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国民総防衛の現実 ウクライナも世界も厳しい状況に置かれている

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ウクライナ情勢に関心がありますか?と問うと日本の世論調査では8割か9割ほどの人が「はい」と答えるそうだ。また年初の日経新聞の調査では「生活に悪影響が生じても支援を続けるべきだ」とする人が7割を超えるという。おおむね「民主主義という正義」を専制主義という悪から守るための戦いであるという了解があるからだろう。

だが、当然ながら現実はかなり厳しい。ウクライナの現状について分析した報道をまとめた。雨垂れ式に色々な報道が流れてくるが改めて整理してみると実に色々なことが起きていると思う。

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まず総論を書く。南部では反転攻勢の効果が出てきたという報道がある。一方で東部はかなり苦戦しているようだ。支援する西側からも「ほど良きところで停戦してはどうか」という話が出ては消えている。ゼレンスキー大統領は焦りを募らせており国防大臣を更迭し戦況の立て直しを図っている。このままでは総動員をかけたにもかかわらず国土の一部がロシアに奪われるということになりかねない。できるだけ有利に交渉を進めるためには目ぼしい成果が必要だ。

ゼレンスキー大統領は2期目を目指す

ゼレンスキー大統領は来年任期が切れるため、2期目を目指して出馬表明をした。もともと2期目は目指さないとしていたがその公約を破棄した形にになる。これまで最前線で国民と共に戦ってきたのだから「このままでは終われない」という気持ちがあるのだろう。

だが、そもそも混乱した戦時下で大統領選挙が行えるのかという議論もあるという。クリチコ・キーウ市長も出馬を検討しているとされているが、ゼレンスキー氏はクリチコ氏をライバル視し押さえつけようとしているというレポートがある。ここでは詳しく触れないが「ゼレンスキー氏も蓄財をしているのでは」という情報も散見される。情報戦の可能性もあるために周辺情報は拾わなかったが西側から多額の支援が流れていることはたしかだ。それなりの誘惑はあるだろう。

戦況の立て直しを図るため国防大臣を更迭

再選を確実なものにするためには西側の支援を受け続ける必要がある。そのためには西側の疑念に答えて汚職を撲滅する必要がある。8月に徴兵事務所の責任者たちを全て解任したのに続き、国防大臣が更迭された。レズニコフ国防大臣には早くから不正の噂があったがこれまで処罰の対象にはなっていなかった。なぜ今の時点で更迭が決定されたのかは不明だ。後任のウメロフ氏はタタール系で汚職撲滅と西側諸国との関係改善が期待されているという。ただしレズニコフ氏はイギリス大使に指名される可能性があるという。仮に汚職が原因であれば単に罷免されていたはずなのだから「汚職疑惑」という報道は正しくないのかもしれない。イギリスは表立ってロシアを刺激したくないアメリカの気持ちを代弁するような動きをすることが多い。つまり、駐英大使は極めて重要なポジションだ。

汚職疑惑はなくならず、国民も戦争に疲れている

そもそも戦争に行きたくないという人もいれば、戦場の過酷さに耐えられない人も出てくる。こうした事情があり「お金を出しても兵役から逃れたい」とする人たちが出てきたとしてもウクライナ国民を非難することはできないだろう。

日本では怪我をしても戦場に復帰したいとする兵士たちの様子が報道されることが多いが、徴兵逃れも増えている。

国内の汚職撲滅も大きな課題だ。ウクライナ保安局はコロモイスキー氏を詐欺と資金洗浄の疑いで起訴した。ゼレンスキー大統領は国民のしもべというコメディ番組で人気が出た。この番組を放送したのがコロモイスキー氏の所有するテレビ局だった。つまりゼレンスキー氏が知名度を得るきっかけになった恩人のような人だ。

国民に戦争を強いておいて支援者だけを特別扱いするわけにはいかない。大統領選挙を控えた大統領にとって「恩人」を切ることは厳しい決断だったのかもしれない。

南部では「ブレークスルー」報道もあるが、東部はかなり苦戦している様子

南部線線では「ブレークスルー」報道も出ている。少なくともウクライナ側は戦果を強調している。見出しだけでははっきりしないので内容を読んで「南部のことを言っているのか」「頭部のことを言っているのか」を見極める必要がある。

