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1バレルあたり100ドルも視野に 原油価格が再び上昇の危機

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石油大手シェブロンのCEOがBloombergのインタビューで「原油の価格が100ドルに近づいている」と表明した。ガソリンスタンドを経営する会社のCEOの発言なので、ガソリン価格の高騰を正当化する狙いがあるのだろうと思うのだが、アメリカの経済はこの原油価格の高騰についてゆくことができるのだそうだ。

ただしついて行けるのはアメリカだけである。ヨーロッパと日本は追随できず犠牲になる可能性が高い。さらにガソリン価格が高騰すればインフレが再加速しアメリカの高金利政策が持続する可能性があるほか値上がりに引き寄せられた投機資金が原油に流れ込む「バブル」の可能性もありそうだ。

ガソリン価格や燃料を公費で補っている日本政府にとっては財政悪化にしかならないのだが、石油掘削コストが高いアメリカ合衆国にとってはメリットもある。アメリカは石油価格の上昇によって恩恵を受ける産油国なのだ。

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シェブロンのCEOがアメリカの原油価格が100ドルに近づいていると語った。ただし「景気の足を引っ張る要因ではあるものの、これまでのところ景気は許容している」としてガソリン価格の高騰を正当化している。

実際にシェブロンCEOの予言は当たる可能性があるが、持続可能性は低くやがては落ち着くだろうと見られているそうだ。「90ドル水準は持続不可能に見える」とする観測がある。

アメリカは原油生産国であるため原油の値上がりによって恩恵を受ける。また、インフレが続いているため120ドル近辺までは許容できるだろうという観測すらあるようだ。

ステート・ストリートの欧州・中東・アフリカ(EMEA)マクロ戦略責任者、ティモシー・グラフ氏は原油高による経済への影響について、「欧州は危険水域に入っており、日本もその域に達しつつある」と指摘。原油価格が米経済に打撃を与え始めるのは1バレル=120ドル前後からだとして、「米国のインフレ期待が不安定になる危険はなさそうだ」と述べた。

ただし原油を生産しないヨーロッパと日本にとっては明らかに経済的にはマイナスである。Bloombergの記事はヨーロッパで景気減速の懸念が高まっていると指摘しているが日本もそろそろ危うい領域に入っている。

この先、原油価格が上がり続ければ日本政府の財政は逼迫することになる。現在のガソリン価格高騰の理由は原油価格の高騰と円安だ。投機資金が流れ込み原油の価格が上昇してもアメリカ経済は耐えてゆけるが、ヨーロッパと日本は疲弊しこれが円安とユーロ安につながる。

岸田政権はガソリン価格が175円になるように政府が調整すると言っているのだから、ガソリン価格が高騰すればそれだけ財政が逼迫することになる。しかし補助をやめてしまえば今度は「二重課税をやめろ」との議論が再燃するだろう。原油価格が高値で推移すれば政権の存続にもネガティブな影響が出そうだ。

ガソリン過去最高値を更新 首相 “補助金拡充で175円程度に”(NHK)

現在の水準は持続可能ではないのだから「やがて」落ち着くはずだ。前回の価格高騰を知っている人は「前回も120ドル近くまで上昇したではないか、直ぐにおさまるはずだ」と考えるかもしれない。

確かに今回も「価格が高騰すればやがて需要崩壊するだろう」と言われている。

BOKファイナンシャルのトレーディング担当シニアバイスプレジデント、デニス・キスラー氏は、「原油の上昇は、最終的には需要崩壊につながるだろう。ただ、それが90ドルなのか100ドルなのかはわからない」と述べた。

当初この記事を見た時には、この「需要崩壊」がバブル崩壊に繋がるのでは?と考えた。確かに前回の激しい上下動で投機資金を失った人はいただろうが価格崩壊が波及して経済を混乱させることはなかったようだ。

ただ、前回と全く同じになる保証はない。

2022年に補助金政策が比較的うまくいった理由は二つある。ガソリン価格の高騰が一時的なものであり、なおかつ円の価値は今よりも高かった。仮に前回と同じような推移を辿るのであれば一時一バレルあたり120ドルまで上昇した当時と同じように今回も乗り切れるということになる。だが、もちろんそうなる保証はない。確かに前回の石油価格の高騰は120ドルをピークにしていた。しかしその後価格は下げ止まり、今になってまた上昇を始めている。

原油価格が上昇する背景にはさまざまな思惑もありそうだ。

原油価格は実は1バレルあたり20ドルという時点まで下落したことがあった。サウジアラビアはこのときにはあまり慌てなかったとされている。サウジアラビアの原油掘削コストは安い。割安の石油が市場に溢れればアメリカ合衆国など原油掘削コストが高い国がついてゆけなくなるからである。この時に打撃を受けたのはロシアとアメリカだった。

打撃を受けるのはロシアだけではない。現状の原油価格低迷を受けて、米国の油田サービス会社のハリバートンは、ヒューストン本社の3,500人の従業員について、当面の2カ月間は交互に1週間働き、1週間を無給休暇(健康保険などは支給)とする体制にすると発表した。

もちろん産油国であるサウジアラビアにも原油価格を釣り上げておきたいという動機はある。だが、この状況によって最も大きく恩恵を受けるのはアメリカの石油掘削会社だ。

ヨーロッパと日本にとってはネガティブな影響しかない原油価格の上昇だが、サウジアラビアにとっては高くても安くてもそれなりに恩恵があるということになり、アメリカにとってはある程度高値の状態を維持しておいた方が都合がいいということになる。

だがアメリカの中でも原油価格の上昇、インフレ、金利の高騰によって振り落とされる中間層がいる。中間所得層と労働者によって支持されているバイデン政権にとっては不利に働くのかもしれない。中間所得層が困窮するとバイデン政権の経済政策が悪かったということになってしまうからである。

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