Appleの株価が大幅下落している。理由は既にご存知の通り中国での口づてによる使用禁止通達である。iPhoneの使用が中国で禁止されるのではないかなどと言われており影響がどこまで広がるかが未知数なのだ。Bloombergは2日で30兆円近くが消えたなどと報道している。
Appleの株価が一時的に割安になっていると感じる人もいるだろうが、経営陣が中国依存脱却の方策を示すことができなければそのまま沈み続ける可能性もある。改めて中国リスクの大きさが理解できるサプライズとなった。
Appleは8月初旬に発表された業績が思わしくなく株価が下落していた。今回の「中国初の噂」はそれに拍車をかけることとなった。突然政府方針が上から降りてくるという中国リスクだ。
- アップルが3四半期連続減収、7~9月も不振続く見通し-株下落(Bloomberg)
最初に報道が出たのは9月7日だった。CNNとBloombergはウォール・ストリートジャーナルが発信源であると言っている。ウォール・ストリートジャーナルの情報源は管理職から職員に対する通達(グループチャットや会議での通達)だったそうだ。書面や公式発表ではなく通達ベースで上からの指示が広がることがわかる。
通達はもともと機密部門で使用が制限されていたiPhoneの使用禁止範囲を政府機関や国内企業に広げると言う内容だった。アップルの売上高の19%は中国が支えている。また中国はアップルの重要な生産拠点だ。政府が公式に発表したものではないためどこまで禁止が広がるかは未知数だ。疑心暗鬼が広がっている。
- 中国中央政府、職員のiPhone使用を禁止 米紙報道(CNN)
- 中国、iPhone使用禁止を国有企業や政府部門に拡大目指す-関係者(Bloomberg)
この噂は消えず9月8日になっても株価は続落した。Bloombergによると時点では30兆円ほどが2日で吹き飛んだ計算になるそうだ。当初の記事タイトルは「時間外取引で下落」となっており開けてみたら株価が大幅下落していたということになった。9月5日から見ると189ドルから171ドルに下落した。「アップルは中国に依存し続けている」という声や「過大評価しすぎだ」という声がある。元々が噂ベースでどの程度禁止が広がるかが読めないため影響が未知数なのだ。
- アップル、30兆円が消える株価続落-中国がiPhone締め付け拡大か(Bloomberg)
いくつかの考察ポイントがある。まず第一は投資家としての目線である。中国ショックによって株価が沈んでものちに株価が回復する可能性がある。9月に恒例の新製品発表イベントがあるためだ。
今年はiPhone 15/iOS 17がどんな製品になるのかに注目が集まるほか、機能が刷新された(主にOSの刷新が期待されている)Appleウォッチの発売があるのではないかと言われている。中国ショックが落ち着き新製品が投資家の気持ちを引きつければ当然株価は回復するだろう。
ギズモードジャパンはiPhone 15以外の新プロダクトについて予想している。ちなみに9月13日は日本時間だ。またヨーロッパの要請に対応したUSB-Cポートがどのような影響を与えるのかにも注目が集まる。ギズモードは標準機種がUSB2.0(通信速度が遅い)になるのではないかとの懸念を伝える。
ただしもちろん「大した新製品が出なかった」としてがっかりされるリスクもある。
ではプロの評価はどのようなものか。ゴールドマン・サックスはアップル株の5のリスクについて書いている。
- iPhone 15 発表直前、ゴールドマン・サックスが指摘するアップル株の5つのリスク(Business Insider)
今回はこのうち2にあたるサプライチェーンの混乱が株価にダイレクトな影響を与えたことになるのだが経済環境の悪化が株価に更なる影響を与える可能性が指摘されている。つまり製品が株価に寄与する影響よりも外部環境の変化や経営方針に一定の懸念があるようだ。
アメリカと中国はこのところ外交的に緊張した状態が続いている。バイデン大統領が中心となりサプライチェーンの見直しを進めているためだ。排除される側の中国の反発は長い間予想されていたがこれといった動きはなかった。今回のiPhoneに関する「噂」にたいして「いよいよ報復が始まったから中国に依存してきた会社は覚悟すべきだ」とする声がある。
外部環境の変化といっても中国に起因するものばかりではない。例えば、アメリカの市場にはいくつかのリスクがある。議会と大統領が折り合わないことで政府の閉鎖があるのではないかと言われているほか、最高裁判所がブロックした奨学金返済免除プログラムの返済が10月から始まるとされている。加熱した経済を抑えるために金利が引き上げられ「不況(リセッション)」があるのではないかというハードランディングシナリオもまだ囁かれている。いうまでもなくリセッションに対する懸念を抱えているのはアメリカだけではない。ヨーロッパや資産バブルが行き詰まった中国の消費が上向く兆候はない。
- 学生ローンの返済免除認めず 米最高裁、政権に打撃(日経新聞)
既に何度もお伝えしている通り市場の反応はかなり複雑だ。アメリカの経済指数は根強いインフレ圧力を示唆している。つまり経済が好調だということだ。だがこれが株価の上昇に結びつかない。しばらく利下げが行われないのではないかという懸念があるためだ。歴史的に金利が高い状態が続けば景気後退局面に入る可能性がある。
Appleは裾野の広い会社である。例えば村田製作所の株価も大きく下げた。つまり中国の報復が続けばその影響はアップルだけでなく多くの部品供給会社に波及する可能性がある。
一方でドルは上昇を続けているのだから株に代わる何らかの投資先があることになる。歴史的に金利が高い状況が続いているため米国債などの債権が「買い場である=この先利下げがあれば価格が上昇する」という期待があるためだだろう。若干古いが昨日のNY概況はこんな感じだった。日本時間の7日に出ているので6日の情報だ。魅力をましたアメリカの債権が現在の金利差の要因になっている。
- NY市場サマリー(6日)ドル一時6カ月ぶり高値、株下落(ロイター)
- NY株、続落 利上げ長期化を懸念(時事)
一方で、アップルは10億人を超えるiPhoneユーザーを抱えている。このユーザーに対して自社のサブスクリプションサービスを提供することができるため、ハード依存を減らすことができるのではないかと期待する向きもある。
もともとアップルはアップルコンピュータという会社だったのだが主力商品のMacの比率を下げiPhoneの会社として飛躍した過去がある。2017年にはこのような記事が出た。ゴーグル式のAR装置を提案するなどしてこの路線は現在も継続中だ。
- 「iPhoneの終わり」を準備しているアップル(Business Insider)
なお蛇足ではあるが、ドル円相場は財務省の為替介入が警戒されている。現在は1ドル147円という比較的高い状態で推移しており手元に米ドルのない人にとってはやや割高な状態と言えるかもしれない。