中央アフリカのガボンでクーデターが起きた。情報が少なくクーデターが成功したのかどうかはわかっていない。旧フランス植民地で3年で8つのクーデターが起きたとする報道があるが、西アフリカのクーデターとは少し状況が違っている。西アフリカのクーデターはロシアの影響などが指摘されていたが中央アフリカにはそのような影響はない。純粋にマクロン大統領のアフリカとの「関係正常化」によって一連の「流行」が起きていることがわかる。
ガボンで大統領選挙が行われた。選挙に勝ったのは55年この国を支配している一族のボンゴ大統領だったが選挙には不正があった可能性が高い。国際選挙監視団は大統領選挙にアクセスができなかった。大統領選挙の直後にはインターネットが遮断され夜間外出禁止令が発令されていた。選挙後に一定の反発が起きることを予め予想していたことになる。だが結果的にボンゴ大統領を倒したのは大統領の親衛隊にあたる人たちだった。
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フランスがこの地域から撤退しつつあることで、旧フランス領ではクーデターが一種の流行のようになっている。今回の動きは西アフリカの流行が中央アフリカに伝播したこと伺わせる。
ガボンの国民所得がそれほど低くない。森林が豊富な上に石油産出国でもある。岩手県と青森県を合わせたくらいの国土に200万人程度の人々が暮らしており石油で得られる恩恵は国民にある程度分配されていたようだ。さらにサヘル地域から遠いためイスラム教徒があまり多くない。したがって西アフリカ諸国のようにイスラム過激派の脅威はない。
共通点もある。通貨はCFAフランだ。CFAフランはフランスに通貨の半分をリザーブしておくことが求められている。このため本来なら国土インフラの整備のために使える資金がフランスに吸い上げられるというデメリットがある。ただし、CFAフラン自体には強さがありフランスからの製品を比較的安く買うことができるというメリットもあるとされている。西アフリカのCFAフランはECOという独自通貨に置き替わる予定だが、中央アフリカのCFAフランにはそのような動きはない。
クーデターの成否はまだよくわかっていない。首都はクーデター派に制圧されたようだ。大統領の警備隊長だったオリギ氏が「暫定大統領」の宣言をした。最も近くにいた人たちが大統領を裏切ったことになる。
監禁されているとされるボンゴ大統領は支持者たちに支援を求めていたが、街中には「解放」を祝う市民たちが溢れている。ただし西アフリカで見られるようなロシアに対する期待はない。ワグネルがこの地域には浸透していないことがわかる。ロシアの影響でクーデターが起きたと言う従来のフランスの主張はここでは当てはまらなかった。
ニジェールの軍事政権はフランス大使に国外退去するように求めている。ついに軍政府は警察にフランス大使の追放を求めた。マクロン政権はこの決定に抵抗していてフランス大使はニジェールに留まったままである。ガボンが今後フランスに対してどのように対応するかはまだよくわからない。
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マクロン大統領は3月に旧フランス領を訪問し「アフリカに干渉する時代は終わった」と宣言していた。
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「戦後」生まれのマクロン大統領には「フランスはこれ以上アフリカの保護者ではいられない」という気持ちが強かったのだろう。フランスの力の限界を認め対等なパートナーとして経済協力ができるような体制への転換を目指していたようだ。
しかし少なくとも西アフリカではロシアとの競争に負けて勢力圏をロシアに奪われる形になった。ヨーロッパ版のポリティコはウクライナには多額の援助をしているにもかかわらずアフリカとの関係を縮小させていると指摘している。強い苛立ちを感じる。
ある意味でフランスはアフリカのしがらみから解放されることとなったわけだが、フランスの地域に対しる影響力は大きく削がれた。2期目で選挙がないマクロン大統領は自分の考えを押し通すつもりなのだろうが、今後保守派からの反発は激しいものになるのかもしれない。
- Macron: ‘New era’ in economic, military strategy in Africa(AP)
- Macron’s Africa reset struggles to persuade(Politico)