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BRICSが6カ国を加えて11か国体制に 「西側にとって面倒な経済的かたまり」が誕生

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BRICSがエチオピア、エジプト、アルゼンチン、イラン、UAE、サウジアラビアを加えて11ヵ国になる。サウジアラビア・UEAと敵対関係にあったイランが同時加盟したのが特徴である。また大統領選挙目前のアルゼンチンも含まれており「本当にこのまま実現するのかな」という気持ちがあるが、仮にこのまま実現すれば産油国地域での中国の影響力が増すことになる。アメリカ(特にバイデン政権)の外交失点であり習近平国家主席の外交的な得点となった。

いくつか周辺事情をあたらめて列記してみたのだが実に面倒なことになりそうだと思う。日本は産油国を抑えられ各不拡散体制も事実上崩壊したといえるのではないだろうか。安全保障上の危機だが岸田政権と外務省がこの情勢変化にキャッチアップできているとは思えない。

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今回のBRICSのテーマは参加国の拡大だった。このためBRICSが拡大することは特段ニュースではない。APが長めの記事を書いている。サウジアラビアの加盟は予測されていたがサウジアラビアは最後まで条件面で渋っていたようだ。一方でイランの加盟は予想されていなかったという。BRICSが管理する銀行にサウジアラビアとUAEが出資することが予想されるという。

和平仲介者としての中国

日本では台湾有事を通じて世界秩序の挑戦者だと信じられている中国だが実際の国際戦略は違っている。新聞報道を鵜呑みにするのは構わないのだが実はそうではなくなっていると頭の片隅に入れておくのも重要だろう。

中国はおそらくこれまで和平仲介者としての役割を担ってきたアメリカの地位を簒奪しようとしている。これがアメリカの指導力の源泉となっていると気がついているのだろう。さらに基軸通貨の地位も狙っているだろう。実際に米ドルは基軸通貨としての地位を失いつつある。サウジアラビアがBRICS入りしたということは今後の動向は産油国が握っているといってよさそうだ。

特にサウジアラビアはバイデン副大統領に冷たくあしらわれてきた過去があり「アメリカに一泡吹かせてやりたい」と考えていた。このような事情があり2023年の春にイランとサウジアラビアの間に電撃的な和解があり世界を驚かせていた。

中東調査会は次のように表現する。中国、サウジアラビア、イランは「価値観が同じ」お友達関係ではなく、一種の取引関係にある。

見方を変えれば、イラク・オマーンという周辺国の仲介では今次合意に至らなったことになるが、これはサウジ・イラン側が、中国に名誉を与えることを選んだ結果だと言えよう。すなわち、域内において最も根深い、世界中が注目する、米国も解消できない対立を中国が取りまとめた、という物語をセットすることである。中国としては、一帯一路構想に基づいて中東進出を進める中、軍事・安全保障分野において米国に取って代わる意図はないと思われるが、こうした名誉の獲得は、米国の安全保障の傘下で湾岸地域で安全にビジネスをする、という従来の方針を一層後押しする要素となろう。

これまで一帯一路で中国単独でやってきた中国だが「G7と対抗するためにはこちらもブロックを作った方がよい」と考えたのであろう。

週刊誌で引退が噂されている麻生副総裁は「台湾のために戦う覚悟が必要」との見解を披瀝している。確かに台湾付近のシーレーンは重要だが、根本から産油国を抑えられてしまっては全く意味がない。アメリカ追従で独自の外交戦略を持たない日本外交の欠点も露呈したといえる。日本を取り巻く環境は変化をし続けているが高齢化した日本の政治家はキャッチアップできていない。おそらく部課単位で行動する外務省もこれまでの人脈と組織に縛られて状況の急激な変化にはついてゆけないだろう。新しい状況に対応するためには外から新しい人を連れてくるしかないが「生え抜き主義」の日本の官僚にはおそらくそれはできない。

おそらくプーチン大統領の不在も中国の一人勝ちに貢献

今回プーチン大統領はBRICS首脳会談を欠席した。ICCから逮捕状が出ているため会議に出席できなかったのだ。このことも中国の一人勝ちに貢献したことは間違いがない。説得すべきライバルを一人減らすことができた。あとは拡大路線を懸念するインドと南アフリカを説得すればいい。インドは中国との間に領土紛争も抱え拡大には厳格な基準を設けるべきだとしているそうだが、結局習近平国家主席の対G7戦略に押し切られることとなった。南アフリカは西側と敵対関係になることを懸念しているが、結局アメリカとの関係が険悪なイランが加盟することとなった。

