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背教者たちよクリントンの足音を聞け

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今日、関係のなさそうなニュースを二つ聞いた。
一つは黒田総裁がこれまでの説明を撤回したという話だ。これまでは潤沢な資金が市場に回ることで物価が自ずと上がると言っていたのだが、これを撤回して、実質金利が低下するので経済にプラスの影響が出ると言い始めたのだ。つまり物価の上昇という「リフレ派」の目標を事実上撤回してしまった。
リフレ派は既にクルーグマンからも梯子を外されている。クルーグマンは「自分の主張は正しかったが、日本政府はやり方が足りなかった」と言っている。もっともクルーグマンを責めても問題は解決しない。彼はアドバイスしただけで責任を取らないからだ。
もう一つの話はクリントン候補の話だ。日本は通貨競争を起しているので、罰せられなければならないと言っており、報復のために関税を上げると主張している。TPPは関税をなくそうという議論なので何かの間違いではないかと思ったのだが、そうではないらしい。クリントン候補は2015年の10月頃からTPPそのものに反対しているのだ。彼女はTPPの推進者だったのだが「ゴールデンルールに合致していない」との理由で寝返ったのである。
いっけん、つながらない二つのニュースだが、実はつながっている。一般に黒田総裁が金融緩和を行ったのは円安誘導のためだと考えられている。日経インデックスを構成する企業は輸出企業が多いので、円安誘導は株価対策になるのだ。経済に詳しくない人は株価が上がる事が好景気だと考える。
これはかなりあからさまな通貨誘導なのだが、アメリカは黙認した。日本には二つの交渉要素があったと考えられる。一つはTPPで国内市場を解放すること、もう一つは拡大する軍事費の肩代わりをすることだ。だが、クリントン候補は通貨誘導は許さないと言っているわけだ。TPPも安保法制も「日本が自ら望んでやったこと」で為替操作とは関係がないわけだから、日本は文句は言えない。
クリントン氏が円高誘導を許容しないと、黒田総裁は国債の追加購入ができなくなる。最後の引き受け手を失った国債は暴落するだろう。だから、日銀は国債の購入をやめられない。すると関税でアメリカから報復されてしまうのである。そもそも国債の購入にはたいした経済的な意味はない。物価は上がらないのだし、国内投資も増えなかった。
一方、共和党のトランプ候補は「アメリカは中国に1.3兆ドルを借りている。日本にはもっと借りている。彼らは仕事を取り、金を取り、利息まで要求する。その上ドルの価格が上がるのだから彼らに有利な取引になっている」と聴衆をあおり「日本は豊富な年金資金で通貨操作をしているが、オバマ大統領はTPP交渉を通じて日本が為替操作するのを禁止しなかった」とオバマ政権を批判する。トランプ氏にとってTPPとはアメリカが有利な貿易ルールを押しつける手段なのだが、これを「フェア」と呼んでいるのだ。優れた技術力を持ち、一生懸命やっているのにアメ車が売れないのは日本が陰謀を巡らせているからなのだ。
現在の日本の政治状況は米国追随派と左派野党という構図になっているので、どちらもアメリカが態度を変えるだろうなどとは思っていなかった。安保法制さえ通してしまえば、アメリカとの同盟は盤石になり中国に対抗できるという見込みがあったのだろう。ところが、多くのアメリカ人は日本はアンフェアな貿易の競合相手であり、罰せられなければならないと考えているのだ。
いろいろと無理の多かった安保法制とTPPの議論だが、民主党の大統領が誕生すれば、当の自民党が「TPPはやはりよくなかった」と言い出す可能性がある。彼らにアメリカ追随以外の選択肢はないからだ。
いずれにせよ、日本の政治家たちはコピペ政策を取っていたのだと言える。アメリカの望む政策をコピーして実行している限りは自分たちで考える必要がなかったからだろう。さまざまな不整合が生じるのだが、その度に場当たり的な「説明」を繰り返してきた。Twitter民主主義はその場当たり的な説明を総合して考える事はなかったし、英語のソースに当たる事もなかった。
今後、日本人はTwitter民主主義のツケを支払わされることになるだろう。請求書は遅れて届くのだ。


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