ざっくり解説 時々深掘り

ついに一時149円 円安定着で、ついに一部の大手都市銀行も米ドル定期預金利率を5%台に引き上げ

また円安が進んだ。植田総裁と経済界の対話と不安定なアメリカの政局が重なったのが要因だ。これ以上は極端な円安は進まないものと思われるが基礎的な要因が解消されない限り円安基調は定着しそうだ。そんななかある大手都市銀行の外貨預金の金利引き上げが密かに話題になっている。難しい金融商品を探さなくても最低限5%の金利が付与されるという。塩漬けの円預金を原資にしたアベノミクス時代の終わりを告げる象徴的な出来事といえるだろう。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






また円安が進んだ。きっかけは2つある。1つはアメリカの政局の混乱である。国債の金利が上がり投資家にとって魅力的な環境が作られている。もう1つのきっかけは植田総裁と読売新聞のインタビューだった。読売新聞は円安是正の観点から日銀の動きに期待していた。そのため誘導的に「年内にもマイナス金利を解除するのではないか」という発言を引き出そうとしたようだ。

全くの逆効果だった。

読売新聞の思わせぶりなヘッドラインが生んだ期待は徐々に萎んでゆく。日銀の政策決定会合での植田総裁の発言はかなり消極的なものだった。さらに植田総裁は大阪で経済界と対話したが話がまったく噛み合わなかった。直後、148円の後半まで円安が進みさらに夕方には149円台に乗せた。最終的に鈴木財務大臣が介入を匂わせる発言をしたことで現在は148円台後半に戻している。介入への恐れが最後の防波堤になっている。

今回の円安では日米の金利差が意識されている。アメリカの金利引き上げはもう一度あるかもしれないのだがそれを超えて大幅に金利差が拡大することはないだろう。つまり、今後極端な円安に触れるとは考えにくい。1ドル110円や130円の時に動きを読んでいた人は円の価値の減耗を防ぐことができた一方で「日本はまだまだ大丈夫だ」と考えた人とはその分だけ損をしたことになる。

植田総裁の発言の裏にはおそらく「賃上げは政府の仕事である」という含みがあるのだろう。要は岸田政権がきっちりと春闘に向けて賃上げの環境を整えてくれさえすればいい。だがあまり期待しすぎるのは良くないかもしれない。

根拠はいくつかある。

一つは財界の甘えだ。大阪の財界は植田総裁に「円安をどうにかしてください」と泣きついた。植田総裁は「円安是正のために政策修正をする考えはない」とし議論は平行線を辿った。「植田総裁が冷たい」と批判することもできるが、金融政策を転換するためには財界主導の構造改革が必要という植田総裁のメッセージが全く伝わっていないことがわかる。これでは日銀の金融政策転換は極めて難しいだろう。

このチグハグな会話はすぐさま外信に乗って伝わり一ドル148円台後半というドルの高騰につながった。アメリカ議会が不安定化しており米国債の価格が上下している。現在は議会閉鎖がほぼ確実となっているため米国債の価格が下落傾向にある。結果は高金利ということになるので円安につながるというメカニズムだ。

現在は「150円近辺で為替介入があるのではないか」という恐れだけが唯一の防波堤になっている。結局は鈴木財務大臣の発言がきかっけになり148円台後半まで値を下げた。

もう1つは政治側の気の緩みである。それをよく示す出来事があった。日本版DBSの提出が断念された。性犯罪を防ぐための取り組みの一つである。

ジャニーズの性加害がマスコミの耳目を集めているという事情があり早めに取り組めば票になるのではないかという期待があったようだ。そこでアメリカの制度をコピペしそのまま持ってこようとした。だが闇雲な前科者リストの開示には別の人権侵害の恐れもある。参加者は意見を言うばかりで誰もまとめようとしないため法案検討が頓挫してしまったようである。「人権議論は面倒だし票にならないなら考えても意味がない」ということになったようだ。

現在の自民党には「とにかく手っ取り早く票になる政策をやって目先の選挙に勝ちたい」という期待がある一方で抜本的な改革への気概や面倒な調整をやってもいいと言う議員は多くないようだ。財界や支援者に構造改革を訴えるような気概を持った議員は皆無だ。

日銀は継続的な賃上げが経済の好循環を作ることを期待している。そのためには中小企業の競争力強化が必要だ。一方で政府は抜本的な改革はやりたがらないしそもそも議論しようという気持ちもない。岸田総理は「柱」を示した上で萩生田政調会長に10月に案をまとめるように命じたが野党が「バラマキ」という弥縫策以上のものは出てこないかもしれない。実際に「柱」が提示されも市場はそれを一顧だにしなかった。さらにメディアが取り上げたのは「106万円の壁問題」だけだった。パートがいなくなると困るのでなんとかしてくださいということだけが意識された。誰もパートの給料が急激に上がることは期待していない。だから賃金が月額1万円上がっただけで手取りが減ることだけが問題視されている。