西側がプーチン大統領を追い詰めてくれたおかげで習近平国家主席は中東やウクライナで「仲介者」という地位を手に入れた。だから、習近平国家主席がプーチン大統領と同じように台湾を無慈悲に踏み潰すという従来の主張の根拠はいよいよ薄弱なものとなった。西側がよほど追い詰めない限りそのような手段を取る必要はない。

核不拡散体制の事実上の崩壊

もう一つのポイントは日本にも直接影響がある。それが核開発に関する問題だ。

ウラン産出国であるニジェールでクーデターが起きた。これまでフランスに流れていたウランがロシアに流れ込む可能性がある。そしておそらく今回イランが産油国と結びついた経済圏に入ったことでイランの経済制裁の効果は失われ(さすがにG7はサウジアラビアを切れない)核開発が進むことになる。西側が主導してた6か国協議の体制はトランプ政権で撤退したことで止まっていたが、今回のイランのBRICS入りで事実上失われたと言って良いのではないだろうか。中国とロシアが米・英・仏抜きで主導的にイランの核開発をコントロールできるようになる。イランはロシアに無人機や弾薬を供与しているのではないかという疑惑も囁かれている。

おそらく日本のマスコミはこの点に触れないだろうが、日米韓が経済制裁を使って核開発を封じ込めるという作戦は「事実上終了」したと言って良い。また、経済制裁を通じてロシアを弱体化させウクライナの戦争を終わらせるというG7の戦略の効果も薄くなるのではないだろうか。今後の専門家の論評を引き続き注視したい。

中華式闇鍋経済が広がる危険も

前回、中国の土地バブルについて観察した。この時に中国経済はバブル依存となっており企業の破綻処理もうまくいっていないためゾンビ企業が横行していると書いた。政府が作った下地に対して無数の企業がイナゴのように群がるというようなことが繰り返し行われているかなり乱暴な経済を中国は「資本主義」とみなしているようだ。

一帯一路でも同じようなことが行われていた。秘密契約が多いため経済が破綻してもIMFが再建整理できない。スリランカなどはそれが原因で国家デフォルトを起こした。

今回はブラジルがアルゼンチンにたいして「米ドルが準備できないならブラジルの管理下で人民元決済をしてはどうか」とアルゼンチンに提案しているそうである。アルゼンチンは西側のパリグラブ諸国との間で債権処理を済ませたが、その後に経済担当の大臣が辞任していた。借金の整理が終わった途端にまた放漫財政の圧力がかかったのではないかと思われるのだが詳細はよくわかっていない。

米ドルがダメなら人民元を頼ればいいじゃないというような安易な代替策が提供されてしまうと西側のアルゼンチンに対する債権が回収できなくなる可能性がある。ブラジルとしてはアルゼンチンを自分達の配下に組み込み地域大国化を目指したいのだろう。イギリスは「ブラジルも国連の常任理事国になるのがふさわしい」と称賛してブラジルをつなぎとめようとしていたが、今回のBRICS会合でルラ大統領は国連を批判したそうだ。

なおアルゼンチンは大統領選挙を控えている。現在は中央銀行を廃止して米ドルと暗号資産で行くべきだという候補が暫定一位になっている。このためアルゼンチンがこのままブラジル経済と統合してゆくのかについてはしばらく「経過観察」が必要だ。

東西冷戦時のように西側と東側が完全に分離していればいいのだが、現在はそうなっていない。西側諸国もBRICS諸国に投資していて消費市場としても期待している。さらにサウジアラビアのように切っても切れない産油国も入っている。BRICS全体に中華式闇鍋経済が広がれば世界経済は大混乱することになろうが、産油国の石油が裏打ちになっている限りはそれが潰れることもない。つまりゾンビ化が拡大することになる。

おそらく今回の拡張の件はそれほど大きなニュースにはならないのだろうが、色々と可能性を考えただけで実に面倒臭いことが起きているという気がする。

習近平国家主席がわざわざ台湾有事を引き起こしてプーチン大統領のように国際非難される道を選ぶ合理性はない。それよりもずっと面倒で厄介な塊ができつつあり、アメリカを含むG7はそれに十分に対抗できていない。今回列挙したことの多くはあくまでも可能性の問題だがG7が手を打てておらず日本の政府と政権が急激な変化に対応できていないということだけは事実である。

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