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金権政治の復権と資本主義への疑い

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朝からすごいものを見たなあと思った。日本を元気にする会の松田公太議員が自著の宣伝をしている。Amazonの政治家ランキングで第三位になったということである。二位を見て驚いた。宝島社から出ている田中角栄語録だったからだ。一位は隠れていたので誰だろうと思ったのだが、菅官房長官に関しての本だった。正直げんなりした。
田中角栄といえば金権政治家として知られている。バブル期の後半あたりから自民党金権政治への批判が強まり、後の政権交代と再編につながった。マスコミが大いに叩いたせいもあるだろうが、ワイロを貰っている政治家への拒絶反応は大きかった。金権政治家は健全な資本主義を歪めると考えられていたからだ。
だが、甘利事件の世間の反応を見る限り、人々は政治家の口利きを許容するようになっているようだ。
一方で、起業家への憧れのようなものは薄らいでいるのかもしれない。ITバブルの時代にはイノベーションとかアントレプレナーシップという言葉にはまだ憧れの響きがあったはずだ。しかし、20年も経済が停滞すると(日本だけGDPが全く成長していない)「もう成長なんかできないかもしれない」という雰囲気になるのだろうか。本のタイトルは「愚か者」というらしいのだが、公務員か大企業に残らないなんて本当に愚か者だなあと思われている可能性すらある。「まともな政治家は自民党にいるべきだ」くらいのことを思っている人もいるかもしれない。寄らば大樹志向が強いのではないだろうか。
田中角栄は金権政治の象徴だったのだが、新潟にとっては大恩人だ。新潟に真っ先に新幹線が通ったのも田中角栄先生の政治力のおかげなのだ。頼った政治家には援助(まあ、お金のことなのだが)を惜しまなかったという話もあるらしい。「金権政治」という評価と「情に厚い政治家」という評価は表裏一体のものといっても良いだろう。これは賄賂ではない。新潟を発展させるために泥をかぶったのだ、ということはできるし、企業にとっても政治献金は良い投資だとすらみなされている。資本主義は歪むかもしれないが、大企業はもっとえげつないやり方で儲けているんだろうと言われれば反論は難しい。
日本列島改造を提唱したビジョナリストという言い方も、まあできなくはない。
田中角栄先生の作ったビジョンは今も受け継がれている。高速道路や橋さえできれば地域が再活性化すると信じている地域も多い。大阪にはリニアを引けと主張する政党もあるし、自民党の磯崎先生のように四国新幹線(大分が結節点になるということなので、東九州新幹線も前提になっているのだろう)を勝ち取ろうと主張する政治家もいる。冷静に考えれば日本の人口は減ってゆくのだから、これ以上のインフラはいらないが、一度染み付いたビジョンから脱却するのはなかなか難しいようだ。根底にあるのは資本主義への疑いだ。東京が繁栄しているのは優秀な資本家がたくさんいるからではない。新幹線や高速道路がたくさんあるからなのだ。国がたくさん投資したから、東京の繁栄があると考えてしまうのである。
他国が経済成長できているわけだから、日本だけができないはずはない。だから、「自らが変わって共に成長を目指そう」という主張を持った政治家が出てきてもよさそうだ。しかし、現実には単なる理想論だということになり支持を集めない。資金がこれだけ潤沢にあるにもかかわらず投資先(これは意欲のある起業家がいないということを意味する)がないということと考え合わせると、資本主義の終焉を経験しつつあるのかもしれない。シュンペータ先生だったらどんな本を書くのだろう。