今すぐ植田総裁が望むような材料が出揃うことは考えにくい。

アメリカの高金利基調はしばらく続き日銀も身動きが取れない。だから、当面今の状態が続くのだろうという結論が得られる。

円安が定着したことでネット銀行は都市銀行に対する競争のために米ドル預金の誘導を始めている。今短期米国債を買えばもれなく5%弱の利率が確保される。だが、そんな苦労をしなくても定期預金で半年から1年間預けているだけで5%を約束しますよというネット銀行も増えている。

「なんだもうそんなことは知っているよ」と言う人も多いだろう。

ネット銀行と都市銀行の関係性は、NTT DoCoMo、AU、Softbankと格安SIMの関係に似ている。格安SIMが安い価格でSIMを提供しても岩盤ユーザーである高齢者たちは全くなびかなかった。同じようにネット銀行が安い金利で米ドル預金を提供しても高齢者たちがメガバンクや郵貯から移動することはない。現在97%は円貨で運用されており半数以上は預貯金になっている。日本には豊富に塩漬けされた円預金がありそれが日本国債と政府財政を支えているという構図である。

2023年6月末時点で家計金融資産は約2115兆円にのぼるが、そのうち円貨性資産が約97%(2041兆円)を占め、その中で現預金(除く外貨預金)が約53%(1111兆円)であった。こうしたスナップショットだけを見れば、日本の家計部門の運用傾向が保守的であるという現状はいまだ健在である。

しかし、ついにこのメガバンクにも迷いが出てきたようだ。三井住友銀行がOLIVEという総合型のソリューションを核にしたキャンペーンをやっている。窓口ではなくネットで完結する形の新しい統合サービスである。人件費を削減し手間のかからない若い人を今のうちに取り込んでおこうという戦略だ。CMを見る限り社会人デビューをした人やそろそろ管理職になりそうだというような若い人たちを狙っている。

そんな三井住友銀行がついに米ドルの定期預金をネット銀行並みに引き上げたと一部のテレビ局や新聞社が伝えている。ネット銀行は5%だが三井住友は5.3%をつけている。3ヶ月定期でも3.7%になるそうだ。テレビや新聞で報道されているので、これも既に「知っている人は知っている」程度のニュースかもしれない。

円の価値が53年ぶりに下落したというニュースをきっかけにして「これ以上金利がつかない円で預金を持っていても仕方がないのではないか」という疑念が徐々に広がりつつあるのだろう。

仮にこれが一般に浸透すればこれまで「周りがやっていないから」という理由で外貨預金を考慮しなかった人たちが一斉に動き始めることになるのかもしれない。これは「キャピタルフライト」を引き起こし、金利差とは別の理由で円安の要因となるだろう。だがそうならなかったとしても研究熱心な人とそうでない人の間にはかなり大きな差が開く。

おそらくこうした足元の変化に気がついていない岸田総理は「貯蓄から投資へ」と言い出している。貯金では金利がつかないのだから日本株に投資をしてくれというような狙いがあるものと思われる。だがアメリカの動きを見ると株から債権へというお金の流れがある。

岸田総理が期せずして始めた投資キャンペーンはあるいは岸田総理が考えるのとは全く違った方向に動き始めるのかもしれない。

確かに日本株は割安な状況だと指摘する声も聞く。アメリカの株式市場も転換期にありこれまでみんなが買っていた(したがって割高になっている)半導体株などを手放して今割安になっている株を買いましょうと提案する人もいる。

現在の状況はこれまでの値動きがあまり意味を持たないことを意味している。

つまり今まで株式投資をやっていて大体の状況がわかっている人には大きなチャンスが来ているといえる。だがそうでない人が相場に手を出すと痛い目に遭う可能性も極めて高いということだ。アーノット氏がいう「バリュー(値頃感がある)株」はこれまでの相場を見ていないと判断ができない。

その意味で岸田総理が国民全般に呼びかけている「貯蓄から投資」へのシフトは極めて無責任な提案と言えるだろう。

岸田首相は今年を資産所得倍増元年と位置づけ、「貯蓄から投資へのシフトを大胆かつ抜本的に進めていく」と述べた。それには投資先となる日本企業の魅力を高めることも重要であり、コーポレートガバナンス改革を実効的なものとし、企業価値の向上を後押ししていくと語った。

このブログエントリーは「今すぐ円を売ってドルを買いましょう」と言う内容ではない。だが、これまで国際ニュースはあまり関係がないと考えていた人もそろそろ国際情勢に目を向けるべきだ。

さらに一旦は思い込みをリセットして急速に多様化を始めた銀行や証券会社について情報を集め直したほうがいいかもしれない。ポイントは金利・為替手数料などいろいろある。もう一つ注目すべきなのは「外貨の移動のしやすさ」である。仮に何らかの理由で貯金を投資に回したいと考えた時できるだけ安い手数料で資金を動かせるソリューションがあるかどうかも検討しておいた方がいいかもしれない。意外とサービスによって大きな違いがある。

ネットリテラシーに自信がある人とそうでない人ではふさわしいサービスが違う。ネット銀行の方がサービス面では優れているが、いざ困ったときに問い合わせても数日返事がなかったりする。一方で都市銀行系はサービス面では劣るかもしれないがとりあえず窓口に行けば(あるいは電話をすれば)大体のことは答えてくれるだろう。電話の対応がしっかりしているところも多い。こうしたことは実際に使ってみないとわからない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です