーで統一教会に対して付いたネガティブな印象が残っているからだ。さらに立憲民主党が「対策本部」を立ち上げたことで「政治問題化」を恐れてその存在を消そうとしたようだ。
自民党にとっては「ニュースの見出し消し活動」の一環だったのだが問題を押し付けられた文部科学省も迷走した。
どうやら「解散請求命令を出す以上は却下されてはメンツに関わる」と思い込んでしまったようだ。司法・行政・立法は分かれているのだから「これだけの不法行為があるので宗教法人として認可し続けるわけにはいかない」として司法に判断を委ねるべきだった。だが、なぜか文部科学省はそれをやらなかった。
これまで不法行為の噂を知りながら何もしてこなかったという意味では「ジャニーズ問題」に近い。ジャニーズ問題が露見したきっかけはBBCだったが、こちらの問題のきっかけは有力政治家が殺されたという事件だった。これまでみてみぬふりをしてきたものを直視せざるを得なくなってしまったのである。だがその後も組織のメンツと独自の理屈にこだわり続けた。
そもそも文部科学省は警察のような捜査機関ではない。だから、本来は判断に正当性など持たせようがない。そもうちに「じっくりと時間をかけて会議を重ねたこと」を正当性の根拠にしようと考えるようになる。今回も「解散命令請求」へである。会議は10月12日に行われると伝わっているが「まずは審議会に聞いてみます」というところから始まる。
旧統一教会をめぐる問題で、政府は、教団の解散命令を裁判所に請求する方向で最終調整に入りました。早ければ10月12日に宗教法人審議会を開き、請求について意見を聴くことを検討しています。
ここで被害者救済に携わる人たちはあることに気がついてしまったようだ。
報道には「かねてから指摘があった」と書かれている。解散命令が請求されると当然教団は資産を韓国に移すであろう。すると被害者救済の原資がなくなる。そもそも解散命令が受理されると法人格のある相手と監督官庁が消滅する。つまり被害者弁護団は誰と補償の話をしていいのかわからなくなるはずだ。
オウム真理教の場合は「国家権力に逆らった」ことからテロの枠組みで監視されることになった。後継団体も含めて公安調査庁の監視対象になっている。しかし今回の場合は経済事件なのでテロの枠組みが使えそうにない。そういえば、解散請求後にどこがどのように監視するのかという議論を聞いたことはないなと思った。実は誰も「解散請求後」のことを考えて対策を提案していない。
結局「解散命令を出しましたが被害者救済はできませんでした」というところに落ち着いてしまいそうだ。そこで、立憲民主党と維新はそれぞれ解散命令が請求されたら資産を差しおさえることができるという法案を提出するそうだ。「なぜ今なのか」と感じる。またどうして「両方で1つの法案にしないのだろうか?」とも感じる。
- 解散命令請求受けた宗教法人の財産保全可能にする法案、立憲民主党 臨時国会に提出で最終調整 旧統一教会問題(TBS NewsDig)
- 維新 “旧統一教会の財産 被害者救済費用に保全” 法案提出へ(維新)
あるいはこれもこれまで語られてこなかった視点なのかもしれない。ジャニーズ問題で「被害者救済」と「タレントマネジメント」を分離すべきだという議論がある。そこから延長して考えると当然「被害者救済の受け皿組織がなくなるとそもそも補償問題のカウンターパートがなくなるぞ」と気がつくだろう。解散命令は当然法人の「解散」につながるのなのだから補償の窓口も同時に消失してしまうのだ。
自民党はこの問題を「ネットニュースの見出し消し」問題だと捉えているのだが、野党はおそらく「見出し稼ぎ」だと考えていたのではないかと思う。だが、有権者たちはこれを容易に見抜いてしまう。そこで「自分に関係があるニュースだけ読んでいればいいや」と思うようになり与党も野党も信頼しなくなってしまった。
少なくとも立憲民主党は組織的にこの問題に取り組んでこなかった。有田芳生前参議院議員のように問題に詳しい人もいたが、組織的に取り組み始めたのは「これは与党攻撃に使えるぞ」と気がついてからのようだ。立憲民主党は「被害者救済の当事者から指摘を受けてはじめて」問題に気がついたように書かれている。維新も同時に法案を提出するのだが「立憲に先をこされては困る」と考えているのではないかと思われる。
あからさまに「選挙のことしか考えていない」という印象だ。これが支持率の伸び悩みにつながっているのだろう。なぜ日本の政党が「半歩先の戦略さえ立てたれない政党ファースト」というマインドセットに陥ってしまうのか。その理由がよくわからない。これについてはぜひ政党側の言い分も聞いてみたい気がする。
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