あまり注目されていないが国民民主党が代表選挙を行なっている。維自民党に接近するか、非自民勢力の結集を目指すかという路線対立選挙と言われている。玉木雄一郎氏は自民党に接近し補完勢力を目指そうとしている。NHKはこれを「与党との協調を排除しない」と言っている。前原誠司氏は非自民・非共産での結集を目指すという。これを前原氏は「新しいビジネスモデル」と言っている。政党が「ビジネス(営利)には知るのか」と言う疑問はある。
テレビ東京のインタビューを聞きつつ考えてみた。前原氏は民主党時代が忘れられず、玉木氏は単独で政党として成立するのを諦めたのではないかそんな気がする。
- 国民民主党 玉木氏・前原氏 激突 ~ロングインタビュー版~(2023年8月21日)テレビ東京・YouTube
現在国民民主党の代表選挙が行われている。テレビでは全く盛り上がっていないがネットではそこそこカバーされていると言った状態である。現在の国民民主党の政治的地位がよく現れている。地上波で取り上げてもらえないと全国政党になれないそんな状況だ。現在の国民民主党の国会議員は衆参合わせて21名である。選挙制度の前にそもそも選択肢になれないというジレンマを抱える。
前原氏の発言の是非について議論する前に国民民主党の現在の議員構成を見てみたい。最も大きな塊は労働組合系である。労働組合の組織率が落ちているためこれ以上の広がりが得られそうにない。前回の参議院議員選挙では落選者も出た。組織票を代替するために無党派層を取り組まなければならないという状況にある。
現在の議員構成
労働組合系とその他
労働組合系
浅野哲(茨城5区)日立製作所社員時代に労働組合の役員を務めそのまま政界に。地盤は日立市、高萩市、北茨城市、那珂郡。
同じように労働組合の支援を受けている議員には浜野喜史(電力総連元会長代理)、古本伸一郎(自動車総連)、濱口誠(自動車総連)、礒崎哲史(自動車総連)、川合孝典(UAゼンセン)、田村麻美(UAゼンセン)、竹詰仁(東京電力)がいる。浅野以外はいずれも参議院比例区選出。日立市などの極めて例外的な土地を除けば労働組合だけでは当選者が出せなくなっていることがわかる。前回の選挙では落選者が出ている。労働組合の政治的地位が相対的に落ちているのだ。
その他
もっとも多いのはその他に分類される人たちだ。無党派層に支持を広げなければこれ以上の勢力拡大は望めそうにないという人たちが多い。経歴はさまざまである。
- 伊藤孝恵(参議院・愛知)元テレビ大阪記者
- 大塚耕平(参議院・愛知)元日本銀行職員。名古屋市長選挙に出るために参議院議員は辞職予定。
- 嘉田由紀子(参議院・滋賀)元環境学者。
- 榛葉賀津也(参議院・静岡)元菊川町町議。
- 舟山康江(参議院・山形県)農水官僚。
- 斎藤アレックス(比例近畿)松下政経塾出身。
- 鈴木敦(比例南関東)
- 鈴木義弘(比例北関東)
- 田中健(比例東海)みずほ銀行から太田区議を経て東京都議。
- 長友慎治(比例九州)
「無党派層の支持を広げなければ」単独政党として成立できないという立ち位置だが、単独政党化を諦めれば延命はできる。今回の代表選挙は親自民と非自民・非共産路線の対立と言われるのだが実態は極めてシビアである。
地盤が固まっている人たち
一方で地盤を固めている人たちが4人いる。自民党系の支援を獲得した2名(地方出身)と都市近郊型2名という構成になっている。代表選を争うのはこのうちの2名である。
自民党の地盤が中心になっているが自民党から立候補しなかった人たち(2名)
- 玉木雄一郎(香川2区)大蔵財務官僚出身。予算編成に携わる主計局主査を経験した後、民主党から立候補したが、地元では大平正芳家の支援を受けていると言われている。
- 西岡秀子(長崎1区)自民党総務会長などを務めた西岡武夫の娘だが自信は民主党後任から立候補。
都市近郊型
- 前原誠司(京都2区)松下政経塾から京都府議会議員に。地盤は京都市左京区、東山区、山科区。
- 古川元久(愛知2区)大学在学中に司法試験に合格し大蔵省に。地盤は名古屋市の千種区、守山区、名東区。
無党派層のニーズとは
ここでは視点を変えて無党派層のニーズについて見てみたい。
官軍感情を満たす
まず一つ目の選択肢は官軍感情を満たすというものだ。国政においては地方の自民党支持者がこれにあたる。また「ネット保守」という人たちもこのカテゴリーに入る。実際に分配ができなくなっているため「イメージ」で取り込むしかない。地元野球チームのない地方の人が巨人軍を応援したがるというようなニーズである。
無関心とスパイト化