ウクライナ側は一時的にクリミア半島に上陸したとも主張している。

ウクライナの反攻ペースについては批判がある。アメリカではウクライナに対する支援疲れが出ておりバイデン政権に対する攻撃材料になっている。バイデン政権としては支援に見合う成果は出ていると宣伝したいのだが状況を打開するまでにはなっていない。このためアメリカ側の戦況報告はかなり複雑なものになっている。進展はしているがさらに支援が必要だという表現である。

もちろんウクライナ軍がサボっているわけではない。もともとアメリカ式の戦略がとられていたのだが、訓練に時間がかかるうえに「ウクライナの伝統的な戦争のやり方に合わない」ということになった。ところがこの戦略変更は消耗戦になる。特に東部では死者数が増えているという。厳しい情勢が窺える。

なぜこのような複雑な報道になるのか。ウクライナは苦戦を強調することによって更なる支援を引き出したい。しかし戦線が膠着しているという印象がつくと「このまま和平を目指してはどうか」という声が高まりかねない。NATOの事務総長の側近が「和平交渉をすればNATO入りの可能性がある」とサウンディングして大騒ぎになったのがその一例である。事務総長はのちに「和平入りのタイミングを決められるのはウクライナだけ」として騒ぎを打ち消さざるを得なくなった。

ただアメリカに関してはさらにもう一つ別の側面がある。アメリカが「ウクライナの勝ち」をコントロールしたがっているという疑いがある。

ウクライナのアメリカに対する疑念も高まっている

ウクライナがアメリカに対して疑心暗鬼に陥っているのではないかとする報道も見られる。アメリカ合衆国は「ウクライナの勝利がほど良きところで収まってくれる」ことを願っているのではないかというのである。

ロシアを刺激せず、新しい軍事大国にならず、アメリカの保護国に止まってくれるくらいの「勝ち方」をしてくれればいいという考え方だ。これを裏打ちするようにNATO入りも望んでいないのではないかと指摘する人がいる。NATO入りが認められなければアメリカの保護国にできる。第二次世界大戦の後で日本が連合国の支配下に入らずアメリカのGHQに統治されたのと同じ構図だ。戦後を睨んだバイデン大統領の議会交渉家的な性格によるところが大きいだろう。投資をできるだけ効率的に回収したいと考えていても不思議はない。

ただこのコントロールが裏目に出る可能性も否定できない。それが「暴発」の危険性だ。

染み出す戦線と高まる暴発の危険性

ウクライナ領土内では一進一退を続けるウクライナだが次第に攻撃がロシア国内に向かっている。このほど攻撃を受けたプスコフはエストニアやラトビアに近くウクライナ国境から700キロメートル離れている。

アメリカは当初ロシアを刺激することを恐れてこうした攻撃にネガティブな反応を示していた。ところがロシアが激しく反発しなかったのを見て徐々に容認の姿勢に転じているという。ただ、ロシアの反応は遅れてやってくる。これはプリゴジン氏の件を見ても明らかだ。

ロシアへの攻撃が強まると当然ロシア側は態度を硬化させるが反応はすぐには現れない。核弾頭が搭載可能なICBM「サルマト」が実践配備された。ICBMはウクライナに対する牽制だろうと考えていろいろな記事を読んだのだが「欧米を牽制する」となっているものが多い。つまりアメリカなどに向けて核兵器の引き金に手をかけていることになる。

西側の首脳から時々「今のまま領土を妥協して和平交渉に臨んでは?」という提案が出る。これに焦ったウクライナ側は西側の抑止を振り切って交渉に有利になるようにロシア領内に過激な攻撃を仕掛けかねない。当然、ロシアが「西側の本音はロシアの体制転覆なのだ」と考えると核攻撃の可能性を検討することになる。ただ、すぐに反応することはない。用意周到に準備が整った「良きところ」でいきなり「どかん」と攻撃するのがロシア流である。突然の攻撃の方が衝撃が大きいからだ。そしてロシアの矛先はウクライナではないのかもしれない。

そもそも今回の紛争は「さすがにロシアはウクライナを侵攻するようなことはないだろう」というところから始まった。つまりこの戦争において「さすがにこれはないだろう」というものは何も存在しない。

あくまでも全ては可能性の問題であり確かなことは何も言えないのだが、戦況が膠着し「千日手」状態になるという保証はどこにもないのである。

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