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土木建設の人手不足で日本の発展途上国型利益分配モデルは大きな変更を余儀なくされる

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これまでの自民党型の政治の基本は利益分配だった。製造業で稼ぎ、政府が税金を徴収した上で全国でインフラ開発を行うというような分配モデルである。民主党が政権を取った2009年には公共工事悪玉論などが盛んに吹聴されたが自公政権が復活すると「国土強靭化」という名前で公共事業が復活した。この流れに後から乗ろうとしたのが維新の大阪万博構想だ。だが、この発展途上国型の統治戦略は早晩成り立たなくなりそうだ。公共工事を発注しようにもそれを受ける企業が地方に残らないかもしれない。建設業界では人手不足が始まっている。

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2023年年度の予算案において公共事業関係費は6兆円に上っている。そのうち「国土強靭化」は4兆円だ。公共工事は悪であるという認識が広まったため「防災・減災」という名目で予算の組み替えが行われた。

ところがこの戦略はもう成り立たなくなるかもしれない。地方から公共工事の担い手が消えてしまうかもしれないのだ。帝国データバンクが職人不足で建設業の倒産が増えていると書いている。

建設業の倒産増に歯止めがかからない。当初は物価高の影響だったが最近では職人の高齢化も増えてきた。さらに建築士や施工管理者などの資格を持っている人たちが待遇面の不満から独立し工事の受注ができなくなっている。建設業の7割が人手不足を感じているそうだ。さらに2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用される。比較的条件が高い都市に人が流れてゆくため地方では家が建てられない事態が多発するものと思われる。

人手不足は全国的に広がっているようだが、大手・準大手はなんとか対策ができている。つまり都市部ではそれほど深刻な影響は出ないかもしれない。

戸田建設は広瀬アリスさんをCMに起用したそうだ。ゼネコン大手が盛んにテレビCMを打って人を集めている。大成建設などの大手だけでなく西松建設、熊谷組などの準大手もCMを盛んに出している。戸田建設にとって特に刺激になったのが奥村組の人気だそうだ。俳優の森川葵さんを使ったCMが好評なのだという。戸田建設の社長は「うちはそこそこ名前を知られている」との考えていたが、採用担当の女性若手社員が「社長が考えているほとに認知されていません」と会議で訴えた結果、社長の考えが変わった。

積水ハウスは大工という名前があまりスタイリッシュではないという理由でクラフターという名前に変えた。また工事責任者の30代の給与を500-600万円台から最大900万円にする計画を立てているそうだ。さらに週休二日制の徹底や男性育休率100%を目指すなどの待遇改善も行う。大和ハウスは大工を自社雇用していない。下請けに補助金制度を導入する他、オンライン技能教育を実施するなど下請け企業の若手社員の教育をITで支援する。

このように大手・準大手で改革が進むと追随できない中小・零細が振り落とされてしまう。

この影響をまともに受けたのが大阪万博である。さまざまな要因からパビリオンの建設が進んでいない。準大手以下が英語で交渉できないとか建築資材が高騰しているなどの理由があるようだが「そもそも職人がいない」という問題は深刻で根本的な解決策がない。この問題に対処するためにはプレハブによる省力化などの思い切った施策が必要だ。SDGに対応した次世代型の万博というコンセプトが打ち出せればいいのだがプロデューサに当たるビジョンを持った人がいないためいまだに次世代型のコンセプトが出ていない。令和の大阪万博には堺屋太一がいない。

維新はおそらく民間の金で大阪湾の埋立地を整備してそこにIRを誘致しようとしたのだろう。だがこうした発展途上国型のビジネスモデルは崩壊しつつあると言って良い。2005年に行われた愛知万博はトヨタ自動車が全面的にバックアップに入ったといわれているそうだ。「遅れてきた発展途上国型」である維新は急速な時代の変化に対応できなかったのだろう。

特に自民党の支持母体には土木や建設の人たちが多い。大きな団体としては全国土地改良政治連盟と日本建設業連合会があるそうだ。ただ最近では宅地建物取引士や賃貸住宅経営など規模の小さな業界にも裾野が広がっているという。土地改良政治連盟とは聞きなれない言葉だが農地を保全するための灌漑などを行う「農の公共事業」を行う団体だ。全国に4700の土地改良区があり370万人の組合員がいるという。

確かに利益分配型の政治基盤は日本の政治状況を安定させるのに大きく寄与してきた。だが同時に構造改革を難しくしイノベーションを阻害している。土地改良区のような旧態依然とした業界はイノベーションを目指すよりも政治に依存して予算を増やしてもらうことで「これまで通り」の暮らしを守ろうと考えるだろう。この結果として構造改革に失敗し変化に対応できなくなるのだということがわかる。

ただこれだけで日本の統治機構が崩壊するということにはならなかった。少子高齢化が進み先行きのない企業に人が集まらなくなることにより一気に変化が加速している。政治に依存する団体は収益力を徐々に悪化させ次世代の働き手たちに支持されなくなっているのである。

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