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「大阪万博建設費用が2000億円台に高騰」のニュースの裏で、IR型統合リゾート計画が敗色濃厚なギャンブルになっていた

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大阪万博の経費が上乗せされることになりそうだ。もともと1250億円という予算規模だったそうだが、現在の予算は1850億円だ。しかしこれでも間に合わず秋の臨時国会で引き上げがが検討されているという。2000億円規模だという話になっているそうである。

ここまでは盛んに報じられている。このニュースに関連して「IR(カジノを統合したリゾート)」についても触れておこうと考えたのが運の尽きだった。実はIRがかなり危ない状況になっている。正直「みなければよかった」と思った。

大阪府市が投資をしても最終的に事業者が逃げてしまう可能性があるそうだ。そういう契約になっているそうだ。もはやIR建設自体が巨大なギャンブルになっている。そしてそれは負ける可能性が極めて高いギャンブルである。プレイヤーたちが損を取り返そうと必死になっているからである。

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岸田政権の内閣改造で人事の季節が終わりこれまで積み残しだった政治課題が再び語られ始めた。その第一弾と言えるのが大阪万博だ。これまでの見積もり経費は1850億円だが数百万円程度上振れする可能性が出てきた。背景にあるのは資材の高騰と人件費の上昇とされている。誘致時の経費は1250億円だったが、今は1850億円となり、それがさらに2000億円台に膨らむ可能性があるという。

万博についてはパビリオン建設に関わること自体がリスクだとされており建設業界から協力が得られていない。万博側は苦肉の策として「プレハブのパビリオンを使ってはどうか」と提案しているが出展側の対応はあまり芳しくないようだ。

ここから「公共工事で利益誘導する時代は終わった」などと書こうとした。ただその前にちょっとだけIRについて調べておこうと考えた。大阪万博の開催は費用を賄いきれない大阪経済が国の関与を引き出すための口実に過ぎないからである。自民党(国政)にとっても万博は維新に政策協力してもらうための「バーター」のような存在だ。

調べてから「ああ知らなければよかった」と感じた。もう負ける予感しかしない。

IRはカジノを備えた総合リゾート施設である。モデルになったのはシンガポールやマカオとされている。シンガポールに統合型リゾート施設が開業したのは2011年である。もう10年以上も前の話である。

元々の計画ではカジノは万博前に開業されるはずだった。万博とカジノの相乗効果で集客を狙う作戦だったのだ。ところがコロナ禍であてにしていた中国からの観光客が途絶えたことで計画は頓挫した。その後、建設資材価格の高騰が始まってしまった。さらに今後は建築業界では人材不足が指摘されている。状況は次第に悪化しつつある。

見過ごされている問題がある。中国経済の変化だ。要因は三つある。資産バブルが崩壊しかけており、習近平国家主席が加熱した資本主義型経済を修正しようとしている。さらに富裕層もお金の使い方を覚えてきた。最近の流行りは「豊かな経験」である。このためもう富裕層が大挙してカジノに押しかけるような時代は終わってしまっている可能性は極めて高い。

すでにあるカジノは固定客を掴んでいるのかもしれないが今後新しいカジノを作ってもそこにお客さんが流れてくるかどうかは未知数だ。

そんななか、アメリカのパートナーの姿勢が後ろ向きになってきている。現在カジノ事業を手掛けるのは大阪IR株式会社だ。アメリカのIR事業大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックス他の関西の有力企業が出資をしている。

今のところあまり注目されていないのだが2026年9月までに条件が整わなければ事業者が撤退できる事業前提条件が明記されたと朝日新聞が伝えている。どうしてこんなことになったのか経緯を調べてみた。

まず、2022年3月までに土壌汚染、液状化、埋設物などの問題が見つかった。こうした問題に対応すべきなのは本来は大阪IR社だが大阪市は790億円の決める。一時は黒塗りだった資料は最終的には開示されたそうだが、なぜ大阪市が790円の負担を決めたのかという意思決定の過程は全くわからない。とにかく事業者を繋ぎ止めるのに必死のようだ。

しかしこれでもまだ本当に事業が開始できるのかがわからない。事業協定の判断が9月末にずれ込んでいる。

府・市と大阪IR株式会社が結んだ基本協定では、同社が区域整備計画の認定後90日以内にIRを開業するかどうか最終判断するとしていた。ホーンバックル氏は8月2日の会見では延期について言及しなかった。

アメリカのMGMにとって大阪の最大の魅力は中国から近く中国の政治リスクを避けられるという点だろう。だがそもそも中国の需要がなくなりつつある上に、行政の仕事の進め方は「ぐだぐだ」だ。とても魅力ある投資先と思えない。

だが、MGMが撤退しカジノ構想が瓦解すればそもそも万博をやる意味がなくなり維新の構想は崩壊してしまう。維新と自民党が協力するプロジェクトがなくなれば中央政界にも影響が出る。憲法改正などで維新は自民党に協力姿勢を見せておりこれが野党分断に役立っている。事業計画ではなく政治的思惑にがんじがらめになっている。

確かな理由はわからないものの、大阪府市は解除期限を2026年まで先延ばしした。とりあえず万博期が終わるまで最終決定の期限を延長したのだ。

ただその間にも行政側の投資は続く。夢洲へのアクセスのための道路などのインフラ工事にも多額の費用がかかる可能性があるそうだ。全体では1兆円ほどの支出になるのではないかなどと言われているようだが全容はよくわからない。

仮にMGMを引きつけようとして国や大阪府市がインフラ整備を進めてもMGMは合法的に撤退する権利を保留している。撤退を先延ばしすればするほど投資が無駄になる可能性が高まる。「MGM撤退」のニュースが流れた時点でインフラ整備費用は一挙に埋没費用化してしまうだろう。だが政治的な思惑に縛られているため「もうやめましょう」とは誰も言い出せない。

昭和行動経済成長期の日本政治は「発展途上国型」だった。海外からの成功事例を研究した上で利益分配をするというやり方だ。だがそのためには各所に説明をして納得してもらう必要がある。カジノの場合シンガポールが成功したのは2011年である。そこから検討を始めて現在に至る。とにかく意思決定に時間がかかりすぎる。

このように、文化的構造的な問題を分析することはいくらでも可能なのだが、今そんな話をしても仕方ないのかもしれない。

大阪府市と日本政府のやり方は下手くそなパチンコプレイヤーに似ている。隣(シンガポール)の「フィーバー」をみて自分もゲームを始めてみた。だがなかなかフィーバーにならない。おそらく掛け金が足りないのだろうとしてコインを突っ込み玉を買ってゲームを続けている。これまでの損を取り返さなければとして頑張れば頑張るほど勝てる可能性は低くなる。そんな状況にしか見えない。

IR法が制定された時、マスコミは「ギャンブル依存対策」が重要だと書いていた。だが、状況を見る限り、そもそもの国自体が「大規模リゾート開発」というギャンブルに依存しているようにしか見えない。この「大規模リゾート開発」もバブルの崩壊で各地に廃墟をもたらした昭和の遺物だ。日本の政治は発展途上国型のメンタリティから抜け出せていないのかもしれない。

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