一方で、スパイト政党として生き残るという選択肢はある。つまり何かにつけ与党に反対をしていればいい。現在の立憲民主党はあきらかにこの戦略をとっている。つまり、前原代表がこのニッチを目指そうとしても立憲民主党と差別化はできない。
実はこの構図は珍しいものではない。55年体制の社会党支持者たちにも「与党に与したくない」という人たちはいた。さらに憲法改正を阻止するために2/3を取らせてはいけないと考える人たちもいた。その意味では日本の政治はかつての体制に戻りつつあると言えるのかもしれない。
官軍感情を満たしつつ対抗勢力も取り込む
しかし55年体制と現在の政治状況は少し異なっている。
大阪府市では自民党は守旧派とされている。この守旧派との対立構図を煽りヘゲモニーを取ると権威に乗りたい人たちを味方につけることができる。維新は中央と地方で2つの顔を使い分ける。
大阪は地元では「自民党には好き勝手させない」というメッセージを維持しつつ、中央では「是々非々」で自民党に対応している。だが大阪では与党で国政では与党に対峙する野党という立ち位置をとる。
玉木雄一郎氏の「是々非々戦略」を実現するためにはヘゲモニーを握る地元が必要になる。玉木氏にはこのヘゲモニーがない地盤的広がりがないため表現に苦労している。単に数が少なくなってしまったために自民党に擦り寄っているという印象を与えてしまうのだ。
政権交代が「絵空事」になってしまった
野党がスパイト化するのは政権交代が絵空事になってしまったからである。玉木雄一郎氏は「政権交代はロマンだがそのロマンい付き合う余裕はなくなっている」と政権奪取願望を切り捨てる。2009年の民主党に熱狂した人たちを含め継続的に将来の政権政党を育てようという有権者は日本では現れなかった。
すると労働組合から支援されている人、自民党系の地盤を引き継いでいる人、自分で地盤を確保している人などを集めて自民党の補完勢力として活動した方が「ラク」ということになる。前原氏は「玉木氏では党勢拡大は望めない」と言っているがおそらく玉木氏にはそんなつもりはないだろう。
今後自民党政権は増税などの嫌なこともやらなければならない。その時だけは逃げつつ(閣外にいる限りは党議拘束などの制約を受けない)生きてゆく玉木路線の方がラクということになる。国民民主党を組合系議員の当選互助会と考えると玉木氏の路線こそが現実を冷静に捉えていると言える。
玉木氏は積極財政出動路線を訴える。前原氏は本気で玉木氏の積極財政路線への傾倒を心配しているがおそらくそれが現在の宏池会系の政権で実現することはない。このため玉木氏は具体的な政策について踏み込んだ説明をしていない。
実際に玉木氏は過去に自民党の予算案に反対しなかったことがあった。だが、現在は自民党には減税努力が足りないなどと言っている。都合のいい時だけは乗り都合の悪いことには近寄らないという「曖昧戦略」に傾倒している。
ただしこうした曖昧な延命戦略をとっているのは国民民主党だけではない。自民党には無所属・清和会という非主流の人たちがいて同じような戦略を取りつつある。国の不利益分配が必要になるとそれに距離を置きつつ恩恵だけを得ようという人たちと「どうせ恩恵が得られないなら妨害してやろうと」いう人たちが政権外に増えるのである。
国民は選挙制度を変えることはできないので、この選挙制度で勝てなければ政治への参加意欲を失い「棄権」か「スパイト」を選択することになる。
前原さんには別の野望も?
現在の前原氏は玉木氏の積極財政政策を批判し旧民主党的な国民再分配提案を積極的に推進しているように見える。これは選択肢としては非常に苦しい道であると考えられる。国民の間に世間が取れない政党への期待などないからだ。
だがこれを額面通りに取るべきなのか。疑問も残る。
前原さんには維新と合流するのではないかという観測が出る。つまり、維新を自民党に代替できる勢力だとした上でそこに入り込み維新の政策に影響を与え可能であれば乗っ取ってやろうくらいのことを考えている可能性がある。カリスマを見つけて合流し実質的に影響力を行使しようという「工作」は希望の党で失敗した戦略だ。
前原氏は大臣経験者だが玉木氏は前原氏の下で政調会長補佐を経験したに過ぎないそうだ。この野望を見ていると「民主党政権」という時代の記憶の甘さがどれほどのものであったのかということがよくわかる。やはり一度大臣を経験してしまうと「もう一度そこに帰りたい」と思ってしまうものなのかもしれない。さまざまな政権工作に失敗し続けている小沢一郎氏に通じるものがある。
一方で玉木氏にそのような甘い思いではない。この経験の違いこそが2人の間の決定的な違いなのかもしれない。