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岸田総理をトップとする「デジタル行財政改革の新しい会議」が開く新しいパンドラの箱

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政府のデジタル化というと「そんなものは実現しないのでは」とあまり期待をしていない人が多いのではないかと思う。だが岸田総理はデジタル改革こそが支持率向上の目玉政策だと考えているようだ。これまでの会議体を束ねる新しい会議体が新設される。岸田総理の力強いリーダーシップの元で地方の事務基盤の強化を狙うが会議体の上に会議体を作ってもさらに混乱するのでは?という冷ややかな見方がある。総理直属だけあって50人ほどの大所帯になるそうである。まさに鳴り物入りだ。

ただこのデジタル改革会議は新しいパンドラの箱を開けることになるだろう。地方側の準備が全く整っていない。この問題は専門誌などでは盛んに報道されているが地上波や新聞の政治報道に反映されることはない。

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産経新聞が誇らしく<独自>と報道し、他のメディアも追随している。産経新聞は前向きだが疑問を持っている媒体もある。

岸田総理は地方行政の不効率こそが「デジタル敗戦」を招いたと分析する。そこで自らのリーダーシップの元新しい会議体をつくりこの国の行政事務を画期的に改良したい考えである。

これまで国は「指示する存在」だったが、これからは「支援する」存在に変わろうとしている、と岸田総理はいう。論の立て方も分析も悪くない。

6月の記者会見で「国を頂点とする上意下達の仕組みを、国がデジタルによって地方を支える仕組みに転換する」と表明し、デジタル技術の本格活用で国と地方の業務分担を再整理する考えを示していた。

ただし、その内容には不安も残る。

既に岸田総理は3つの会議体の長を務めている。それが「デジタル臨時行政調査会」「デジタル田園都市国家構想実現会議」「行政改革推進本部」だ。この上に岸田総理がトップを務める会議体を作る。つまり会議が増えるだけになる。「屋上屋を重ねる」との表現がぴったりだ。そこに財務省、総務省、経済産業省のほか、デジタル庁から人を集めて50名以上の規模になる大きな組織を作る考えである。当然「会議が増えて混乱するだけでは?」とか「デジタル庁と何が違うのだ?」という疑問が出てくる。産経新聞は「担当閣僚」と書いている。船頭がまた増える。

さらに岸田総理のスローガンはいつも掛け声倒れに終わる傾向が強い。留任が噂されている麻生副総理は「新しい資本主義はまだ試行錯誤だ」と言っている。円安によるインフレが進行し実質賃金が下がり続けているにもかかわらずまだ「実験」を続行するつもりのようだ。岸田総理は改革好きではあるが実行力に乏しくその内容もよくわからない。連合と経団連に賃金アップを働きかけたことだけが具体的な成果と言えるが、日銀は中小企業の稼ぐ力が復活しない限り継続的な賃金上昇はないだろうと見ている。

マスコミは「会議や組織が増えてややこしくなる」ことを懸念している。だが、実務に関する関心はそれほど高くないようだ。実は政府は既に自治体システムの標準化をやろうとしている。菅政権時代に始まった「自治体システムの標準化」だ。地方自治体を所管する総務大臣を務めた菅総理の悲願だった。だが、これがうまくいっていない。

現在の構想では1700のシステムがバラバラに運用される可能性があるほか、2023年年初になっても「仕様書がいつ固まるか」まだよくわからないという報道があった。さらに全ての地方自治体が一斉にシステム改修を始めるので人員が足りなくなる。現在は要件定義ができる人が不足していて見積もり費用が高騰しているそうだ。そもそも担当者がいる自治体ばかりではない。デジタル担当の職員がおらずベンダーに任せきりというところも少なくない。

マイナ健康保険証の問題を総括すると、地方自治体のやる気のなさ、前のめりで改革を進める政府に対する苛立ちと焦り、全国一斉に事業を進めたことで人手不足が生じマニュアルを遵守しなかったこと、そもそもの人材不足、目標ありきの強引な進め方で不具合が処理されなかったことなどの要素が浮かび上がる。だが、同じことがまた繰り返されようとしている。

さらに言えば、強引な連結そのものも混乱材料になる。全国の健康保険組合のデータベースをバラバラのままで統合しようとしたことがマイナ健康保険証の問題をうんだ。健康保険組合のデータベースは1%ほどの不完全なデータが残っている上に、地方自治体が作った中間サーバーへの転記ミスなどの「ヒューマンエラー」も多発した。マスコミがこの問題を取り扱うことはあまり無くなったが、資格確認証の職権による発送という問題はまだ解決しておらず、具体的なシステム構想もない。いずれは解決されるだろうが、問題を分析してから取り組めば防げたミスだろう。

ミスが起きてから慌てればいいではないかとも思うのだが、地方自治体のシステムが混乱すればおそらく健康保険証どころの騒ぎではなくなるだろう。それをわかっていて特攻するのが果たして良いことなのか。考え込んでしまう。

ではこれをどう解決すべきなのか。

まず地方自治体の意識を変革し改革をリードする若手の職員を育成する必要がある。さらに地方行政実務と最新のIT技術に詳しい民間のSEを育てる必要もあるだろう。そのためには、若い世代が果敢にチャレンジできる体制を作らなければならない。

しかし、日本は思い切った発想を持った人たちをことごとく潰しアメリカのGAFAに遅れをとってきた。変化を拒み現状に甘んじる姿勢が「デジタル敗戦」を招いたと言って良い。

こうした反省なしにデジタル敗戦の克服は難しい。だが、政府は新しい会議体を作って総理大臣が奮起を促せばデジタル改革が前に進むと考えているようだ。まず刷新が必要なのは政府の硬直した「会議重視」のマインドセットなのかもしれない。

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