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アゼルバイジャンとトルコ 次の狙いはナフチバン回廊

国際政治というのは残酷なものだと思う。ロシアに傾倒していたアルメニアが国際的に孤立しつつある。アゼルバイジャンとトルコの次の狙いはナフチバン回廊だ。梯子を外されたアルメニアは実質的な救済を得られずナゴルノ=カラバフからの難民が急増している。アメリカとロシアはお互いに避難を繰り返すが具体的なアルメニア救済の見込みは立っていない。

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アゼルバイジャンとアルメニアは2020年に大規模な紛争を引き起こした。仲介に入ったのはロシアだったがウクライナの戦争でアルメニアどころではなくなってしまった。アルメニアのパシニャン首相はアメリカを引き入れようとしたが失敗する。ロシアも動いてくれなかった。ナゴルノ=カラバフの回廊をアゼルバイジャンに封鎖されついには分離勢力の武装解除に追い込まれた。アルメニア側には200人の死者が出たとも言われている。

現在パシニャン首相はCSTOと呼ばれるロシアの安全保障体制からの離脱を検討している。独力で自国を守れるはずはない。アルメニアが期待しているのはNATOとアメリカの援助だ。だがおそらくNATOもアメリカもアルメニアを見捨てるだろう。アメリカは口先ではロシアを避難している。かといってトルコと対立してまでアルメニアを助けるつもりもなさそうだ。

ヨーロッパは天然ガスの供給元としてアゼルバイジャンに期待している。現在ジョージアとトルコを経由したパイプラインがある。このためアゼルバイジャンを敵に回したくない。こちらもロシアの穴埋めをして西側がトルコと対決する構図が作られる可能性は極めて低い。

アメリカ合衆国の態度は極めて罪深い。

アルメニアの訴えに応える形で軍事演習をやっている。また人道支援という名目でアルメニアに使者を送り込んだ。アメリカ合衆国がロシアに代わる後ろ盾になってくれるのではないかと期待しても不思議ではない。

アルメニアにとってはメネンデス上院議員の起訴も計算外だった。メネンデス上院外交委員長は長い間トルコがF-16を購入することに反対し続けてきたが起訴されている間は外交委員長としては機能できない。メネンデス氏は何らかの理由でトルコに敵対的だったためアルメニアの支持者だとみなされていたそうだ。メネンデス上院議員がエジプトから賄賂をもらっていたという疑惑は彼のその他の国に対する支援にも何らかの思惑があるのではないかという疑惑を生じさせ、結果的にアルメニアの救済が難しくなる。

皮肉なことに「アメリカ合衆国が関心を持たない」ことによって地域の不安定化が防がれるという構図がある。アメリカ合衆国がウクライナに関心を寄せるのは地下資源やエネルギーといった紛争後の利権に期待をしているからだ。アルメニアには地下資源がなく、従ってアメリカ合衆国が介入する動機がない。

取り残されたアルメニアの運命は過酷である。ナゴルノ=カラバフの人口は12万人程度と言われているそうだが、アルメニア本国は4万人程度しか受け入れることができない。迫害を恐れるナゴルノ=カラバフの住民は大挙して国境を越えようとしている。もはやナゴルノ=カラバフには彼らの居場所はないと考えている人が多いのだろう。そして、今後はナフチバン回廊を通じてさらにトルコ系に囲まれる可能性がある。

アメリカ民主党の支持者たちの中にはアルメニアを見捨てるのかと考える人たちが出てくるだろう。バイデン大統領が若い民主党支持者たちの評判を気にして形ばかりの人道支援をすればおそらくアルメニアの人々はアメリカの継続的支援に期待することになる。だがバイデン政権は本格的にアルメニアを保護国化するつもりはない。

国際政治とは極めて残酷だなと思う。自衛のために強い大国の気持ちを惹きつけるためにはなんらかの対価を準備しておくべきだということになるし、それが嫌なら自分達で国を守らなければならないと言うことになる。

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