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アメリカ雇用統計の結果円高に触れるはずが、結果は146円台に沈む

アメリカで雇用統計が発表された。雇用情勢が若干悪化してきており利上げは打ち止めになるのでは無いかとの観測が出ている。事前の円相場は様子見だったが利上げが打ち止めになれば円高に触れるはずである。だが現在の円相場は1ドル146円台である。

事前の観測では説明ができない動きになっている。今後専門家からどのような分析が出るのか要注目だ。特に短期的な動きなのかそうでないのかは注意しておいた方がいいのかもしれない。

これを書いて数時間後にロイターから解説記事が出た。つまりいったん「雇用統計が悪化している」という統計が出たが、統計は悪化しているがアメリカ経済は堅調ということになり、一転してドル高に触れたのだという。

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金曜日のドル円相場は145円台で推移していた。アメリカの雇用統計の結果が悪ければFRBの政策に効果が出ていることになる。当然利上げ政策にも影響があるはずだ。そこで雇用統計を待とうということになっていた。

結果「失業率が上がり賃上げが鈍化している」という結果が出た。これは景気減速のサインだ。まず先物が利上げ終了を織り込んだという記事が出て、次に株も利上げ停止観測が出た。

当然、これ以上日米の金利差は広がらないということになるのだから、円高の方向に作用してもおかしくない。このためニューヨークでは一時円を買う動きがあった。理論通りの展開だった。

ところが現在円相場はそうなっていない。146円台で推移している。かなり急激な揺り戻しがあった。これを書いた時点では分析はでなかったので原因不明と書いた。しかしその後で説明を正当化するように後付けの説明が出てきた。第一印象で円高(ドル安)に触れたものの、その後冷静に判断したところ「それほど悪くないぞ」ということになったといういささか苦しい説明だ。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのチーフ投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏は「今日の雇用統計は投資家にとって最高の結果をもたらした。労働市場は米連邦準備理事会(FRB)に利上げを停止させるに十分なほど軟化していると同時に、景気後退を防ぐのには十分なほど堅調だ」と指摘した。

このようにアメリカの金融政策は次々と出てくる指標に振り回されている。さらに「金利は長期間高いままだろう」という観測も出ている。経済成長率が高ければそれだけ「中立の利子率」も高くなる。だから、高金利の状態が続くことになる。経済が停滞すればさすがにドルの勢いも削がれるはずだが、高金利が続いてもアメリカ経済が過度に減速しているという証拠はない。だから株価は上昇した。そういう流れだ。

すると結果的に日本円の低金利ぶりが目立ってしまう。そういう構成である。

アメリカの金利は高く投資家には魅力的な条件が続く。経済も悪くない。「では日銀はどう考えているのだろうか?」ということが気になる。元審議委員の白井さゆりさんがこのような分析をしている。白井さんは既に外に出てしまっているためかなり気楽な立場だ。

  • 現在の物価上昇は概ね円安によるものだ。賃金上昇によるものではない。これは日銀の中村豊明審議委員と同意見である。
  • 日銀の植田総裁は状況をコントロールできなくなっており早晩10年債利回りのコントロールができなくなるかもしれない。ゼロ金利政策を放棄したことになるのだから短期金利のマイナス金利は解除するのが合理的である。
  • 円安は輸出商品の価格につながり株式市場に良い影響を与えるのだから日本政府は今の為替水準を容認するだろう。

この文章が読める人はそのまま読んでもらうのが良いだろう。読めない人向けに意訳も含めて翻訳すると次のようになる。

現在の物価上昇は円安によるものだ。賃金上昇の効果は高が知れているし政府主導で賃金を上げようとしても効果はないだろう。だが、輸出企業にとっては交易条件が改善するのだから政府にとっては悪い話ではない。おそらく政府は今の水準を放置するのではないか。植田日銀総裁は状況がコントロールできなくなっている。今ある状態に関しては「もうしょうがないや」と諦めて今のゼロ金利政策を早晩放棄することになるんじゃないだろうか。

「金融語」で話しているためこの発言が騒ぎになることはないだろうがおそらく政治家が同じようなことを言えば大騒ぎになっていただろう。国民生活は円安を受け入れて今より貧しい条件で働く必要があるが、企業業績は上向くと言っている。今回の「雇用統計は悪化したがアメリカの経済を脅かすほどになっていない」という条件も確かに日本の企業にとっては有利な条件である。

実際に企業業績はプラスに転じた。本業というよりはそれ以外の収入が貢献している部分の寄与が大きい。つまり営業利益ではなく経常利益で収益が拡大している。今の政権の支持基盤が無党派ではなく企業であると考えれば確かに政府には今の政策を是正する動機はない。

財務省が1日発表した4~6月期の法人企業統計は、金融・保険業を除く全産業の経常利益が前年同期比11.6%増の31兆6061億円だった。2四半期連続のプラスで、四半期ベースで過去最大となった。

一方で円安による物価高の影響で実質賃金は落ち込み個人消費が低迷している。

日銀の現在の見通しでは物価上昇は腰折れすることになっている。おそらく政府主導で賃金が上がるなどとは信じていないのだろう。

現在の日本人は政府批判を嫌うため過度の岸田政権の批判は控える。だが、現在のガソリン対策は国民から徴収した6兆円を使って割高なガソリンを買わせているだけの政策だということになる。当然、その分の支出に対しては後から請求書が回ってくる。一方で企業の利益は極めて順調に推移していおりGDP自体の伸びは好調である。つまり企業業績は国民経済を素通りしている。本来ならば消費税やガソリン諸税などを軽減してバランスの調整を図るべきだがおそらく岸田政権はそれはやらないだろう。自民党を脅かすような野党がないため岸田政権が無党派層に配慮する理由がない。

鈴木財務大臣はガソリン諸税や消費税を下げると買い控えの原因になると指摘し週刊誌などで反発されていた。一度つかんだ既得権は絶対に手放したくないということなのだろう。

景気が減速しなければこのまま原油の値段も高止まりする。日本の通勤者や運送業者などは引き続き高いガソリン価格を甘受することになる。そしてそれを税金で補填させられることになる。政府は「政府の恩恵で安いガソリンが供給される」と宣伝するだろうが原資は国民の負担だ。

NY原油、85ドル台 9カ月半ぶり高値(時事通信)

投資という観点からは「おそらく今の金利が開いた状態はしばらく続き日本政府もこれを容認するのだろうな」と考えておいた方がいいのかもしれない。春先に専門家のアドバイスを聞いてドルを買っていた人にとっては大きなチャンスだ。比較的安定しているアメリカの国債の利率が上がっている。

全ての円資産が今すぐ壊滅的な危機を迎えるとは思えないが「一つのバスケットに全てを入れない」という原則は徹底しておいた方がいいかもしれない。既に円の価値は20%ほど減価している。つまり全く利息がつかない円預金の価値は対ドルで減価してしまっているのである。ライフプランを考える上で、短期的な動きに振り回されるべきではないのだろうが中長期的なトレンドは見ておいた方が良さそうである。幸いなことに今はドル建で株式や債権を買うことができる選択肢も増えている。

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